書評 広瀬弘忠「人はなぜ逃げおくれるのか」集英社新書 2004, ダン・ガードナー「リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理」早川書房 2009 (片桐教授)
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東日本大震災の「大川小学校の悲劇」をごぞんじでしょうか。川を遡上してきた津波により、小学生が多く飲み込まれてしまった悲劇です。この悲劇では逃げ遅れた、避難までに無駄に時間を費やした、適切な避難場所を選択できなかった、など人災的側面を多くもちます。その関係者の証言も二転三転し、震災直後の報道と、後日の報道では亡くなった教頭先生の言動がまるで逆にななったりしており、真実は薮の中に隠されている状況になっています。
さて、当初の報道では、裏山へ逃げることを主張した教頭先生に対して、他の教員や地域住民は「ここまで津波はこない」と主張し、意見の対立が起こり、時間を無駄にしたことが大きな原因ではないかと思われます。この「ここまで津波はこない」という主張の根拠は何だったのか、これがまさに「恒常性(正常性)バイアス」のなせる技です。
広瀬さんの「人はなぜ逃げおくれるのか」はパニックを抑えるこの恒常性バイアスのデメリットに焦点を当て、どのように危険事象に対応すべきかについて議論しています。
そして、この2冊の本を合わせて読むことにより、安全を学ぶこと安全情報の重要性を理解できるようになります。大川小学校の悲劇と対比される「釜石の奇跡」(=事前の避難教育の成果で、釜石では小学生の被害者が極端に少なかったこと)でも、津波被害の想定を小学生が理解し知っていたことが大きな成果となったことを理解できます。
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