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コーオプ演習Ⅰにむけた教養講座「サステイナブル工学」(笹岡コーオプセンター長)

| 投稿者: tut_staff

(本学工学部の特徴、就業力を高める本格的なコーオプ教育について笹岡コーオプセンター長が直接紹介するブログ記事です。 本記事は工学部電気電子工学科BLOGにも掲載されます。)

 コーオプセンター長の笹岡(コーオプ教育担当)です。
 先日、工学部1年生のフレッシャーズゼミのポスター発表を見てきました。これは、4~5人のグループが工学部の各研究室を回り、研究内容をヒアリングして1枚のポスターにまとめるというものでした。会場一杯に数十のポスターが置いてあり、私も面白そうなポスターがないか見て回りました。工学部はサステイナブル工学に力を入れていますので、当然それに関わるポスターも目に入りましたが、その中で私の目についたのは「電気自動車は地球温暖化防止のためになる」という行でした。その学生は何の疑問もなく、ガソリン自動車と電気自動車を比較して書いたようですが、私は米国で環境科学も勉強したことがあって、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の考え方から「電気が何で発電されたかで変わるかもしれないよ」とそのポスター担当の学生に言いました。

 電気自動車は確かに電気で走り、そこから直接温室効果ガスは発生しませんが、その電気は発電所から送られてきています。「エネルギー白書2014」によれば、2012年時点で、LNGで42.5%、その他、石炭と石油を合わせた火力発電で、実に88.4%を占めています。火力発電の割合は2009年当時は61.7%でしたが、この急速な火力発電依存の背景には、ご存知の通り原子力発電所の稼働停止があります。このように今使っている電気の約9割は火力発電からきていますので、この電気を使うだけで実は温室効果ガスを発生させていますよね。また、発電した電気が電気自動車の給電所に届くまでの送配電ロスもありますし、さらに、電気自動車は電気を蓄電池に充電したのち放電してモーターを回します。蓄電池の性能次第ですが、その充放電の過程でも当然ロスが出ます。このように発電所で発電されされた電気もそのままロスなく電気自動車を走らせるわけではないのです。この辺のさらなる分析や研究は電気電子工学科の学生の良いテーマかもしれませんね。

 ちなみに、ネットのデータ (出典:http://www.eic.or.jp/qa/?act=view&serial=822)によれば各種発電方式の二酸化炭素排出係数(1kWh当たり発生するCO2の量kg)は、石炭火力 0.887kg-CO2/kWh、石油火力 0.704kg-CO2/kWh、LNG火力  0.478kg-CO2/kWh、原子力・水力  0 kg-CO2/kWhだそうです。

 一方、自動車はどうでしょう。当然排ガスには温室効果ガスが含まれています。その発生量は、ガソリン1ℓ当たりCO2換算で2.32 kgとなるそうです。でも、最近の自動車って燃費がすごく上がっていますよね。また、ディーゼルもありますし、さらに軽自動車の相当燃費はもっと良いですよね。それに自動車の場合はガソリンから直接エンジンを動かして動力を得て車を走らせていますので熱樓率も良いかもしれません。ただ、一方で、電気と同じく、原油からガソリンを精製する段階でエネルギーを使っていますのでそこでも温室効果ガスを発生させています。このテーマのさらなる分析や研究も出来れば機械工学科や応用化学科の学生にやって頂きたいなあと思う次第です。

 さて、今は火力が約9割ですが、つい最近、7月16日に経済産業省が「長期エネルギー需給見通し」を公表し、日本の将来(2030年度)のあるべき電源構成(ある意味ベストミックス)に結論を出しました。それによれば、原子力が20~22%程度、再生可能エネルギーは22~24%とほぼ同程度。それ以外は全て火力(LNG 27%、石炭 26%、石油 3%)です。LCAから見て、電気自動車とガソリン車がそれぞれどの程度の温室効果ガスを排出量するかはこの電源構成次第と言えます。将来は火力の比率が相当下がりますが、今はひょっとして電気自動車の方が温室効果ガスの発生量が多くなるということもあるかもしれません。

 政府はかなり政治的な要素も勘案して2030年度における電源構成のベストミックスを決めましたが、電気自動車とガソリン車のどちらがよりサステイナブルなのかなど、サステイナブル工学の視点から将来の日本の電源構成を考え直すことも面白い気がします。折角フレッシャーズゼミのポスター発表がキッカケですし、工学部の学生たちには後期から始まるコーオプ演習Ⅰ(グループワーク)でこれらをテーマに取り上げる人たちが出てきてくれないかなと、つい思わずにはいられませんでした。

笹岡 賢二郎

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