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生命現象を見る指示薬?(須磨岡教授)

| 投稿者: tut_staff

 皆さんは化学の実験でフェノールフタレインやメチルオレンジに代表されるpH指示薬を使ったことがあるでしょうか。pH指示薬を使うと,その溶液が酸性なのか塩基性なのか簡単に色で判断できます。これと同じように,生命現象を色で追跡することが可能なのでしょうか。今回は,そんな研究についてお話したいと思います。

 タンパク質はいろいろなアミノ酸が縮合重合してできた高分子で,生体内で多くの役割を担っています。細胞外の情報(ホルモンなどの化学的な刺激)を細胞内に伝え,細胞応答を誘導する受容体もそのようなタンパク質のひとつです。ある受容体は,細胞外の情報に対応して特定のチロシン部分にリン酸をくっつけ,これをきっかけとして細胞を活性化しています。また,細胞中にはリン酸を取り外す働きを持つ酵素も存在していて,チロシン部分からリン酸が取り外されると細胞は元の状態に戻ります。

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つまり,チロシン部分にリン酸を付けたり外したりすることで細胞外の情報を細胞に伝え,細胞はバランスを保ちながら生命活動を維持しています。もし,このバランスが崩れてしまったらどうなるでしょうか?たとえば受容体にリン酸が付いた状態が続くと,細胞は活性化されたままの状態になってしまいます。実際に,この情報伝達の異常が,細胞のガン化(細胞の暴走)の原因のひとつになっています。

 私たちは,チロシン部分のリン酸化の状態を検出する化合物の合成に成功しました。

この化合物を溶液に加えて紫外線をあてると,タンパク質のチロシン部分がリン酸化されている状態では光りますが,リン酸化されていない状態ではほとんど光りません。この化合物を細胞に加えて上手く機能させることができれば,細胞で起こっている生命現象の1つを追跡することができます。

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 また,細胞の暴走(ガン化)がリン酸化によって引き起こされている場合には,リン酸化を押さえる試薬は抗ガン剤となります(実際に,リン酸化を阻害する試薬のいくつかは,抗ガン剤として市販されています)。私たちの合成した化合物は,抗ガン剤を探索する際の道具としても利用することができます。つまり,いろいろな試薬を加えながら発光の様子を観察すると,抗ガン剤の候補となる試薬を簡単に見つけることができるというわけです。

 このように,私たちの研究室では,「化学」を武器に様々な角度から生命に挑戦しています。生命現象を理解する楽しさや社会に貢献するものを創造する喜び,私たちと一緒に味わってみませんか。

須磨岡 淳

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