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WACE世界大会からの報告(笹岡コーオプセンター長)

| 投稿者: tut_staff

(本学工学部の特徴、就業力を高める本格的なコーオプ教育について笹岡コーオプセンター長が直接紹介するブログ記事です。本記事は工学部電気電子工学科BLOGにも掲載されます。)

 コーオプセンター長の笹岡(コーオプ教育担当)です。

 今日はコーオプ教育に関する世界的な会議に出席した報告です。

 コーオプ教育に関する世界的組織としてWACE(World Conference on Cooperative & Work-Integrated Education:世界産学連携教育協会)というのがありますが、8月19日~21日までの3日間京都産業大学において、その世界大会【URL: http://www.kyoto-su.ac.jp/path/wace/overview/index.html】が開催され、私も初日だけですが出席してきました。

 最初の基調講演では、「企業が求める人材と大学教育への期待」ということで山本忠人氏(富士ゼロックス株式会社 代表取締役会長)が講演されました。講演では、同社でも入社3年以内にミスマッチにより退職する社員が約3割いるが、なんと一人当たり約2500万円程度の教育費の損失とのこと、また、最近、企業で必要とされる能力は、チームワーク、誠実さ、課題解決力とのことでした。人材育成では、VFP(Visiting Fellowship Program)を紹介し、海外からも有給のインターンシップを受入れており、当初は中国を想定していたが最近はシンガポール、インドにも拡大しているとのことでした。また、インターンシップを通じて採用した社員の離職率は低い上、パフォーマンスも高いと言えるとのことであった。これらのことから、同社のコーオプ教育に寄せる期待の高さが伺われました。さらに興味深かったのは、同社に来たインターンシップの学生にアンケートしたところ、当然仕事に関する理解が深まったことが1位でしたが、2位が「自分に必要な能力が分かった」(23%)ことと、即ち「気付き」を得たことを上げていたとのことでした。学生は意外と自分の能力を客観的に確認したいのかもしれません。

 次に、分科会で「インターンシップ中のソーシャルネットワークの活用@ミシガン大学」に関する議論に参加しましたが、インターンシップ中の学生のパフォーマンスには、企業からのスーパーバイザーに加え、大学によるメンターによる学生のフォローが極めて重要であるとの報告がありました。具体的なメンターの役割について質問したところ、学生の生活面の相談役で、企業側の方に直接言いにくいことが相談できるなどとの説明でしたので、本学でも同じ会社でコーオプ実習を受け入た先輩が後輩のメンターになることも検討できるのではないかと思いました。

 午後からのジャパンプログラムでは、「企業・学生・大学から見た長期インターンシップの成果と課題」というテーマに参加し、最近実施された新潟大学と京都産業大学における長期・有給のインターンシップの成果を聴きました。会場は200人程度と大盛況であり、本テーマへの関心の高さが伺われました。発表者は、大学の先生、受入企業の担当者、実際に参加した学生たちでした。

 新潟大学の取組は、3週間(長期休暇中)の無給のインターンシップの後、学期中に3か月、週2日の有給のインターンシップを実施したとの報告でした。ただ、学生から一定の自信が得られたとの報告であったが、総じて期間が短く(時間が足りなくて)、学生も企業側も消化不良気味な印象であった。また、8名の学生に対し同数の教員が関与しており、今後規模を拡大するにはコスト・パフォーマンスの問題があるとのことでした。

 京都産業大学も13名が4カ月にわたって4社で有給のインターンシップ(週3日労働、週1日座学、八月に5日間の集中研修)を行ったとのことでした。最初の2名は「長期」という観点から、①仕事は(学生の能力では)難しいという理解が深まった、②仕事のできる人のイメージが分かった(基礎的な知識が完璧で、臨機応変に対応でき、仕事をうまく振り分けられる人)こと、後の2名は「有給」という観点から、③目標達成を達成すること(そのためにはメンバーとのコミュニケーションが大事)、④貢献することの難しさ(仕事には納期があり無限に時間は使えない、報連相が大事であること)を学べたことが成果であったと報告しました。非常に素晴らしい学生たちの中身の濃いプレゼンテーションだったと思いました。

 全体の感想ですが、今回コーオプ教育に関し世界的な情報交換ができた意義が大きかったことは当然ですが、コーオプ教育の費用対効果の問題を今後どうするかが日本の大学の重要な課題ではないかとの印象を強く受けました。日本からの事例紹介を聴いていると各大学とも学生数に対して相当数の教員を投入しており、今後コーオププログラムの一層の拡大を図ろうとすると、これまでのやり方では対応しきれないのではないかと印象でした。如何に合理的なコストと手間でコーオプ教育を実施するか、まさに本学工学部の取組はその試金石であると思った次第です。

笹岡 賢二郎

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