実験室ライフハック「いま何度ですか?」(江頭教授)
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ナイロンは1935年、Du Pont社のウォーレス・カロザースによって発明されました。今では衣類などとして当たり前の材料ですが、まだ合成繊維がなかった時代、「鋼鉄よりも強く、クモの糸より細い」繊維を工業的に合成できるということは画期的な大発明でノーベル賞の候補としても有力なほどの発明でした。そのような華々しい発見に至る研究者の暮らしはどのようなものだったのか興味をもって書を繙いてみると、内容は予想とは全く異なり、カローザスの鬱々とした心が綴られた物語です。
この本は大阪大学の井本稔教授がカローザスの日記風にナイロンの発見から彼の人生の終焉に至る過程を記した本で、いわゆる学術書ではなく文学作品であるという点でも興味深いものです。
カローザスの発明は当時の化学の水準から卓越した大発明であることは誰もが認めるところです。ところがカローザス自身は、「分子を配向させれば高強度の材料ができる」という概念はすでに分かっていたことで、自分はただポリアミドという素材でその概念を実現したに過ぎない、と考えたのでした。彼にとって新しい概念を築くことこそが化学者の本質であって、既知の概念に従ってその延長上の仕事をしただけ(と本人は考えた)ということは化学者としてのプライドが許さないことだったのです。カローザスは失望しやがて41歳の若さで自らの命を絶ったのでした。
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英語は使えたら良いのはわかるけど苦手、、、と言う人が多いと思います。私は、思い切ってとにかく体当たりで英会話に挑戦してみることをおすすめします。
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「えっと、サステイナブルなのは日本?私?」
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有機フッ素化合物の大きな特徴は、その弱い分子間相互作用です。例えば、テフロンはフライパンなどのコーティング材として用いられており、分子間力を抑えることにより焦げ付きを防ぎます。同様に、傘の表面加工にもフッ素を含む高分子材料を用います。このフッ素の効果により水をはじきます。エアコンや冷蔵庫の冷媒として用いられているフロンは、弱い分子間力により蒸発し易い性質をもちます。この性質を利用して、機械的な圧力変化による蒸発と凝集を繰り返させて熱のやりとりを行います。このようにフッ素を含む有機分子はその弱い分子間力により特異な性質とそれを利用した機能を持ちます。
その一方で、含フッ素有機物は「結晶化し易い」という特徴を持ちます。化学実験器具に用いられるテフロンはプラスチックです。しかし、テフロンは透明ではなく白色です。これはその中に存在するたくさんの小さな結晶の界面で光を散乱するためです。
弱い分子間力のくせに結晶化しやすい有機フッ素化合物の特徴には、矛盾を覚えます。多くの研究者が現在、この問題の解決に取り組んでいます。
私(片桐)はβ-フルオロアルコール類の融点を切り口に、この問題を研究しています。表に示すように、β—位にフッ素を含むアルコールの融点は、フッ素を含まない(フッ素の位置に水素を持つ)アルコールよりも50−90℃も高いものです。このようなアルコールの類似物として取りフルオロ乳酸エステルの結晶構造を単結晶X線構造解析装置で調べたところ、結晶中に水酸基間の水素結合の鎖が存在し、それにより分子は爆竹状に整列していました。さらに、この結晶体の低角粉末X線回折装置による測定により、この結晶の溶融体の中でもこの水素結合鎖は切れず、「水素結合ポリマー」を形成していることを見つけました。
ここからは、物理化学の話です。
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高分子・光機能材料学研究室の山下です。
