講義「有機化学1」第1回目の講義から-2 有機化学で使う5種類+1種類の矢印(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義の大事なポイントを読み物にして、解説して行きます。
有機化学の共鳴構造式や反応式では5種類の矢印を使います。今回は、それについて解説します。
まず高校の教科書でもよく出てくるのは,反応を表現する→と、平衡反応を表現する⇄です。
式(1)で示している反応の矢印については、あえて解説の必要もないでしょう。1ステップの反応は式(1)で表しますが、いくつかの反応を略する場合には式(2)のように表現することもあります。
式(3)で示す平衡の矢印は、いつでも同じではありません。平衡の偏りをその矢印の相対的な長さで表現します。例えば、式(4)の平衡は、右側にずれている、すなわち化合物Cが大量になっていることを示します。
さて、高校で習わないのが、式(5)の共鳴構造式の矢印です。これは同じ物質の極限構造式の間をつなぐものです。共鳴式で表現されている化合物の実際の構造は、複数の極限構造式の線形結合=足して割ったものであると言えます。例えば、式(5)で表すベンゼンの6つの結合は単結合よりも短く、二重結合よりも長い1.5重結合です。これを2つの構造で表しています。そこで、1つの構造式で示す場合は式(6)のように表す場合もあります。
興味深いのは、この極限構造式から実際の分子の結合の強弱(結合次数の違い)を推定できることです。ナフタレンは式(7)の つの極限構造式で表されます。このとき、ナフタレン分子のそれぞれの結合に2重結合が来る極限構造の個数は式(8)左図に示すようにそれぞれ異なります。そして、実際の分子の結合長はそれぞれ式(8)の右図に示すような値になります。つまり、極限構造式の共鳴式から推定される結合次数の大きなものほど、結合長は短い=強い結合になっていることがわかります。
電子対の流れ、あるいは一電子の流れを表す巻き矢印は、1926年に有機電子論の創設者の一人であるロビンソンにより提唱されました。電子対の流れは極限構造式や反応式や平衡式に共通のものです(例えば式(5))。矢印の返しが半分しかないものは一電子の流れを表すもので、生成物はラジカルになります(式(9))。
最後に、逆合成という思考プロセスを表す白抜きの矢印があります。これは合成の戦略の概略を示すのものです。ですから、目的物からその原料へその個々の合成反応とは逆向きにおきます(式(10))。
以上のように有機化学では、いろいろな矢印を用いて、異なる反応式や共鳴式、合成戦略などを表しています。まずは、憶えることです。
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