logの底はいくつですか?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
表計算のソフト MS Excel のVBA (Visual Basic for Application)でプログラムを書いているときのこと。
「あれっ! 関数 LN() がコンパイルエラーになる。」
この関数、Excelのシートでは使えるのですが…。
LN()は ln、つまり自然対数のことです。「えっ!自然対数は底を省略して log と書くのでは」と思った人、あなたは若い!今の高校の授業では自然対数を log と書くのですが、昔は常用対数(底が10の対数のこと、つまり log10 )を log と書いていたのです。つまり「 log 」という記号が表す関数は昔は10が底の常用対数、いまはeが底の自然対数へと、いつの間にか変更されてしまったのです。
このため、いろいろとやっかいなことが起こります。最初に書いたExcelの関数の問題もその一例です。=LOG(10)はシート上では1ですが、VBAでLOG(10)は2.302585093を返します。ややっこしいですね。
授業のなかで、しかもテスト問題にからむとさらにやっかいなことになります。
私が受け持っている化学工学についての授業でのことです。今の高校の教科書に合わせて授業では自然対数を log と書いていたのですが、小テストでは自然対数と常用対数を間違える人が続出する結果に。
学生諸君に話を聞いてみると「関数電卓でLOGのボタンを使って計算した」とのこと。一般的な関数電卓ではLOGは常用対数、自然対数はLNなのです。教科書の記述に合わせて授業を行っていると、世の中の常識と食い違ってしまうのです。
教科書を使っているひとは毎年入れ替わりますが、関数電卓を使っているひとは入れ替わることはありません。メーカーが「さあ、今年からLOGは自然対数だよ」と言ったとしたらクレームの嵐になるでしょうね。
さて、なぜこのような面倒な状況が生まれたのでしょうか。
高校の教科書は教育指導要領にしたがって作成されます。昭和35年10月施行の高等学校学習指導要領では常用対数を教えることが明記されていますが、昭和45年のもの(施行は昭和48年4月)からは常用対数に関する記載はなくなっています。ただ、学習指導要領には「 log 」を自然対数とする、という記述は見られません。いつの頃からか、常用対数を教えないなら底を省略した「 log 」は自然対数であるほうが自然だ、ということになったのでしょう。
自然対数の底 e (ネイピア数)は円周率などと並ぶ普遍的な定数です。「 ex は微分を繰り返しても同じ ex 」というところなど e が特別な数字であること印象づけるものであり、対数関数の微分積分を教えるなら自然対数を教えないことはあり得ません。自然科学には自然対数が必須です。
でも自然科学の分野でも常用対数が使われているところもありますね。
はい、そのとおり。化学の分野で使れているpHの定義に表れているのは常用対数ですよね。
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