江戸時代の食料自給率は100%ですが……(江頭教授)

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 「日本の食糧自給率が低い」という話、昔は時々話題なっていた様に思うのですが、最近はあまり聞かないような気がします。米の値段が高い、という話題がでても「米がなければパスタを食べれば良いじゃない」くらいの、どことなく気の抜けた反応しかない様な。私の観測範囲の問題かもしれませんが「汝臣民飢えて死ね」といった迫力は感じられませんね。

 さて、話は戻って食糧自給率について。戦後、食糧自給率はどんどん下がり続けて今(令和5年度のデータですが)ではカロリーベースで38%、金額ベースで61%となっています。カロリーベースと金額ベースで数値が大きく異なっているのは輸入食料の多くが高カロリーで低価格な食物、つまり穀物などに偏っているからでしょう。新鮮な野菜など、カロリーが低くて高く売れるものはやはり国内で生産される傾向があるわけですね。

 こんなデータを見ると「日本は大丈夫なのか」と思う人も居るかも知れません。一体なんでこんな状況に。昔は、そう、例えば江戸時代なら食料自給率は100%だったのですが……。

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年に一度のワックスがけ(江頭教授)

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 小学校や中学校くらいの生徒さんたちは自分の教室の掃除をしているのではないでしょうか。高校生の皆さんもやっているのでしょうか。自分がどうだったのか、あまりにも古いことで思い出せません。とはいえ、一般的なビルのオフィスで社員がみんなで掃除、さあ机を動かしましょう、という姿は想像しがたいと思います。そういう場所では清掃は専門の業者に依頼しているのではないでしょうか。


 本学、東京工科大学もそれは同じです。床、廊下の掃除からゴミの回収、庭の手入れまで、専門の方々が担当してくれいていて、学内は清潔に保たれています。


 とはいえ、例外もあります。(いや「清潔」の例外じゃありません、業者の方が担当するかどうかの例外です。)研究室の中は一般の清掃業者の方には依頼できない場所です。何しろ、研究室の中には危険な薬品や高価な測定装置がゴロゴロしていて、その部屋を使っていない人にはどこをどう掃除して良いのか分からないのが普通でしょう。


 と、いうわけで研究室の掃除は研究室を使う人間、つまり我々教員と学生諸君、ということになるのです。では、どのくらい清潔度が保たれるのか。これは研究室によってレベルはバラバラだと思います。まあ、使用する装置や実験の形態など、もともと研究室の環境はバラバラですからね(ということにしておきましょう。)


 とはいえ、例外もあります。こんどは「研究室の掃除は業者の方が担当しない」ということの例外。それが年に一度のワックスがけです。


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東京工科大学の「新⼊⽣のコミュニケーションツール利⽤実態調査」(江頭教授)

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 皆さんは本学、東京工科大学の新入生を対象とした調査「コミュニケーションツール利⽤実態調査」をご存じでしょうか。この調査は2014年から毎年行われており、今回で12回目となると言いますから、我々の応用化学科の設立の直前から始まっていたことになります。

 その最新版、2025年度版が公開したとのこと。さっそくチェックしましょう。新入生諸君はどんなコミュニケーションツールを使っているのでしょうか。

 LINEは高いなー。二番手はInstagramとX(旧Twitter)。昔はTwitterが有力でしたが、ここ最近はInstagramが追い上げていて、今年度ついに二位の座を占めたとか。

 以下はTikTokとかDiscordとか。あれ、BeReal.って何だろう?女子学生に人気なようですが……。

 あと「ソーシャルネットワーク」の代名詞のようだったFacebookは今やレアなものになっているようですね。

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なお、本学のプレスリリースのページには他にもいろいろ興味深いデータが載っています。

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なぜ雷が「稲妻」なのか?(江頭教授)

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 今回のお題は表題とおり、なぜ雷が「稲妻」と呼ばれるのか、についてです。なんで雷が「稲の奥さん」なのでしょうか?

