高分子の分子量ってどのくらい?(山下教授)
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図は分子量無限大の高分子ゲル
高分子は、エチレンやスチレンなどといったモノマーが多数連なった構造をしています。教科書ではポリエチレンは-(CH2-CH2)n-と書かれており、このnが重合度を表しています。一般には「nはすごく大きな数」と言われていますが、具体的にどのくらいなのかは示されていません。いったい高分子の重合度はいくらなのでしょうか?
一つの例として、もっとも単純な構造の高分子であるポリエチレンについて考えることにしましょう。n=1のときは炭素が2つの分子で、エタンと呼ばれます。エタンは沸点がマイナス89度の気体です。nが5のときはデカンという液体で沸点は174度です。nが10になると結晶となり、減圧(15mmHg)下で205度の沸点をもつようになります。nが60のときにはもろいろう状の固体、nが1000を超えるとポリエチレンのような固い固体となります。このように重合度nの大きさによって同じ構造式であらわされる物質の性質は著しく変化しますが、nが十分大きくなるとnが多少変化してもその物質の性質はあまり変わらなくなります。nが十分大きくなってはじめてポリエチレンはコンビニ袋のように柔軟で丈夫なフィルムとなるのです。このように高分子らしさを発揮するためには十分大きな重合度が必要で、高分子合成に携わる化学者にとっていかに分子量の大きな高分子をつくるかが課題になっているのです。
ところが、重合度の大きな高分子をつくることは実は大変なことなのです。高分子重合の理論によると、各モノマーの反応率がpのとき、得られる高分子の重合度は1/(1-p)で表されることが分かっています。たとえば反応率が90%のとき、この式のpに0.9を代入すると重合度は10となり、反応率が99%のときには重合度は100となります。重合度1万の高分子を得るためには反応率は99.99%でなければなりません。通常の有機合成反応では反応率は数十%程度なので反応率が90%を超えれば高収率の反応として大威張りできます。しかし高分子の場合にはたとえ反応率が90%でも10量体にしかならず、とても高分子とは呼べません。99.99%も反応させることは極めて特殊なことなのです。
さらに高分子は、重合の過程で様々な分子量の高分子が生成し、それらを分離することはできないので分子量の分布が存在します。また一つの高分子鎖をとっても、その結合の仕方や鎖の回転方向には様々な分布があり、「多様性」が高分子の一つの特徴でもあります。このように高分子の構造式では重合度はただnとのみ記されていますが、実際の高分子材料では分布があり、反応条件によって様々に変化しているのです。
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