単位の話(山下教授)
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今年度大学に入学した学生諸君は前期の成績が出て一喜一憂していることと思います。
大学生が最も気にするものは「単位」、これがないと卒業できません。20年ほど前は大学での学びの自由度も大きく、自分の興味のある科目を好きなだけ履修することもできましたし、講義が気に入らなければ授業に出席せず、それでも試験を受けて単位をとることもできました。当時の学生は制限がない分、自分の将来を考え、それを実現するために必要な教養をどのように身に着けるか必死になって考え、のびのびと学んでいた気がします。
私の場合、複雑な構造の有機化合物から様々な機能が生まれることに興味をもち有機系の研究をしたいと漠然と思いましたが、有機化学を知るためにはそもそも化学結合を知る必要があり、それを理解するためには量子化学、および量子力学を理解する必要があり、量子力学を理解するためには線形代数、解析力学、行列を学ばなければならない・・・と推論しました。
そこで大学の教養科目で開講されているもの以外にも関連している講義をとり、あるいは「もぐり」で聴きにゆき、あげくの果てには数名の仲間があつまり洋書をテキストとして輪講形式でプリゴジンの書の勉強を始めたものののなかなか手ごわいため、当時東大生産研におられた妹尾学先生の研究室に押しかけ妹尾先生を巻き込んで「押しかけ輪講」なるものを始めました。それがきっかけで大学の研究所で研究をする先生の姿に心惹かれることとなりましたが、当時妹尾先生はずいぶん多忙であったことと思いますが、勝手に押しかけてきた学生に非常に丁寧に指導をしてくださり、感謝しております。
さて、本日の話題は大学生の気にする「単位」ではなく、自然科学で出くわす「単位」についてです。
我々の回りの世界にはさまざまな「状態」があります。それを測る指標が「単位」です。人間の身長は「長さ」、体重は「重さ」によって測ることができますが、体重を長さで測ることはできません。現象ごとに、それを測るのに適した指標があり、それを次元とよびます。自然界にある様々な物性を測るには7つの次元、すなわち「長さ」、「質量」、「時間」、「電流」、「温度」、「光度」、「物質量」が必要で、科学の分野では国際単位系 (SI単位、Le Système International d‘Unités: International System of Units)としてそれぞれの次元を測る基本単位を定義しています。
また、車の速さはある時間にどのくらいの距離を進むかというものなので「長さ」と「時間」を組み合わせたものということができます。自然界にある物理量は上記の7つの単位を組み合わせることによって定量化することができるのです。
長さを表すには、メートルやセンチメートル、インチや尺など様々な単位があります。どの単位で測っても長さの指標を得ることができますが、一方、いろいな単位が混在していては、異なる単位のものを比較したり交易をするうえで不便です。科学的な議論をするためには基礎となる単位を厳密に定義しておかなければなりません。
長さの単位がまだ明確でなかった大昔は、あそこまで「何歩」でゆけるかとか、手のひらで幾つ分の長さか、などで話をしていたことでしょう。それでは人によって長さが異なるのできちんとした単位を決める必要があり、1790年科学者が集まり長さの標準を決めることになりました。そこでは「周波数が1/2秒となる振り子の長さを1メートルと定義」したのでした。
きちんとした定義がなかった時代にくらべると、非常に明快な長さの定義がされたことになります。しかし、どんどん長さの精度を上げてゆくと、振り子の空気抵抗による遅れや、そもそも時間測定の正確さが長さに影響するなどさらなる精度が要求されるようになりました。そこで、科学技術の進歩にともない、より精度よい長さの定義が行われました。
1791年 パリを通過する北極点から赤道までの子午線の距離を1千万分の1にした長さを1メートルとした。1795年 黄銅製の暫定的なメートル原器が製作された。1799年 白金製メートル原器(アルシーブ原器)を基準に指定した。1869年 アルシーブ原器そのものが1メートルの基準とされた1889年 白金と10%イリジウム合金製メートル原器に刻まれた2本の線が、氷が融ける温度にて示す距離を1メートルと定義した。1927年 温度0℃・標準気圧の環境にて、水平面上に間隔を571mm開けて平行になるよう設置した直径1cm以上の円柱(ロール)2本の上に白金 - イリジウム合金製メートル原器を置き、原器に刻まれた2つの中心線の軸を挟む距離を1メートルと規定した。1960年 クリプトン86原子の準位2p10と 5d5との間の遷移に対応する光の真空中における波長の1650763.73倍に等しい長さを1メートルとした (SI単位)1983年 真空中で光が1/299792458秒に進む距離を1メートルとした。
1889年の定義はメートル原器の熱膨張による誤差をなくすよう考えられていることが読み取れます。1927年の定義に至っては妙に理屈っぽいなあという気さえします。1960年にはそれまでの泥臭い定義から一気に分光学を駆使した定義となり背景にある科学技術の進歩が読み取れて興味深いものです。そして、1983年には光速から長さが定義されました。
どの定義にしてもそれを実測するとかならず誤差が生じますが、定義が何であるかを明快にしておくことによって、それ以降の議論が合理的に進められるのです。
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