デフォルト問題とグローバル教育(山下教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
ある日の学生の会話です。
「最近テレビでギリシャのデフォルト問題が報じられているけど、デフォルトってどういう意味なの?」「債務不履行って言ってるね。ユーロを借り入れたものの杜撰な国家予算のため返済ができなくなったんだ。」「そうなんだ。でもデフォルトって初期設定っていう意味じゃないの?」「そうだね。つまりお金を借りても返さないってことが初期設定なんだ。返すのはオプションで、基本、返さなくっていいってことじゃね?」「そうだよね。よかった。」(お互い納得)
・・・・って、違います。
デフォルトは古期フランス語に語源がありde+fault 、本来やるべきことをやらないという意味です。スポーツなら試合を棄権すること、金融では返すべき借金を返さないという意味です。
コンピュータの世界では本来はダイアログにユーザーの選択肢を入れないといけないのに、それをしなかったという意味で、その場合コンピュータはあらかじめ設定された選択肢になるので、意味が転じて初期値のように解釈されているわけです。
なぜマスコミが急に債務不履行と言わずデフォルトというカタカナを使いだしたのか不思議に思いますが、きっと同じようなやりとりがあって、デフォルトの意味を知ってうれしくなったので使ってみたくなったのかなあと想像しています。
化学の世界でも似たようなことがあります。
実験では窒素や水素などのガスを使うことがよくありますが、水素ボンベをそのままアルファベットにしてHydrogen Bombでは水素爆弾になってしまいます。正しくはHydrogen cylinderです。
化学反応のとき有機溶媒が蒸発・揮散しないように冷却器をとりつけますが、英語ではcondensorです。日本語では電気回路のコンデンサーを思い浮かべますが、こちらはcapacitorといいます。
化学実験はテキストを読んだだけでできるものではなく、先生や先輩から手取り足取り教わる「修行」が必要です。「その世界」には独特の呼称があり、たとえば蒸留の際に出てきた留分を受けるガラス器具はアダプターですが、おそらく大多数の化学者は「イヌ」と呼んでいます。
化学の実験を遂行するには慎重に文献を調べ、過去の研究例や実験のポイント、危険性を理解した上で研究計画をたてなければなりませんが、その文献は基本的には英語で書かれています。また、優れた研究成果を上げそれを発表するのも英語で論文を書き、あるいは、国際会議(国内の会議でも一部は)で英語で発表をしなければなりません。
ところが、化学の教育において「カタカナ」が大きな弊害になっているのです。化学物質の多くはカタカナで命名され、中学、高校からそれを信じて大学に入ってきます。アルデヒド、トルエン、エノールエーテル、ゾルーゲル反応などなど・・・。ほとんど全てのカタカナはカタカナであり英語ではないので、海外でのプレゼンテーションでは全く通じないのです(英語が下手糞だと思われるだけではなく、コミュニケーションが成立しないという致命的な状態になります)。このような観点からも早い時期から英語や世界標準の表現を「デフォルト」として学ぶことが大切です(この場合のデフォルトは初期設定の意味)。
本学部では、サステイナブル工学、コーオプ教育とならび、グローバル教育を先進的な大学教育システムの3本柱としており、英語の教科書を用いた講義を実践しています。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)





