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金属窒化物(その2)~酸化物の方が数多く知られているのは何故?(高橋教授)

| 投稿者: tut_staff

 

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 過日のブログで、昨年のノーベル物理学賞の立役者、窒化ガリウム(GaN)を含む金属窒化物は多種多様な性質を持つ化合物群であるけれども、これまでに知られている窒化物の数は酸化物の数にはおよばない、と述べました。今日は、その理由を説明してみましょう。

 窒化物や酸化物の合成では、金属を窒素や酸素と反応させなくてはいけません。窒化物の合成法の一例として、高温反応(窒化反応)を行っていることを先日のブログで述べました。窒化反応や酸化反応においては、N2;分子やO2分子の分子間の結合を切断する必要があり、N2分子の結合を切断するために必要なエネルギーは、O2分子を切断するために必要なエネルギーよりも大きいのです(N2分子の三重結合エネルギー; 941 kJ/mol、O2分子の二重結合エネルギー;500 kJ/mol)。

 

 また、窒化物イオンを生成するために必要なエネルギー(生成エネルギー)は、酸化物イオンの生成エネルギーの3倍以上必要です(生成エネルギー; N3-イオン;+2300 kJ/mol、; O2-イオン;+700 kJ/mol)。[実験化学講座 5版 23巻、日本化学会編、丸善]

 従って、大気を構成する約20%(窒素のおよそ1/4)の酸素と金属の化合物(金属酸化物)の方が数多く知られている(報告されている)結果となっているのです。

 さらに、金属窒化物の中には、酸素分子O2だけでなく、水分子H2Oと反応して対応する酸化物や水酸化物を生成するものがあります。

 このことは、窒化物を実用材料として応用する際にも問題になり、窒化物 の実用化研究における重要な課題の一つです。もちろん、金属酸化物の中にも水分子と反応して金属の水酸化物が生成する場合がありますから、窒化物が総じて 不安定だというわけではないので、誤解のありませんように。

 このブログで出てきた、窒化物や酸化物をはじめとする様々な無機化合物についての名著の一つ が、写真のStructural Inorganic Chemistryです。

 多様な性質を持つ金属窒化物の研究では、金属を組み合わせることで、さらに高い機能性を持った材料が創製されています(複金属窒化物)。この複金属窒化物のお話は、また別の機会に紹介したいと思います。

高橋 昌男

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