エチレンと腐ったミカン(江頭教授)

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 エチレン、C2H4という分子は炭素間の二重結合をもつ最も簡単な分子として有機化学でも最初の方に出てくるおなじみの分子です。そんな簡単な分子が植物のホルモンだ、と言われると少し変な感じがします。なんとなくホルモンは複雑な分子である様な気がしていたのですが……。まあ、これは私の勝手な思い込み。ホルモンという名前は分子の持つ機能から付けられた名前ですから別に構造とは関係ないですよね。

 さて、このエチレンのホルモン作用はバナナを熟成させることに利用されているのですが、実は他の果実も熟成させる効果があるのです。例えばミカン。ミカンもエチレンによって熟成させることができます。でもミカンの出荷前にエチレンによる熟成処理などは行われていません。ミカンは熟れてから出荷されるものですから逆にエチレンにさらされると熟成が加速されてその先に行ってしまう。つまり腐ってしまいます。ですからミカンの流通、保存ではなるべくエチレンを避けたいのですが、残念ながらミカン自身からもエチレンが発生しています。それも、ミカンが腐るとき大量のエチレンを発生させるというのです。

 これは困った状況です。たくさんのミカンを一緒に置いておく場合、中のミカン一つが腐るとそこからエチレンが発生。周りのミカンの熟成も加速され、これも腐ってしまいます。そのミカンからもエチレンが発生しますから、さらにエチレンが増えてもっとたくさんのミカンが腐ってしまいます。

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バナナとエチレン(江頭教授)

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 今回のお題はバナナ。前回に引き続き果物のお話です。と、言いたいところなのですがバナナは果物でよいのでしょうか。バナナは確かに植物の実ではあるのですがバナナという植物は草なので野菜というべきなのでは、という意見もあるようです。実際、日本ではあまり見られませんがバナナの原産地である熱帯では野菜として調理するためのバナナというものもありますよね。

 子ども時代を思い返すとバナナはほかの果物、リンゴやミカンとは少し違っていたような。何しろ「酸っぱいバナナ」というものに出会った記憶がない。常に甘い、というのがバナナの大きな魅力だったように思います。酸味がないというのはバナナの本来の特徴なのでしょうが、ほかにも日本に輸入されるときの扱いもバナナが甘い理由の一つでしょう。バナナはまだ緑色のものが船で輸送されるのですが、あとで温めて熟成させるのです。日本で店頭に並ぶバナナはみんな黄色く熟れていて、そして甘い。もっとも、加熱する手間のせいもあるのでしょう。バナナは果物としては高価でなかなか食べる機会がない。たまにしか食べられないけれど確実に甘い果物、それがバナナなわけです。

 さて、最近はどうでしょう。酸っぱいミカンが少なくなってどのミカンも甘い、という現状では「必ず甘い」というバナナの価値も特別なものではなくなったのでしょうか。最近のバナナはとにかく安い。「バナナのたたき売りか!」と思うほど安価に売られています。

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酸っぱいミカンはどこへ?(江頭教授)

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 冬になったらコタツにミカン。というわけで、今年もミカンの季節がやってきました。買い置きのミカンを一個むいてパクリ。

いやー、甘くておいしいな。

と、冬恒例のイベントですがふと思うところが。

おっと、無警戒に食べていたけど、これが酸っぱいミカンで無くてよかった。

それ以前に

そう言えば酸っぱいかもしれない、なんて全く考えずに無警戒で食べていたぞ。

そもそも、酸っぱいミカンを食べたのはいつ以来のことなんだろう?

そうなのです。ここ最近、酸っぱいミカンというものに出会ったことがない。どのミカンを選んでもみんな甘くておいしいので、それが当たり前になっていたのでした。

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熱の伝わり易さ、電気の伝わり易さ(江頭教授)

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 少し前の記事なのですが物質毎の「熱の伝わり易さ」についてこちらの記事で紹介しました。「温度勾配 1℃/m に対して1秒当たり1J(つまり1W)の熱が 1 m2 当たりに流れるような物質の熱の伝わり易さ」を「熱伝導度が1 W/mK だ」と表現するのですが、この基準でいろいろな物質の「熱の伝わり易さ」つまり「熱伝導度」を調べると0.01未満から1000を超えるところまで実に5桁、10万倍以上の変化を示す、という話です。

