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光で動く材料~フォトメカニカル材料(山下教授)

| 投稿者: tut_staff

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 自動車はガソリンでエンジンを回転させて動きますし、電車は電気と磁石でモーターを回転させて動きます。ジェット機は高圧ガスを噴射して動き、また、生物はATPで組織を変形させて動きます。
 近年、光エネルギーにより動く材料の開発が精力的に行われています。光で発電してモーターを回して動くのではなく、光エネルギーを直接材料の動きに変換する研究で、フォトメカニカル効果と呼ばれます。(右図をクリックしてください。フォトメカニカル現象の具体例です。)

 この研究は化学者にとっては大変魅力的なテーマです。
フォトクロミック分子は光を吸収して反応し分子の形が変わるので、光をエネルギー源として分子を動かすことは化学者にとって容易なことなのです。ところが、分子レベルで動いたとしても材料としては使えません。分子レベルの動きや変形を我々の目に見えるスケールまで増幅することが実は大変なテーマなのです。これまで多くの化学者がそのテーマに挑戦し失敗を重ねてきました。

 分子レベルの動きを材料全体に増幅する一つのアイデアは分子配向を制御することです。液晶分子は鉛筆のような細長い形をしているため分子がランダムに存在するよりも同じ方向に配列したほうがうまく分子を収容できるので、自発的に分子が並ぶという性質があります。筆箱から鉛筆を取り出し、ランダム状態にすると、きちんと並んでいた時に比べずいぶん大きな空間が必要になります。そこで、液晶分子に光反応で折れ曲がる分子を組み込んでおくと、屈曲した分子のせいで他の分子もきれいに並ぶことができず、大きな体積変化が誘起されることになるのです。

 このようにして合成した液晶構造とフォトクロミズムを複合化したフォトメカニカル材料が日本で開発されました。我々のグループでは光応答性基をもつ液晶を合成し、液滴であるにもかかわらず、光を当てるとそのサイズが拡大したり縮小するという興味深い材料を世界で初めて開発しました。添付の動画にその様子を示します。シャーレに入れた水面に我々が合成したフォトクロミック液晶を滴下し、下から紫外線を照射すると一気に液滴のサイズが拡大します。液滴の組成を変えると紫外線照射で収縮させることもできます。現在は、これらの材料を使い、心臓の鼓動のような動きをする人工生命材料の開発を行っています。

山下 俊

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