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光エネルギーから「使える物質」をつくり出す化学(森本講師)

| 投稿者: tut_staff

Co2conc  こんにちは、光機能性錯体化学研究室・森本です。

 今回は太陽光エネルギーを「化学エネルギー」に変える話です。

 人類は古くから太陽光エネルギーを利用して、様々な形態のエネルギーを獲得してきました。例えば、オリンピックの聖火を採火するときのように、太陽光を1点に集めて火をおこす時代もあったようです。また現代の日常生活では、建物の壁や屋根に太陽電池を設置して、光エネルギーを電気エネルギーに変え、電化製品を使用しています。しかし、地球上には人類が現れるずっと昔から太陽光を利用している生物が存在します。それは、私たちの身の回りの植物とその祖先です。

 小学校・中学校でも学習するように植物は光合成を行い、太陽光と水(H2O)と空気中に0.04%しか含まれていない二酸化炭素(CO2)から、炭水化物(C6H12O6)と酸素(O2)を作り出します。この光合成は、生物を構成する重要な元素である炭素に注目すると、二酸化炭素から炭水化物を作る化学反応だと言えます。つまり植物は、太陽光と二酸化炭素を原料にして、自分たちの生命活動を維持するために「使える化学物質」である炭水化物を生産しているのです。この点で光合成は、太陽光エネルギーを「化学エネルギー」に変換するための装置なのです。では人類も太陽光と二酸化炭素を原料にして、人間にとって「使える化学物質」を生産することはできないでしょうか?現在これを実現しようと、光合成(に似た反応)を人間の手で行う人工光合成の研究が世界中で行われています。

 当研究室では、植物と同じように空気中のわずかな二酸化炭素を濃縮する金属錯体を見つけました(図を見てください。)。

 しかもこの化合物には、光エネルギー(や電子)を与えると、二酸化炭素を化学原料となる一酸化炭素(CO)に変換する性質(光触媒能)があります。この金属錯体と光エネルギーを捕集するアンテナとなる化合物を組み合わせることで、世界最高の反応効率を示す人工光合成系の実現に成功しています。これらの研究成果は、昨年のアメリカ化学会学術論文誌や、今年9月の日本化学会誌で報告・解説しています。

 高校までは、「反応は化学」、「光エネルギーは物理」、「光合成は生物」といった科目の壁があると思っている人も多いと思います。しかし、大学で化学を学ぶ・研究すると、高校で学ぶ理科が基礎になって、それらが融合した学問があることに気がつくはずです。ですので、高校生の皆さんはいろいろな自然現象に興味を持って、理科を楽しみ、化学(科学)の世界にやってきてください。

森本 樹

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