アボガドロ定数の10兆分の1の金属を調べて現代のエレクトロニクス社会を支えています(高橋教授)
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こんにちは。材料物理化学研究室の高橋です。
皆さんが毎日使っているスマートフォンや携帯電話、タブレットなどのICT機器に無くてはならないもの・・・、それは、シリコン基板を使って作製された高度集積回路(LSI)やダイオードなどの半導体デバイスですね。これら半導体デバイスは、ICT機器だけでなく洗濯機などの家電製品の中でも活躍しており、現代生活を支えています。
今回は、より高性能の半導体デバイスを開発するための化学屋さんの仕事ぶりを紹介しましょう。
半導体デバイスの作製するためにシリコン基板を使います。そのシリコン基板の表面に、ほんのわずかな“余計な”金属が存在すると、半導体デバイスがつまりはスマートフォンが正常な働きをしなくなることがあります。今回の話題は、シリコン基板の表面のほんのわずかな金属についてのお話です。
では、いったいどのくらいの“余計な”金属が存在するといけないのでしょうか。シリコン基板表面の面積の5万分の1程度を“余計な”金属が覆うと、半導体デバイスが異常な動作をする原因になるのです。半導体デバイスの分野では、この“余計な”金属のことを、汚染金属(もしくは金属汚染)と呼んでいます。安定に動作し、高い信頼性を保った次世代の半導体デバイスを創り出すためには、汚染金属の量を50万分の1以下に減らすよう、努力が続けられています。
私たちは、このわずかな汚染金属を除去する方法を研究しています。その研究の中で、表面の5万分の1程度の極めてわずかの金属がどのような形態をしているか、確かめることにしました。敵を倒すには敵のことを知らないといけませんね。
半導体デバイスの敵である極めてわずかの汚染金属がどんな形態をしているのかを知りたいと思いました。そこで、世界最高性能の実験施設である大型放射光施設(SPring-8)でX線を使った表面の解析を行い、シリコン基板表面の極めてわずかなCu(表面の10万分の1にしか存在しない)の状態を決定することに成功しました。
このようなわずかなCuは、表面のSi原子とO原子で結合していました(模式図a)。一方、表面の5千分の1を占めるCuの場合には、模式図bのように周りには別のCuが存在して、O原子を介して結合していました。ぽつんと存在する10万分の1の濃度のCu(模式図a)と違って、5千分の1の濃度のCuでは水酸化銅(Ⅱ)とよく似た原子の配置であることも分かりました。
シリコンウェーハ上の汚染金属“Cu”がどんな形態で存在しているのかが分かりましたので、この結果を使ってCuを除去する方法を研究し、表面の50万分の1以下にまでCuを除去する方法を開発することにも成功しました。このお話は、機会を改めて紹介したいと思います。
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