書評「生物と無生物のあいだ(講談社現代新書)」 福岡 伸一 著(須磨岡教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
現代の科学では、物理と化学、化学と生物、生物と物理といったように複数の分野にまたがった研究が数多く行われています。そのため、自分の専門以外のことについても幅広く興味を持ち、情報を収集することが重要となってきます。
今回紹介する本は、10年ほど前に出版され、ベストセラーとなったものなので、既に読んだ方も多いかもしれません。近年の科学は凄まじい勢いで進歩しているため少し古くなったところもありますが、遺伝子の本体であるDNAの発見からES細胞を用いたノックアウトマウスの作製までの分子細胞生物学の基本的な事柄が、そこに関わってきた科学者のエピソードとともに巧みな文章で書かれていて、生物を学んでいない読者にも十分に響く内容になっています。
DNAの二重らせん構造を発見したことで知られるワトソンとクリックの話題や千円紙幣の肖像として描かれている野口英世らの話題は、実験データ盗用やねつ造の問題を思い起こさせるかもしれません。また、著者がポスドクとしてアメリカに留学していた時の話題からは、研究者の生活や苦悩の一端をうかがい知ることができます。ある機能を持つタンパク質の発見を巡って繰り広げられたライバルの研究チームとの競争の話やその発見したタンパク質の役割を証明するために苦労して作製したノックアウトマウスが何事も無かったかのように成長してしまったという話は、研究者の端くれとして、とても他人事とは思えません。
肝心の本書のテーマとなっている生物とは何かという問いに対しては、著者は「動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)」という言葉を使って説明することを試みています。詳しい話は、皆さんに本書を読んで考えて頂きたいと思います。
「推薦図書」カテゴリの記事
- 世界の人々の暮らしがわかるWEBサイト「Dollar Street 」(江頭教授)(2019.02.21)
- 豊かな人、貧しい人-推薦図書「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」追記(江頭教授)(2019.02.14)
- 推薦図書 ハンス・ロスリングほか「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(江頭教授)(2019.02.12)
- 教科書「サステイナブル工学基礎」(江頭教授)(2018.04.16)
- 「安全工学」の講義 番外編(図書紹介)(片桐教授)(2018.03.19)