私のいる片柳研究所の窓からは中庭越しにフードコートの洒落た建物が見え、その斜面には皐月の鮮やかな色が目に眩しいほどになりました。工科大につづく道にはアジサイのやわらかな色が上品な味わいを出しています。これらの花の色は環境によって変化することはご存知だと思います。たとえばアジサイは酸性では赤、アルカリ性では青となる、と小学校で習ったのを覚えている人もいるでしょう。
花の中にはアントシアニンと呼ばれる色素が含まれています。物質の色は、その物質を作る電子軌道間での電子の遷移に伴う光の吸収によって決まります。電子の遷移エネルギーとそれに伴う光の吸収または発光の波長はプランクの法則 E=hνによって関係づけられ、この吸収された光の色の補色を我々は色として認識しているのです。
アントシアニンなどの色素は大きなπ共役系をもつため人間の目に見える波長(可視光)を吸収するようになり着色していますが、水素イオンが色素につくと、その遷移エネルギーが変化して色が変わるというしくみなのです。このとき、電子を吸引する性質の置換基と電子を供与する置換基の2つが同時に色素に作用して、電子を「押し」て「引く」という2つの力が同時に働くと色素の色は大きく変化します。
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今回で4回目となる 「工学基礎実験Ⅰ(C)」(本学科の1年生向け学生実験)の実験風景を紹介するシリーズ。今回のテーマは「中和滴定」です。
これまでの実験では化学実験のテクニックを学んだり、液晶セルを試作するなど、どちらかというと定性的なテーマが多かったのですが、今回の「中和滴定」では定量的な作業、つまり量をはかる作業をしっかりと学ぶことになります。重さや体積の測定を正確に行うこと、測定の原理を良く理解して、操作のどの部分に気を遣うべきかを判断しながら実験することが求められています。
さあ、学生諸君の「はじめての定量」が始まります
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過日のブログで、昨年のノーベル物理学賞の立役者、窒化ガリウム(GaN)を含む金属窒化物は多種多様な性質を持つ化合物群であるけれども、これまでに知られている窒化物の数は酸化物の数にはおよばない、と述べました。今日は、その理由を説明してみましょう。
窒化物や酸化物の合成では、金属を窒素や酸素と反応させなくてはいけません。窒化物の合成法の一例として、高温反応(窒化反応)を行っていることを先日のブログで述べました。窒化反応や酸化反応においては、N2;分子やO2分子の分子間の結合を切断する必要があり、N2分子の結合を切断するために必要なエネルギーは、O2分子を切断するために必要なエネルギーよりも大きいのです(N2分子の三重結合エネルギー; 941 kJ/mol、O2分子の二重結合エネルギー;500 kJ/mol)。
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ケミカルバイオロジー(chemical biology,化学生物学)は,比較的最近になって使われるようになった言葉で,化学と生命科学とが融合した学問・研究領域とされています.似たような言葉に,バイオケミストリー(biochemistry,生化学)がありますが,ケミカルバイオロジーとバイオケミストリーでは何が違うのでしょうか,バイオケミストリーが生命現象を化学構造や化学反応を用いて理解しようとする学問であることに対して,ケミカルバイオロジーは化学的な手法を用いて生命現象を解明する学問とされています.
このケミカルバイオロジーの研究分野のひとつとして,バイオイメージングという研究領域があります.これは,プローブを用いて生きたままの状態で生体分子の機能解析を行い,生命現象を解明しようとする研究領域です.ここで,「プローブ(probe)」という単語が出てきましたが,英和辞典で調べると「探り針」などという意味が出てきます.ケミカルバイオロジーでは,未知の生命現象を探る機能性の小分子のことを指しています.
具体的なプローブの例を一つあげてみましょう.図に示したのは,バイオイメージングの研究の先駆けのひとつで,2008年のノーベル化学賞の受賞者の1人であるロジャー・チェンらが開発したfura-2という化合物の構造です.