 素直に数字をみて「すごく大きな変化を示すのだなあ」などと思って頂ければそれで何の問題もないのですが、はて、他にもっと振れ幅の大きい物性値はないのでしょうか。

 例えば電気の伝わり易さ、電気伝導度はどうでしょうか。世の中には「導体」「絶縁体」という分類が知られていますが、両者はどのくらい違うのでしょうか。

 物性値としては電気の伝わりやすさである「導電率」(つまり「電位勾配1V/m に対して1Aの電流が1m2当たりに流れるような物質の電気の伝わり易さ」)ではなく、伝わりにくさの指標である「抵抗率」(「導電率」の逆数)が用いられるのが普通だそうです。その抵抗率でみると、たとえば電気を通しやすい物質(「導体」)の代表である銅の抵抗率は 1.68×10-8 Ωm 程度だとか。 その銅で作られたケーブルの被覆としてよく使われている絶縁体のポリ塩化ビニルの抵抗率は1010~1013 Ωm のレベルだそうです。その差は18桁から21桁。(「100京倍から10垓倍くらい」といってもほとんど実感がわかないですね。)とんでもないレベルでの違いなのですね。

 さて、ここで想像をたくましくしてみましょう。熱の伝わり易さにも電気並みに18桁から21桁の差があったとしたらどうなるのでしょうか。

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ホワイトカラーとブルーカラーって?(江頭教授)

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 「アメリカではAIの影響でホワイトカラーの仕事が減って人余りに。そのためブルーカラーの方が稼げる仕事になっていると噂されている。」という趣旨の記事がネットに上がっていました。敢えて著者名や元記事を示しませんが、そのなかでブルーカラーの仕事として一番に挙げられていたのがEV用の蓄電池プラントで自動化ラインを保守する仕事でした。

 いや、それってかなり専門性の高い仕事なのでは。っていうか、いままではそんなトップエンジニアでも給料が低かったの?

 なんか変だなあ。この記事を書いている人(日本人ですが米国の事情に詳しい人らしい)が考えているホワイトカラーとブルーカラーの意味が、私が考えている定義とは違うのでは。

 そもそも、私自身は「ホワイトカラー」とか「ブルーカラー」という言葉を普段から使っていないのです。ですからずっと以前にこの言葉を知ったときのイメージをそのまま持ち続けているのかも知れません。

 私がイメージするブルーカラーというのは「組立作業を行う工場で単純作業を黙々とこなす労働者」です。こういう言い方で分かるかどうか心許ないのですが、チャップリンの映画「モダンタイムズ」に出てくる労働者、でしょうか。ベルトコンベアーに載せられた部品の決められたネジを締める作業を来る日も来る日もひたすら続けている、というイメージです。

 もちろん、現在の工場にそんな仕事はありません。大規模生産を行う工場では単純作業は機械化(というかロボット化)されていて、手作業で作られるのは高付加価値な試作品生産などに限られています。同じ作業を続けていれば良いわけではありません。次から次へと新しい作業をこなしてゆく必要があるのです。つまり、私のイメージするようなブルーカラーの仕事、というのはすでに世の中からなくなって、おっと、これは言い過ぎかも。すでに先進国からはなくなっているのです。Fig_20251207184501

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秋過ぎて、冬の八王子キャンパス(江頭教授)

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 今年は夏が終わってもいつまでも暑かったですね。そのあと急に寒くなっていつの間にか冬になりました。一体、今年の秋はどこにいってしまったのでしょうか。

 ということで、本日(2025年12月5日)朝の八王子キャンパスの様子がこちら。

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 正門前のゲートの奥、毎年黄葉がきれいなイチョウ並木も今では寂しい限り。ちなみに昨年2024年11月13日に撮った写真はこんな感じでした。

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Al原子よりMg原子が大きいのはなぜか(江頭教授)

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 前回の記事で紹介したように金属マグネシウムはアルミより軽く、2/3くらいの密度です。正確には36%程度軽いのですが、そのうち約10%はMgの原子核がAlより軽いから、で説明できる。残りの26%は金属内での原子間距離の差で説明できます。金属マグネシウム内のMgの原子間距離は 3.20Å、その一方アルミ中のAlでは 2.86Å となるからです。つまりAl-Al間の距離よりMg-Mg間の距離の方が大きいのですね。

