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書評 「常温核融合スキャンダル 迷走科学の顛末」(西尾教授)

| 投稿者: tut_staff

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 日本ばかりか世界を揺るがせたSTAP細胞事件は,高校生の皆さんの記憶にも新しいでしょう.残念ながら,類似の事件は世界中で繰り返し起こっています.1989年に米国で生じた,簡単な電気分解で核融合反応が進行したという「常温核融合」 ("cold fusion") もその一つです.この本は,著者の精力的な取材を通して,その顛末を克明に記録したものです.
 著者は,有名大学の教授をはじめとして257人もの当事者にインタビューを行い,約600ページにわたって生々しい実態を明かしています.この本を読むと,事態の深刻さと同時に,著者の凄まじい探求心・知的好奇心にも圧倒されます.(私は,自然事象に対しての好奇心はありますが,こういった事件の真相究明には...)
 研究は,決して大げさではなく,人類の未踏領域への挑戦です.独自の研究を進めるためには,他人には真似できない「妄想力」が必要です.しかし,妄想力と同様に重要な「的確な判断力」と「研究者の倫理」が欠如していると,その妄想に自らが支配されてしまう悲劇が待ち構えています.
 寺田寅彦は,「科学者になるには自然を恋人としなければいけない」と述べていますが,私自身は,自然と人は対等な関係ではないと思っています.人間,特に科学者は,自然に対しては「未熟だが真摯な学生」といったところでしょうか.

西尾 和之

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