書評「水俣病の科学(西村 肇, 岡本 達明 著 日本評論社)」(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
これは面白い本です。それも科学の面白さを伝えてくれる本だと思います。
もちろん興味深い、とか考えさせられる、という面もあるのですがそれ以外の科学の面白さ、あえて言えば「スリリング」な面白さを感じさせてくれる、というのが私の感想です。
内容は表題の通りで水俣病についての研究成果をまとめたものです。前半はかつてチッソの水俣工場で働いていた岡本氏が当時の状況を解説。水俣工場で水銀がどのように扱われていたか、など水俣病の原因特定までの議論の流れと対比すると興味深い内容です。
後半は水俣病の本当の原因が何であったのかを掘り下げる西村氏の研究報告で、この部分が非常にスリリングです。
「水俣病の原因は有機水銀」という型どおりの知識では説明できないこと、たとえば「当時チッソ水俣工場と同じ化学物質を製造していた工場は他にもあるのに、なぜチッソ水俣工場だけが水俣病の原因となったのか」といった疑問に答えられるように水俣病発生の過程をていねいに再現して行きます。その手法は現在でも確認できるデータに基づいた実証的なもので、システム科学の手法の良い応用例だと言えます。
科学的な研究の持つおもしろさ、判らなかったことが判るようになること、意外な発見によって現象の見え方が変わること、が生き生きと伝わってきます。このような科学のおもしろさ、あえて言えば推理小説的な面白さがこの本を読むことで感じられると思います。
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