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今年度ノーベル化学賞受賞のマーナー教授に聞く(山下教授)

| 投稿者: tut_staff

 高分子・光機能材料学研究室の山下です。

 今年のノーベル化学賞はスタンフォード大学のマーナー教授ら3人の化学者に授与されることになりました。前日の日本の研究者らのノーベル物理学賞受賞に国内が熱狂している最中、化学賞の記事は小さくしか扱われていなかったのですが、大学から帰る途中の電車の中でスマホを見ながら「ほー、Bezigが受賞したのかぁ~」と思いながら画面をスクロールしてゆくと「William. E. Moerner」と名前を発見しました。

 Moernerさんは現在カリフォルニアのスタンフォード大学の教授です。Moernerさんとは20年来の親交があり、私は昔から彼のことを「ダブリュイー(W.E.)」と呼んでいたので(彼はそう呼ばれることを望んでいたので)、記事を見ながら「そういえばWilliamという名前だったんだぁ」と思いだした次第です。
MoernerさんはIBMアルマデン研究所にいたころに、光化学ホールバーニング(PHB)の研究で活躍しました。当時IBMは超高密度光メモリーを作ることに躍起となっていて、波長多重記録ができる革新的な技術として注目され、日本からも多くの研究者が参画しました。平成4年にPHBの国際会議を東京で開催した際、故堀江教授の自宅に共に招かれました。我々化学者からみればPHBの超高密度分光技術は物理学以外の何物でもありません。しかしその技術を実現するのは我々化学者の生み出した材料なのです。「だからやっぱり化学は大事ですよね」などと意見を交わしながら酔った勢いで、オリビア・ニュートン・ジョンの「Physical」という曲のサビの部分を「Chemical」に変えて二人で熱唱したことを思い出します。その後、PHB研究者は研究を単分子分光や超高解像度分光にシフトさせ、Moernerさんも再び卓越した成果を上げました。

 何か面白いことが発見されると世の中の研究者が一斉にその研究に群がります。それぞれのバックグラウンドを生かして、さらに研究を発展させようと取り組んでいる人もいますし、その先に美味しい成果がぶら下がっていることを嗅ぎ付けて集まってくる人もいます。最先端の研究を開拓するということは、多くの人が群がる中で一番早く駆け抜けることではありません。誰も気づかず、誰も見向きもしなかった研究を見出し、自らが先頭にたってその道を拓くことが重要です。それが面白ければ、後から自然に人がついてきます。Moernerさんはそういう意味においても常に先端科学を拓き続けた人でした。これからの日本の科学を担ってゆく若者たちも自分のオリジナリティーを重視した真の科学者となってほしいと願っています。

 スタンフォード大学に招かれた際に、W.E.ととりとめもないおしゃべりをしました。若いころに比べずいぶん白髪も増えたようですが、瞳は相変わらず少年のようにきらきら輝き、さらなる夢を熱く語ってくれました。

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