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色の化学(山下教授)

| 投稿者: tut_staff

621 高分子・光機能材料学研究室の山下です。

 私のいる片柳研究所の窓からは中庭越しにフードコートの洒落た建物が見え、その斜面には皐月の鮮やかな色が目に眩しいほどになりました。工科大につづく道にはアジサイのやわらかな色が上品な味わいを出しています。これらの花の色は環境によって変化することはご存知だと思います。たとえばアジサイは酸性では赤、アルカリ性では青となる、と小学校で習ったのを覚えている人もいるでしょう。

 花の中にはアントシアニンと呼ばれる色素が含まれています。物質の色は、その物質を作る電子軌道間での電子の遷移に伴う光の吸収によって決まります。電子の遷移エネルギーとそれに伴う光の吸収または発光の波長はプランクの法則 E=hνによって関係づけられ、この吸収された光の色の補色を我々は色として認識しているのです。
 アントシアニンなどの色素は大きなπ共役系をもつため人間の目に見える波長(可視光)を吸収するようになり着色していますが、水素イオンが色素につくと、その遷移エネルギーが変化して色が変わるというしくみなのです。このとき、電子を吸引する性質の置換基と電子を供与する置換基の2つが同時に色素に作用して、電子を「押し」て「引く」という2つの力が同時に働くと色素の色は大きく変化します。

622  この発色の仕組みを人工的に合成した色素に適用すると環境によって色を変化させる「機能色素」となります。化学の実験でよく使われるフェノールフタレイ ンという色素は酸性~中性では無色透明ですが、塩基性(pH~8.2)になると真っ赤になるため中和滴定などの指示薬として使われます。図の左の構造が酸 性~中性のフェノールフタレインです。塩基性になると、酸性のフェノール性水酸基の水素が引き抜かれ中央の図のような構造になります。このとき分子中にあ る+の電荷と-の電荷が電子を引く、押すという2つの力として働き、真っ赤になるほど大きな変化につながるのです。また、面白いことに分子内に+と-の電 荷をもつため、さらに塩基性にすると+の部分に水酸基がくっ付き、その結果電子を引くものがなくなってしまうので、色も消えてしまいます(右図)。

 このような原理をさらに最先端のデバイスへ応 用して、外部からの刺激によって物質の色を変えそれを情報として記録したり、あるいは物質の色の変化を材料の屈折率の変化とし、光をスイッチする素子とし て、刺激に応じて計算した答えを出す人工知能分子としての応用が進められています。われわれの身の回りのあらゆるものに最先端の科学技術へのヒントが隠さ れているのです。

山下 俊

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