 理由は「雷があると稲の実りが良くなるから。」です。「奥さんと実りに何の関係が...」というと難しい話になりそうですが、「雷と実りの関係」に注目すると少し化学の世界に近づいてきます。

 雷は大気中での大規模な放電現象であり、そのさい普通には起こらない化学反応も起こります。おそらく窒素分子の分解も起こる。通常の環境ではほぼ起こることのない窒素分子の活性化によって窒素酸化物などが生じ、それが窒素肥料の役割を果たすことで植物の(ここでは稲の)成長が良くなる、という訳です。

 窒素原子は大気の8割を占める窒素ガスの形で自然界に大量に存在しています。同時に生物の体を構成するタンパク質の基本要素、アミノ酸に必ず含まれている元素でもありますが、窒素ガスの分子はきわめて安定で植物はそれを直接吸収することはできません。(動物もですが。)窒素分子を分解してアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなど、植物が利用できる形態に変化させる機能は自然界ではマメ科の植物の根に共生している根瘤バクテリアと呼ばれる細菌の作用が知られている程度です。雷の放電、つまり稲妻はもう一つの自然産の窒素肥料なのです。

 ハーバーボッシュ法による窒素固定技術が開発される以前、水田は窒素肥料不足の状態にあったはずですから、雷によって生じた窒素酸化物、窒素肥料を含んだ雨の降った場所は他より目に見えて稲の育ちが良かったのでしょう。

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世界の飢餓情報をまとめた「Hunger Map」(江頭教授)

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 前回の記事では国連の機関であるFAO(Food and Agriculture Organization)の報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2024年報告」から、世界の飢餓に苦しんでいる人々の割合が2015年ころから下げ止まり、2020年にはついに上昇に転じてしまった、という話を紹介しました。2020年の上昇はコロナ禍によるものだとも考えられますが、それ以降高止まりしデータのある2023年まで下がる気配がない。このデータは世界の発展の行き詰まりを示すものの様にみえます。

 さて、今回は同じくFAOが公開している「Hunger Map」つまり「飢餓マップ」を見てみましょう。世界のどの国で飢餓が起こっているかを示すものです。

 まず世界全体の様子を大まかに示したものが以下の図です。(オプションで「View by Regions」を選択しています)北米とヨーロッパ(含ロシア)以外は飢餓の問題を抱えている。特にアフリカは深刻だ。

 このデータには意外性はないと思います。皆さんもそんな印象を持っていたのではないでしょうか。とはいえこれではあまりにも大雑把に過ぎるでしょう。

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 ということで、もうすこし細かく表示したものがこちら。(オプションは「View by Subregions」を選択。)

 オーストラリアが白(飢餓人口2.5%以下)になっている点は納得です。中国も白になりましたがインドは一段濃い色(飢餓人口5-9.9%)になっていて、なるほどなあ、と思います。

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高止まりしている世界の栄養不足人口(江頭教授)

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 「世界は良くなっている」というのは私達の世代、おっとこれは主語が大きすぎですね、私の年来の信念です。いや、信念と言うほどでもなく、常識くらいの意識。つまり信じる信じない以前の当たり前のことだと思っていました。自分が子供の頃(50年位前)と今を比べて、どう考えても今の方が「良い」世界になっている。そんな日々の生活の中で感じる感覚的なものだけでなく、いろいろなデータがそれを示していました。なかでも世界で飢えている人が確実に減っているというデータは「世界は良くなっている」ということを明白に示していたと思います。

 ところが!最近の、というかコロナ禍後の世の中は一体どうなってしまったのでしょうか。コロナ禍自体は仕方のないことでしょが、それに続くロシアウクライナ戦争に中東の問題など世の中を揺るがすような出来事が次々と起こっています。それを受けて「世界で飢えている人」の人口はいったいどのように変化したのでしょうか。

 今回はその世界の栄養不足人口についてデータをまとめたグラフを見てみましょ。出典はFAO(国連の食糧農業機関のこと)の「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2024年報告」です。