 皆さん、この説明を聞いて不思議に思いませんでしたか?これって「Al原子よりMg原子が大きい」ってことですよね。

 私は不思議に思いました。実は私が化学を勉強しはじめたころ、もう半世紀近く昔になるのですが、そのとき原子の周期律表にそって原子のサイズについての説明が教科書か参考書(さすがにどちらかは覚えていません)に書かれていました。

1)周期律表を縦にみると、上から下に向かって原子は大きくなる

2)周期律表を横にみると、左から右に向かって原子は小さくなる

というのです。

 当時の私は、1)は納得できたのですが、2)は意外に感じました。どうしてかって?1)は原子番号が増える順に並んでいることになりますが、2)の方は逆になっているのです。Mg原子とAl原子で考えると、Mg原子の持つ電子は12個。一方Al原子はそれより一個多い13個の電子を持っています。普通に考えるとAl原子の方が大きいのでは……。

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金属マグネシウムはなぜアルミより軽いのか(江頭教授)

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 前回、マグネシウム合金の話を紹介したのですが、もう少し話を続けましょう。金属マグネシウムがアルミと比較して優れている点は何でしょうか?機械材料としてみると、もっとも注目すべき点はその軽さ(密度の低さ)だといいます。実際、金属マグネシウムの密度は 1.74 g/cm3 であり、アルミの 2.70 g/cm3 の 64% 、ほぼ2/3しかありません。

 さて、皆さんはこのデータを見てどう感じるでしょうか?MgとAlは周期律表では隣同士。確かにMgの方が原子番号が小さい分、一個の原子の重さも軽そうです。

 調べてみるとAlは殆ど質量数27の原子からできていて平均原子量は26.98だとか。一方Mgは質量数24の原子が約9割を占めるものの25、26の原子も含まれるため平均原子量は24.30となるそうです。原子量だけを比較するとMgはAlの約90%です。金属マグネシウムがアルミより36%軽い理由のうち10%程度が「原子そのものの重さ」の違いなのですね。

 36%のうち10%の説明が付いたとして、残りの26%は何が違うのでしょうか。Atomver201806

 

 

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金属リチウム入りの合金だって!(江頭教授)

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 今回の記事、先日の記事に続いて授業点検で教えてもらった内容です。

 皆さんはアルミニウムというと何を連想しますか?アルミサッシとか1円玉とか。アルミは身近な金属ですよね。では周期表でAlのお隣、Mg(マグネシウム)については?私は化学系の人間なのでグリニャール試薬とか、それに関連してマグネシウムリボンとかの知識がありますが、あまり一般的ではなさそう。「にがり」の成分だとか、クロロフィルの中心金属だ、というのもそれほど有名ではなさそうですね。

 ということで「マグネシウム合金」は「マグネシウム」関連では比較的に有名なものの1つではないかと思います。アルミニウムとの合金は軽量でありながら強度が高いことで有名。パソコンのボディなどで利用されているので知っている人も多いのでは。

 さて、授業点検で「サステイナブル機械材料」の授業を聞く前の私の知識はこんな程度でした。ですが、件の授業の中で知ってしまったのですよねよね。マグネシウムとリチウムの合金があり、しかも(一部でですが)実用化されているのだとか。

 えっ!金属リチウム入りの合金だって!それって大丈夫なのか?

リチウム「イオン」電池ならともかく、0価のリチウムって反応性が強すぎて「厳重に保管」しておくべきものだと思うのですが……。

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KitKatのパッケージの今(江頭教授)

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 前回の記事、KitKatの袋詰めの外袋がプラスチックから紙になったというニュースを紹介しました。じつはこの記事、2019年12月3日の記事の再録なのです。あれから約6年、今回の記事はそのKitKatのパッケージがどうなったのか、というおはなしです。

 さて、当時のパッケージには

「キットカットが紙パッケージに変わりました」

というコピーが入っていたのですが今(2025年)となっては今更「変わりました」とはならないのでしょう。この文言はなくなっています。とはいえ、パッケージが紙製であることにはこだわりがある様で右上には「紙パッケージをリサイクルへ」と書かれています。それに裏面には紙パッケージでつくった折り鶴の写真と一緒に

「キットカット」は紙パッケージ

というメッセージも。

 なお、当時のGoogle検索では「キットカット」と入力すると「キットカット 紙」という候補が第1位にでていたのですが今(2025年12月1日)でてくる候補1位は「キットカット サンタ」でした。どうやら期間限定のクリスマス仕様のキットカットがあるようですね。

 さて、外側の紙パッケージを開けて中を見てみましょう。

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