恐怖の化学物質(山下教授)
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正解です!
サリンは,CH3P(O)FOCH(CH3)2 (分子量140.09)という構造をもつ化合物で神経ガスとして知られています。
私たちの身体は脳から神経を通して指令が伝達されます。この神経は数ミクロンほどの大きさの多数の神経細胞が連なった構造をしており、情報スイッチがオンにされると神経が「興奮」状態となり神経伝達物質を放出し、それによって隣の細胞も興奮状態となり、次々と隣の神経細胞に情報が伝達されるという具合に化学物質の伝達により情報が伝えられています。コンピュータなどの電化製品は電線により電気信号を伝えるのに対し、人間の中では化学物質がその役割を果たしているのです。
アセチルコリンは副交感神経や運動神経の神経伝達物質で、心臓などの筋肉にあるアセチルコリンの受容体に働き収縮を促進します。心臓は周期的に収縮、膨張を繰り返さなければならないので、神経のスイッチがオンになりアセチルコリンが放出されたままでは生命は維持できません。そこで体内にはアセチルコリンエステラーゼというアセチルコリンを分解する酵素があり、その作用で、神経が興奮したという情報を伝えた後に速やかに神経をオフの状態に戻し、正常に伝達情報をオン、オフしています。
サリンはこのアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害する物質であるため、正常な神経伝達ができなくなり死に至るのです。脳を溶かししたり、窒息させたり、あるいは体を分解させるような物質でなくても重要な情報伝達ができなくなるということは生命体にとって致命的であるわけです。
さて、様々な物質の毒性を表す指標の一つとしてLD50(lethal dose)というものがあります。単位は(mg/kg) で体重1kgあたり何mgの物質を摂取するとその半数が死に至るかという値です。表に主な物質のLD50を示しています。四塩化炭素は化学物質ですが、LD50が2350(mg/kg) ということは体重50kgの人ならば117gが致死量となります。約コップ1杯で死に至るというのは恐ろしいことですが、四塩化炭素は強烈な刺激臭があり、それをコップ一杯飲み干すというのは実は容易なことではありません。食塩やビタミンなどは生体に必須な物質であり、アセチルサリチル酸は医薬品ですが、生体と物質がかかわりがあるということは適正な量では効果があるものの、過剰量では生命にかかわる、すなわち毒と薬は表裏一体ということがわかります。
毒物として有名な青酸カリの致死量は3mg/kg程度、ダイオキシンでは0.0006mg/kgとなります。しかしこれらの化学物質よりもふぐの毒やボツヌルス菌などの生物由来物質のほうがよほど怖いということが分かります。
さて、さて、
この表の毒物は下のほうにゆくほど猛毒になりますが、これによって死亡した人の数はそれほど多くはありません。しかし、毎年国内だけでも数千人以上の人がある化学物質を飲んで死亡しているという事実をご存知でしょうか?そのような恐ろしい化学物質はどのようなものか、想像できるでしょうか?
実はこの物質は単純な構造をしており、化学式では・・・
H2O
と表せます・・・。
毒性によって死亡するのではなく、水に溺れて命をなくす、即ち水を飲んで死ぬというジョークです。
3年生のサステイナブル材料化学では分子の構造と物性の相関について様々な話題があります。味と匂いの化学、色の化学、超分子や生命機能などのトピックスを毎回、実験とデモを交えながら楽しく学び、いつしかわくわくするような高機能材料の世界がわかるようになる講義です。お楽しみに。
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