測定精度は何桁まで達成できるか(江頭教授)
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先に書いた、応用化学科の学生実験、「工学基礎実験Ⅰ(C)」のレポートの「実験精度100桁」の言葉に触発されたブログ記事、今回はその第2弾です。
前回は「宇宙すべての物質を使った実験」などと少々羽目を外したので、今回は少し真面目に「実験精度はどのくらいの桁数が達成できるのだろうか」という問題について考えてみましょう。
いろいろな測定例があるでしょうが、比較的多くの人が感心を持ち、複数のグループが測定精度の限界に挑んでいる、といえば物理や化学で使われる定数の測定ではないでしょうか。
米国のNIST ( National Institute of Standards and Technology ) のWebサイトにある The NIST reference on Constants, Units & Uncertainty のページにはこの様な定数の測定結果がまとめられています。
たとえばアボガドロ数の値は
6.022140857 x 1023 mol-1
であり、相対誤差は1.2 x 10-8。8桁に近い精度があるといいます。
ガス定数は
8.3144598 J mol-1K-1
こちらの相対誤差は5.7 x 10-7ともう少し精度が低いですが、それでも6桁程度の精度があります。
他にのいろいろな定数の測定値が並んでいますが、もっとも精度が高いのはどの定数でしょうか?
真空中の光速は
299792458 ms-1
です。その精度は...100桁?いえいえ、なんと無限なのです!
もちろん、無限精度の実験が可能になった、というわけではありません。真空中の光速は現在、SI単位の基準として用いられているから、というのが無限の精度の理由です。
少し説明が必要ですね。以前は長さの基準はメートル原器という「物差し」が基準になっていました。(それ以前は地球のサイズが基準でした。)メートル原器は1メートルの長さの物差しですが、その意味は「メートル原器の長さを1メートルとする」ということですから、当時のメートル原器は正確に1メートルだった訳です。
メートル原器の長さが変わってしまったり、何かの事故で壊れて長さの基準が無くなってしまう、そんなことがないように現在では長さの基準は光の速度を使って決められています。光が先に示した光の速度の逆数の秒で進む距離、それがが1mと定義されているのです。
他にも幾つかの物理定数が単位系の基準としてもちいられていますが、新しい基準が、いままで使われていた単位と矛盾しない様にするため、測定の精度は限界まで高められる必要があります。そのためにも物理定数の高精度の測定が行われているのです。
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