人工酵素は天然酵素を超えられるか(須磨岡教授)
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DNAは、生物の遺伝情報が詰まった物質であることは皆さんも知っていることでしょう。生物は、このDNAに書き込まれた情報にしたがって、筋肉や血液をはじめとして、体の大部分を構成しているタンパク質をつくっていきます。この仕組みを上手く利用して、遺伝子工学は発展してきました。現在の遺伝子工学では、「ハサミとなる酵素」と「糊となる酵素」を使ってDNAを切り貼りし、必要な情報の書き込まれた組換えDNAを作っています。この組換えDNAを細菌に入れると、たとえ細菌にとっては不要なタンパク質でも、情報にしたがって細菌は黙々とつくっていきます。そして、できあがったタンパク質を人間がちゃっかり頂くというわけです。ここで、「ハサミとなる酵素」は、天然に存在する酵素が利用されています。そのため、DNAが切断される位置は、酵素の都合で決められてしまいます。言い換えれば、人間が自由に切断位置を決めることができないわけです。また、ゲノムDNAのような巨大なDNAを天然の酵素で切断すると、選択性が足りず、DNAがバラバラの状態になってします。これでは、望みの組換えDNAを作ることはできません。
私たちは、ゲノムDNAを1カ所で切断する人工酵素を世界で初めて開発することに成功しました。この人工酵素は、DNAの切断位置を決める「ペプチド核酸」と、DNAを切断する「4価のセリウム錯体」で構成されています。ここで重要なのは、ペプチド核酸が化学合成物であり、私たちの手で自由に作ることができる点です。したがって、私たちの開発した人工酵素は、DNAのどのような所でも狙って切断することができます。図は、人工酵素を使ってゲノムDNAを1カ所で切断した結果です。今後は、この人工酵素をバイオテクノロジーの新たなツールとして活用していく予定です。
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