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推薦図書 佐藤 文隆著 「物理学の世紀 ―アインシュタインの夢は報われるか」 集英社新書(森本講師)

| 投稿者: tut_staff

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 アインシュタインの重力場方程式の解で有名な佐藤文隆先生が、主に20世紀の物理学の発展・変遷についてお書きになった本です。佐藤先生の著書としては少し前のものになりますが、すきがなく強固なものに思えた19世紀までの古典物理から現代物理が興る歴史を時代背景とともに俯瞰できる、今でも読んで楽しい一冊だと思います。

 応用化学科の人間がなぜ物理学についての本を紹介するのか、不思議に思う学生もいるかもしれません。それは現代化学が現代物理の発展と切っても切れない関係にあるからです。すなわち、現代物理学の3つの柱のうちの2つ、量子力学と特殊相対論なくして、周期表にある原子を理解することはできません。その3つの柱の全てに深く関わっているアインシュタインが提起した天才的な(普通の感覚では受け入れられない)ものの見方・考え方と、X線や放射線の発見等によって、現代物理学の基礎がつくられてきた過程とその発展を垣間見ることができます。

 X線を利用することで実験的に原子の構造を表すモデルが精密化され、さらに量子力学(と特殊相対論)のおかげで理論的に軽原子(から重原子まで)の構造を記述・理解できるようになったことが紹介されています。それは、化学者が見出してきた原子の様々な性質を見事に説明してくれました。この点で、現代物理学の発展によって、化学者が本当の意味で原子を発見したと言えるのかもしれません。そして現在でも、X線を利用した構造解析は化学に限らず、生物学(特に20世紀半ばからの分子生物学)の発展にも大きく寄与し続けています。また、原子に加えて分子や無機固体の性質を理解するのにも、量子力学が必須であることは現代の化学者にとっては周知の事実です。実際に、有機化学、物理化学、無機化学に関する大学の教科書をみたときに、「量子」という言葉が記載されていないものを見つける方が難しいくらいです。

 もちろん本書では現代物理学のもう一つの柱、一般相対論が重力や宇宙等を理解するために用いられてきた歴史も同時に見ることができます。化学者からすると少し遠い話な気がするのですが、将来一般相対論と量子力学をつなぐ、マクロからミクロなものまでを統一的に記述できる21世紀の物理学が完成したとき、その時代の化学者はこれらの「現代物理学」を「古典物理学」として身につけ、活用しなければならないのかもしれません。

 さて、現代の化学者が必要とする量子力学について、本応用化学科では1年後期「無機化学」、3年後期「量子化学」、また数学的素養として1年前期「微分積分」を用意しています。本学のカリキュラムを通じて、古典的(高校化学的)な原子の描像から脱却し、現代的な捉え方で原子・分子を眺める術を是非習得してください。また、ここで紹介したような関連する科学に興味を持って、それに関わる書籍を読むこともおすすめします。

森本 樹

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