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「工学基礎実験Ⅰ(C)」(本学科の1年生向け学生実験)の実験風景を紹介するシリーズ、その3。今回は「液晶」です。
普通の会話では「液晶」は「液晶ディスプレイ」の事ですが、本来は化学物質の状態の名前です。可視光程度のスケールの構造がダイナミックに変化するので、ディスプレイを初めとしたいろいろな応用につながる面白い性質を示すのです。
さて、今回の実験ではヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を使って液晶の性質をみてゆきます。一見、ただの白い粉ですが水とまぜてていねいに混ぜると少し変わった色合いが...。
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藤原正彦先生は数学者であると同時に文筆家、評論家として有名で、改めて紹介するまでもなく皆さんご存知のことと思います。
私と藤原先生との出会いは、昭和55年駒場の教養学部に入った私が線型代数を教わったのが藤原先生でした。(ちなみにその当時、政治学を教わったのは舛添要一先生、猪口孝先生でした。) 当時、藤原先生の「若き数学者のアメリカ」を読み、海外の大学に赴き研究者としてチャレンジすることにあこがれを抱き、それがその後私がアカデミックの世界に足を踏み入れるきっかけともなった本です。
戦後日本には多くの優秀な科学者が育ち、その多くは若いうちにアメリカ、ヨーロッパに留学し研鑽をつみました。それどころか、欧米の優れた研究は日本から留学にきていたポスドクたちに支えられ発展したといっても過言ではありません。たとえばノーベル賞を受賞した根岸先生や利根川先生もその一人ですし、留学から帰国した先達はアクティブに今日の日本の科学技術を推進してゆきました。私が本郷の専門課程に進んだ後も授業の時や折節に、留学中に様々な苦労がある中でハングリーかつアクティブに活躍した話を聞いて、わくわくとしたものでした。同書では大学教授からみた大学の制度の批評や海外の暮らしの様子の紹介など、今読み返してみても興味深い1冊です。
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本学科の1年生向けの学生実験「工学基礎実験Ⅰ(C)」の実験風景紹介、その2。今回は「ガラス工作」です。
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私は皆さんに大学院への進学を強く勧めます。少なくとも修士、可能なら博士号の取得をお勧めします。今回は、なぜ博士まで進学したかについて、私(わたくし)個人の理由を述べます。
5.片桐の場合、人生の安全保障
私は、小学校6年の時(1972年)に父につれられ、アメリカのインディアナ州ブルミントンという人口3万人の町の中学校で1年間を過ごしました。父の留学先の研究室にいたポスドクの一人は、当時アルゼンチンの軍事政権の圧政下から亡命してきたアルゼンチンでは助教授の大学の先生でした。彼の家族は彼ごと合衆国に受け入れられ、そこに生活基盤を築くことを社会的にも経済的にも許されました。しかし、その弟さんの家族は許されませんでした。結局、その先生は祖国に戻られ、音信不通になってしまいました。
またその頃、ブルミントンで近所に住んでいた父の友人(陶芸家(修士)、同じ大学へ招聘されていた)から、「トシちゃん、お金は紙くずになるかもしれない、土地や家も奪われることがあるだろう、本も焼かれてしまう。でも自分に身につけた知識や能力はだれにも奪えない財産だよ」と教わりました。
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私は皆さんに大学院への進学を強く勧めます。少なくとも修士、経済的に許されれば博士課程への進学の検討をお勧めします。前回に続き、修士号や博士号を取ることのメリット、特に海外へ羽ばたくために必要な理由を以下にまとめます。
3.法的な社会的な制限
一部上場の技術職の採用はおおむね修士以上です。
これは海外の現地法人に赴任させる時にビザの関係で修士以上を要求されることがあるから、だそうです。アメリカやニュージランドの永住権資格の為のビザは「修士以上の学歴」を明示しています。海外へ事業展開をしている企業は修士号、博士号を要求します。
国内でも高校などの教頭や校長になるのには大学院への進学は有効です。
将来には、高校の先生には修士課程修了を求めるようになる、という話も公式に聞こえます。
4.海外での社会的地位
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1. 現代の科学技術の最前線に追いつくため
前世紀後半からの科学技術の進歩は凄まじいものです。自分のプロフェッションとして科学技術の職に就くつもりなら、その最前線を理解するに必要な知的基盤を必要とします。しかし、そのレベルは科学技術の進歩に伴い、どんどんと高度化しています。工学部でもそのような高度な技術を身につけてプロとなるためには、大学の4年間では不十分になってきました。医学部は昔から6年制でした。比較的最近に薬剤師養成の薬学部のコースは6年制になりました。すでに欧米(例えばドイツ)では6年制の工学部も散見されます。まだ今は大学卒でもそれなりにプロの道は開けています。しかし、社会で皆さんの活躍する20年後には、大学院卒でも今の大卒と、大卒は今の高卒と同じように処遇される時代になると思われます。
