講義「有機化学1」 第2回目の講義から-1 有機化学でなぜpKa?(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義の大事なポイントを読み物にして、解説して行きます。
多くの有機化学の教科書では第2章とか第3章でpKa(酸性度)を扱います。「有機化学でなぜ酸性度?pKa?」と疑問に思う学生さんも多いと思います。
以前、有機分子の構造の理解の歴史をお話ししました。「形」がわかるようになったら、次に何を求めるでしょうか。ここが、高校の化学と大学の化学の境界線です。高校と大学の化学の違いは「定性的」か「定量的」かの違いです。
では、「形」を定量的に表すにはどうすれば良いか、エネルギーと言う概念がこの手段として使われました。形というベクトル値をエネルギーというスカラー値で表すことは想像しにくいものです。しかし、それを可能にしたのは「量子」という概念でした。量子化学で、以下の式を習います。
Eψ = Hψ
この式でEはエネルギー値、ψ(プサイ)は電子の軌道(形)を表す波動関数と呼ばれるもの、Hはハミルトニアンと呼ばれる演算子(計算式)、です。つまり、形(ψ)とエネルギー値(E)が式で関係づけられるわけです。
20世紀初頭の量子論の勃興は有機化学にも大きな影響を与えました。20世紀の前半、分子の性質や機能をエネルギーで表そうとする動きが生まれました。
さて、pKaは−logKaです。ここでKaは平衡式の中のH-Aに由来するものを抜き出したものです。つまり、H-Aの性質を表す平衡濃度式になります。これをlogするとエネルギーの次元になります。そして、−をつけると、この数値はおおよそ「H-AがH+を放出してA−になるときの、A−の安定化の程度をエネルギーで表したもの」となります。ただし、上記の表現は有機化学の教科書でしか通用しない若干のウソ(方便)を含むことをご承知ください。
このようにpKaがエネルギーしかも電荷を持つことにより不安定化しているA−の安定化の程度をエネルギーで表したものであることを理解できれば、これが反応をエネルギーで理解する基礎になることも理解できるでしょう。そして、強い酸のpKaが小さな値になることも理解できます。
ここで、6 kJ/molの法則を知っておくと良いでしょう。1:1の平衡の場合はもちろんその2つの状態のエネルギー差は0 kJ/molです。ここで、1:10の場合は6 kJ/molほど後者の方がエネルギー的に低い(安定化)しており、1:100の場合は12 kJ/mol、1:1000の場合は18 kJ/molになります。これを憶えておくと、大まかに平衡からエネルギー差を、エネルギー差から平衡比を見積もることができます。
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