換算係数(山下教授)
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先日、末娘からなぞなぞを出されました。
学生3人が旅館に泊まりました。宿泊費は1人1万円で、学生の1人が集金した3万円を宿の女将さんに渡しました。女将さんはしばらくして「学生さんだから少しおまけしましょう」と思い、5千円を学生に返すようにと女中さんに手渡しました。女中さんは、「5千円は3人で割り切れないから、自分が2千円をもらってしまいましょう」と考え、残り3千円を学生に返しました。宿代は3万円でしたが、学生は1人千円づつ返してもらったので、1人9千円の支払いをしたことになります。学生が払った9千円×3=27000円と女中さんがもらった2000円を足して29000円となりますが、残り1000円はどこに消えたのでしょうか?
横で聞いていた母親が思わず吹き出してしまいました。
化学の勉強をしていても似たようなことに出くわすことは少なくありません。ある酸性溶液に試薬を入れて反応させてから滴定を行った、とか、試薬Aと試薬Bを反応させるとき一方が過剰量あるのですべて反応させることはできないとかです。慎重かつ合理的に順序をおって考えれば必ず解けるのですが、濃度と物質量の換算とか、単位の換算などがからんでくると見かけ上複雑になり混乱してしまいます。
このようなとき、「換算係数」という方法を用いると、頭を使うことなく機械的に単位や量を変換することができるのです。
換算係数とは、対応するものを等号で結び、左右の項を互いに割ることによって作った係数です。
たとえば1ポンドは453.6gなので453.6g=1lb(lbはポンドの表記)とおき、この式の左右が等しいことから、左辺または右辺で等式を割って得られる分数はいずれも1という値をもつことになります。
453.6g/1lb = 1lb /453.6g = 1
これを与えられた物理量にかけることによってその単位を変換することができます。たとえば、牛肉0.5ポンドは
0.5lb × (453.6g/1lb ) = 226.8g
とわかります。換算係数は値が1なので、どれを何回かけても元の値は変わることなく正しいのです!
換算係数の便利なところは、単位の変化だけではなく、体積と重さの相関、混合物中の純物質の量などさまざまな対応関係にある物理量に適応できることです。
たとえば、補助単位の変換として1000g = 1kg とか、体積と重さの相関として100ml = 80g とか、あるいは映画館の入場料として5人=1500円など、いずれも上述の方法に従って換算係数をつくることができます。
化学基礎のテキスト(*1)に次のような問題があります。
「釘箱に75本の鉄釘(総質量0.25lb 1lb=453.6g)が入っている。鉄の比熱容量を0.452Jg-1℃-1とする。釘30本を16℃から125℃へ温めるのに必要なエネルギーは何ジュールか?」(一部改変)
まず、対応関係にあるものを等号で結び、換算係数を作成します。求められているの釘30本のエネルギーなので、釘30本にその換算係数を順次掛けてゆきます。
釘30本×(0.25lb/釘75本)×(453.6g/1 lb) ×(125-16)℃×(0.452Jg-1℃-1)
もし、換算係数の使い方が間違っていると(たとえば換算単位として釘75本/0.25lbを用いると)、得られた答えの単位が変になっているのですぐに間違いに気づきます。十分に内容が分かって計算すれば申し分ないのですが、まったく分からなくても求める単位になるように適当に換算係数をかければ答えが得られてしまうという魔法のような係数なのです。
「青銅100g中には80gの銅と20gスズが含まれる。重さ1.75ポンドの青銅の像をつくるには銅は何キログラム必要か?」(同テキスト)
このとき、青銅の重さも銅の重さもいずれもグラムなので単に、100g = 80g として換算係数を作ったのではどちらを分母とするか困ってしまいます。しかし青銅100g=銅80gとして換算係数をつくると、
青銅100g/銅80g または 銅80g/青銅100g
という換算係数ができ、同じ重さであっても銅どうし、青銅どうしでなければ約分できないとすれば、単位の換算も含めて下記のように計算できます。
青銅1.75lb×(453.6g/1 lb)×(銅80g/青銅100g)×(1kg/1000g)
身の回りの、およそ化学的でない様々なものの量関係を換算係数にして、試してみると面白いですよ。
*1 渡辺正、尾中篤訳「ティンバーレイク 教養の化学」(東京化学同人)
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