2.就職に有利
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本学工学部応用化学科に4月から入学した1年生の学生実験「工学基礎実験Ⅰ(C)」の実験風景を紹介しましょう。
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本学に工学部・応用化学科が設置されて2ヶ月が経過しました。現在最初の学部1年生が一般教養や学部・学科開講の講義を受けると同時に、できたての学生実験室で学生実験を行っています。学生が実験に取り組んでいるのをみていて感じることは、学生の皆さんが座学で学んできた、または、学んでいる化学の知識はそのほんの一部でしかなく、実験してみてはじめて気づくことがたくさんあるということです。
簡単な例として、「分子量Xの化合物AをY gはかりとり、水に溶かして100 mLの溶液を調整する。このAの水溶液のモル濃度を求めよ」という問題を考えましょう。これは高校化学でもよくある濃度の基本問題で、「Y/(0.100X) mol/L」と求めることができるでしょう。
では、この実験操作を実際に行うことを想像してみてください。まず、「化合物AをY g測りとり」というのは、家の台所にあるような天秤ではかってよいのか、それとも0.1 mgの違いもわかるような天秤でなくてはならないのか、実験の目的に応じて使い分けなければなりません。
次に、「水に溶かして100 mLの溶液を調整」については、メスシリンダーではかりとった100 mLの水に溶かすのでよいのか、メスフラスコで正確に100 mLの溶液をつくる必要があるのかも、目的が分析なのか合成なのかによって操作が異なるでしょう。もっと細かくいえば、化合物Aは通常の空気中で扱えるものなのか(潮解性や風解性等はないか)、また、水は水道水でよいのか蒸留水がよいのか等も考えなければなりません。本学科の1年生はまさに今、このような実験に臨んではじめて気がつく細かい事柄を体験・体感しています。
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前回に続き、化学実験で用いるスターラーのお話です。大きなビーカーのために大きな攪拌子(スターラーチップ)を用意したがすぐ「あばれて」しまい使い物にならない、という問題の、今回は解決編です。
まず、一つの解決方法としてスターラーチップとスターラー本体の距離を離す、という方法があります。簡単なモデル計算によれば本体の磁石のS極とN極との距離と同じ程度のスターラーチップを離せば安定に回転できるようです。
でも、ここでは別の工夫で「あばれ」ない大きなスターラーチップを作ってみました。
どうでしょう。これぐらい攪拌できれば充分ではないでしょうか。
さて、このスターラーチップ、どのようにして問題を解決したのでしょうか。以下の写真をみていただけれ一目瞭然かと思います。
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今回は実験室でのちょっとした工夫をご紹介。前半は問題の説明です。
化学の実験で用いられるスターラー、ご存じの方もいるかもしれませんが、ビーカーの中身をかき混ぜるための道具です。本体には磁石とモーターが入っていて、本体の上にのせたビーカーに、磁石をテフロン樹脂でコートしたスターラーチップ(攪拌子)を入れます。本体の磁石が回転すると磁石にくっついたスターラーチップも一緒に回転し、ビーカーの中を攪拌できる、という仕組みです。
普通に使う100mLや300mLのビーカーで使うには何の問題もありませんが、大きなビーカー、たとえば2Lのビーカーで使うと、ビーカーの周辺部を良くかき混ぜられない、という問題が。そこで大きなスターラーチップを買ってみたのですが、以下のようにあまり回転速度を上げられません。
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近年,「脱合金」による金属微細構造の作製が注目を浴びています.
「脱合金」(dealloying)は,2種類以上の金属が均質に混ざった合金(alloy)を強酸あるいは強塩基の水溶液に浸漬し,卑金属の成分を選択的に溶解除去する手法です.(“dealloying” の “de“ は接頭語で,attach:くっつける / detach:引き離す に代表される様に,「離れる」,「取り除く」などを意味します.) 適切な条件で脱合金を行うと,残された貴金属に無数のナノスケールの孔が形成されます.近年は,こうしてできた金属の多孔質構造を触媒に応用する研究が活発に行われています.
脱合金は,ナノスケールの金属加工を容易に行う優れた手法ですが,均質な合金の調製に手間がかかるほか,濃硝酸,水酸化ナトリウムなどの危険な試薬を使います.私は,純金属を出発材料にしたナノスケールの表面加工に関する研究に注力していますが,研究テーマの1つに,リチウムを使った電気化学的脱合金があります.