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「省エネ」と「再エネ」どっちが大切?(江頭教授)

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 これは典型的な

 「あ! どっちもデス」

案件なわけですが、わざわざこんなタイトルで記事を書こうと思ったのは学生さんのレポート課題を読んでいて最近の学生さんは「再エネ」を重視している割に「省エネ」に関心が薄いのではないか、という印象を受けたからです。

 将来の日本のエネルギー自給率についての課題だったのですが、「石油燃料に変わる再生エネルギーを用いれば良い」と解答してくれた人が多かったのに対して「省エネルギー化を進める」あるいは「再生可能エネルギーの導入拡大と同時に徹底的な省エネを」などと解答した人は少なかった。はて、これはどうしたことでしょう。私が学生のころは省エネは世間的にも注目のキーワードだったと思うのですが...。

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今日は連休明け。ええ、昨日じゃなくて今日です(江頭教授)

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 今日は2025年5月8日。我々応用化学科がある東京工科大学八王子キャンパスは今日から活動再開。連休明けとなります。えっ、連休明けは昨日じゃないかって?確かに世間的には昨日の2025年5月7日が連休明けですが以前の記事でも説明したように本学のゴールデンウィークはちょうど1週間になるように調整されており、一日延ばして昨日までがお休みだったのです。ということで本日は1週間ぶりの授業再開となります。

 授業が始まってから少し間を置いての連休。これはなかなか良い制度ではないかと思います。4月にスタートした新生活。最初は無理をしつつ適応できても次第に疲れが溜まってくることもあるでしょう。五月病という言葉もありますよね。そこで一旦休みをいれて体制を整える。そのために5月のゴールデンウィークはうってつけですよね。

 とまあ、これはゴールデンウィークの良い側面。でも良い事ばかりとは限りませんよね。

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「行」を「御中」に直すべきか否か(江頭教授)

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 手紙を書くとき、宛名には普通「様」などの敬称を付けます。個人なら「様」とか「殿」ですが団体や組織なら「御中」ですね。これはいわゆる一般常識。

 普通の葉書はそれでOK。では往復葉書や返信用の封筒などを同封した場合など、自分の名前を宛名に書く場合はどうするべきでしょう。自分に「様」を平然と付けられる「俺様」なひとは別として、まあ尊敬の意味の無い「行」などと書く事になります。

 さらに、その「往復葉書」や「返信用封筒」を受け取った側の人はどうするか。送り返す時には、宛名は自分ではなくて送ってきた人になりますから、こちらからは尊敬の意を表したいところです。そこで宛名についている「行」を訂正線で消して「様」に直すわけですね。

 さて、ここからが今回のお題。相手が組織の場合でも返信の際に「行」を「御中」に直すべきか否か。どうしましょう。 

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日本のエネルギー消費が減少するとき(江頭教授)

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 前回前々回の記事ではエネルギー白書のデータを元に増え続ける世界のエネルギー消費にも突発的に減少する年があることを指摘しました。2020年と2009年。それぞれコロナ禍とリーマンショックによる影響です。

 さて、今回はそのコロナ禍とリーマンショックの影響が日本のエネルギー消費にはどのように影響したのかを見てみましょう。元ネタは同じくエネルギー白書2024」です。

 日本のエネルギー動向は第2部 第1章にまとめられていて、最初に以下の様な図(【第211-1-1】最終エネルギー消費と実質GDPの推移)がでてきます。さて、日本のエネルギ-消費が減少しているのは……ここのところほぼ毎年じゃないか!

 そうなんです。日本のエネルギー消費は2000年ごろまでは増加傾向だったのですがその後は安定化し2008年ごろからは減少に転じているのです。増加を続けている世界のエネルギー消費とは全く逆。「日本の常識は世界の非常識」なのですね。

 さて、本題に返ってコロナ禍とリーマンショック時のエネルギー消費どうなっているのでしょうか。

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