光と分子の不思議な相互作用(山下教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
我々は光を当てると反応して様々な機能を発現する高分子材料の開発を行っています。
私が最初に「光」に興味をもったのは大学2年生のときです。当時私は化学部に属し、大学祭で化学発光などのデモ実験を行うことになり試薬の合成に取り組みました。自分たちで合成した2つの試薬を混ぜた瞬間、鮮やかに輝く液体を見て心惹かれたことが鮮明に記憶に残っています。当時の私にとって、日焼けとか感光性樹脂から連想すると、分子に光エネルギーを与えると化学反応がおこるということは、詳細な反応のしくみはさておきなんとなく理解はできると思いました。ところが逆に分子が化学反応を起こし、そこから光が出てくるというのがなんとも不思議に思えたのでした。
卒業研究では光固相四点重合で世界的に有名な長谷川正木先生の研究室を選び光化学反応の研究を行いました。大学院では西郷和彦先生の指導の下、有機合成反応の素反応の開拓を行い、有機材料の合成技術を身に着けました。博士課程二年の春、東京大学に先端科学技術研究センターが発足し急遽助手のポジションができたということで三田達先生のもとでポリイミドの光機能の研究をはじめ、その後、堀江一之先生らとともに光化学反応を経由して光で光を制御する新しい技術「フォトオプティカル効果」を見出しその材料開拓、Moerner教授たちとの巨大プロジェクトである光化学ホールバーニング(PHB、波長多重記録によって人間の脳の記録密度に迫る超高密度メモリーの開発)をおこないました。分子が光を感じて色や形を変えることにわくわくするような喜びを覚え、連日夜中の12時過ぎまで研究室ですごしました。
三田研究室に赴任した際に三田教授から当時の電子材料として注目されていたポリイミドに感光性を付与する研究テーマを与えられました。博士課程の研究で最先端の有機合成の技術と光化学の研究成果をもっていた自分にとって、ポリイミドに感光性基を導入することなど簡単すぎると思い研究を始めたところ、試みた実験は全て失敗し全く光に反応しないポリマーとなったのです。ポリイミドの光励起状態について基礎的な検討をしたところ、ポリイミドの特徴的な電荷移動という現象と光反応性が密接に関連していることを見出し、その知見に基づいて電荷移動を抑制したポリイミドを合成したところ、従来よりも100倍以上高感度な感光性ポリイミドを合成するのに成功しました。また、そのポリイミドは従来になく無色透明となる性質があり、光学的な用途に優れた特性をもつことが分かり、さらにその後屈折率制御材料や燃料電池用材料として優れた機能があることが分かりました。
この失敗がなければその後の展開へとは結びつかなかったと思います。化学は理屈どおに進むことばかりではありません。失敗もまた化学のだいご味の一つです。
「研究テーマ紹介」カテゴリの記事
- 「沙漠緑化を設計する」ということ(江頭教授)(2018.12.17)
- 「大学の学びはこんなに面白い」の取材を受けました(江頭教授)(2018.12.14)
- 講演会で鳥取に行ってきました(片桐教授)(2017.11.21)
- Fischer-Tropsch合成について(江頭教授)(2016.07.27)
- 共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について その2(江頭教授)(2016.07.21)