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ラジカルに関するあれこれ-2 丸山教授の冗談の思い出 (片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 学生時代、1988年にスイスのチューリッヒで行われた国際学会に参加しました。

 当時の私の研究テーマは「Grignard反応の機構」というものでした。今でも多くの基礎的な教科書はこの反応はアルキルアニオン(カルバニオン)のケトンのカルボニル基への付加反応としております。 しかし、本当はGrignard試薬という有機マグネシウム試薬からケトンへの電子移動と、それに続くアルキルラジカルの移動であることを実証しました。

 私の研究成果の1つは、このアルキルラジカルの移動にはもう1分子のGrignard試薬の作用を必要とすることの実証でした。そして、過剰のジケトン(Benzil ジフェニルジケトン)を用いると、すべてのGriganrd試薬は電子移動をおこしてしまい、アルキルラジカルの移動は極端に阻害され、超寿命化したのラジカル種を観測できることを見いだしていました。

 指導教官の丸山教授はこの「超寿命ラジカル種とその発生を学会発表のときに見せたい」、と強く所望されました。

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無茶な要求だと思いました。それでも、真空中で完全に脱水したガラス管内に封じ込めたBenzilとGriganrd試薬を、薄いガラス膜で隔てた構造の反応器を3本作り、これを機内持ち込みの手荷物にいれてスイスまで運びました。
 鞄を横にすればそこで反応してしまうため、苦労しました。シンガポール経由で23時間の飛行(当時はソ連上空を通る直行便はなかった)にも耐え、3本中2本の反応器を無事に学会会場に届けました。
 実際に、目の前で黄色いケトン溶液がGrignard試薬に触れると紫色に変わり、そのままその色を示し続ける様子を示すことができました。学会参加者の賛辞の中、教授がドヤ顔をしていたことを思い出します。

 その次の日、国際学会のエクスカーション(懇親を深めるための小旅行)で、丸山先生は昨日の発表がうまく行ったのですごく上機嫌でした。昼ご飯のときに出てきたシンケンザウアー(肉とキャベツの酢漬け)を食べながら、「片桐君、この料理はシンケンに食べなければならないぞ。ワハハハ。」と普段の厳格な教授からは想像もできない冗談を飛ばしていました。
 私はというと、こんなときにどのような顔をしたら良いかわからず、乾いた声で「アハハハ」と笑うばかりでした。ルッツエルン湖の周遊ボートの上で,「片桐君、あのラジカルはまだ生きているかね?。」「そうか、もしかしたらボクよりも長生きするかもしれんぞ、ワハハハ」と言われたのをよく憶えています。

 さきほど(2015年8月)、3本のうち、私がもらった1本を取り出してみると、若干色あせたものの、まだ赤紫色のラジカルは生き残っていました。2005年に亡くなった丸山先生よりも、もう10年以上も長生きしています。もしかしたら、私より長生きかもしれません。

片桐 利真

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