講義「有機化学1」第2回目の講義から-2 ハメットの置換基定数(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義の大事なポイントを読み物にして、解説して行きます。
さて、前回の続きです。
酸のpKaを決める要因は、大きく4つあります。
(1) 元素効果、プロトンのついている原子の種類により大きく変わります。これは、その原子のか電子の軌道準位が低い=高い電気陰性度を持つ=エネルギー的に安定化しているほど、その軌道側に電子が偏り、それによりプロトンの陽電荷が大きくなるものです。同じ周期の炭素、窒素、酸素、フッ素を比べると、おおよその値ですがC(sp3)-HはpKa=50、N-HはpKa=38、O-HはpKa= 16、F-HはpKa= 3.2となります。
(2) 混成効果、上記と同じ理屈で、sp3炭素についた水素(pKa = 50)よりも、sp2炭素についた水素(pKa = 44)の方が、そしてsp炭素についた水素(pKa =25)の方がさらに小さくなる=高い酸性度を持つと言うものです。これはp軌道に比べてs軌道のエネルギー準位が低く、その影響を大きく受けたsp混成軌道のエネルギー準位が低いことによります。
(3) 誘起効果(I効果)、プロトンを放出した共役塩基の陰電荷は一カ所に集まっているよりも、分散する方が安定化します。陰電荷中心の近傍に電子求引性の置換基がつくと、それにより陰電荷が非局在化し、より安定になります。逆に電子供与性の置換基がつくと、不安定化します。これにより酸性度へ影響が出ます。例えば酢酸のpKaは4.76ですが、電子求引性基のついたクロロ酢酸(CH2Cl-COOH)のpKaは2.87になります。
(4) 共鳴効果(R効果)、誘起効果と同様に、共役塩基の非局在化が進むと、安定化します。例えば、酢酸の共役塩基の陰電荷は2つの酸素原子の上に非局在化するため、アルコールのpKa = 16にくらべて小さなもの=高い酸性度(pKa = 4.76)になります。
Hammettは1938年に、この(3)と(4)の効果に着目し、置換基の影響をエネルギーの尺度で表そうとしました。置換安息香酸の場合、メタ位に置換した場合はほぼ誘起効果だけが効き、パラ位に置換した場合は誘起効果と共鳴効果が効きます。これらの安息香酸としての酸性度のpKaへの影響を置換規定数σで表しました。
置換基の効果をどのようにエネルギーの尺度で記述するかについては、その後の長い研究の歴史があります。その中で、湯川先生-都野先生や岡本先生の業績は大きなものです。
今、手元に1940年にハメットさんの書かれたPhysical Organic Chemistryという書籍があります。8年ほど前に古書店で見つけて購入しました。知る人ぞ知るこの書籍は有機化学にエネルギーの概念を導入したランドマークです。
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