世界最高性能の大型放射光施設を利用した研究(原准教授)
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触媒化学研究室の原です。
実験室や大学の規模では所有できない規模の実験施設を利用することによって、研究・開発を飛躍的に展開できることがあります。今回は、世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設を利用した研究例を紹介します。
放射光とは、光とほぼ同じ速度になるまで電子を加速して、その後に電子の進行方向を磁石で曲げた際に発生する強力な電磁波のことです(「放射光」は「放射能」とは異なります)。このような放射光を世界の中でも最高の性能で利用できる施設の一つが兵庫県の山間部に位置する播磨科学公園都市にあります。この施設の名称はSPring-8(スプリング・エイト)です(http://www.spring8.or.jp/ja/)。この名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)の頭文字からできています。SPring-8は、研究者が共同で利用できる実験施設であり、国内外の大学、公的研究機関や企業などによって最先端の研究・開発のために昼夜を問わず利用されています。一周1436 mの円周に沿うように合計で60以上の実験ステーション(ビームライン)が整備されています。ここまで多くのビームラインが設置されている理由は、化学・物理・生物・材料など多種多様な基礎研究から実際に産業界で開発中の商品についての測定まで、行われる実験が多種多様であるためです。それぞれの目的に適した充実した実験設備が各ビームラインに整備されています。
写真は私が自分の研究のために最近よく利用しているビームラインです。
多くの電子機器を介して実験に用いる放射光、検出器、測定試料の位置などをパソコン上のソフトウェアから制御します。私は新しく作製した触媒の構造を知るためにこのビームラインでの実験を行っています。研究室や大学に設置されている汎用の装置を用いた測定では得られる情報に限りがあります。これまでに存在しない新しいタイプの触媒を開発しようと挑戦している私にとって、このビームラインで行うX線吸収分光(XAFS)測定は、必要不可欠な情報を与えてくれます。例えば、金属を含む触媒を測定すると、その金属の酸化数、配位様式、結合している元素の種類と数などを知ることができます。このようにして大型放射光施設で得られた触媒の構造についての情報を大学の研究室で取得した情報と照らし合わせます。触媒のどのような構造が望まれる触媒機能の実現につながるのかを明解に把握することによって、社会に貢献することを目指したさらに高性能な触媒の設計を行うことができるのです。
SPring-8を利用した最先端研究の成功例が数多く報告されています。自動車排ガス浄化触媒、燃料電池触媒、鉄クロスカップリング反応触媒、光触媒、電池電極反応などの詳細な機構が最近解明されました。また、病気の解明や治療において重要なタンパク質の結晶構造の決定、新規材料や隕石の分析などでも他の実験手法では得られないデータが得られています。このような大型放射光施設を利用した最先端の研究にも興味を持って頂ければ幸いです。
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