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2015年11月

2015.11.30

ハリーポッターの魔法を解き明かす光と化学(山下教授)

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 7月に東京ビックサイト、10月には仙台夢メッセにて開催された「夢ナビ」にて講演を行ってきました。

 夢ナビは全国の高校生を対象に、大学の教員が講義をするイベントです。文科系から理系まで多くの分野の講義があり、3万名ほどの高校生が集まるため会場は熱気であふれていました。私は、昨年から「ハリーポッターの魔法を解き明かす光と化学」というタイトルで夢ナビの講義を担当しています。夢ナビのイベントでも1,2を争う人気科目となり、ブースに入りきれない人たちは後ろから立ち見となりました。

 もともとこの講義は、本学のオープンキャンパスの際の模擬講義の一つとして立案されたものでした。現在では物質は原子・分子から構成させていることは誰でも知っていますが、昔は金属のように固いもの、水のようにさらさら流れるもの、火のようにゆらゆらするものなど、一体何からできているのか不思議で堪らなかったに違いありません。石や水が、つきつめれば同じ粒子、すなわち陽子、中性子、電子からできているなど、現在でも直感的には信じがたいことでしょう。昔の人たちも物質の本質を知ることに興味をもちました。彼らはどの物質にも、それをその物質たらしめる精がはいっていると考えたのでした。火の中には火の精、水の中には水の精があるというわけです。もしその物質から精を取り出し、別の物質にその精を入れれば物質を変えることができると考えました。たとえば、金の精を他の物質に入れればその物質は金になってしまいます。これが錬金術の名前の由来です。しかし、当時の錬金術師たちが目指したのは単なる金儲けではなく永遠の生命を得ることで、即ち、生命の精を得て不老不死となることだったのです。

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2015.11.27

理系の文章技術(ノウハウ編)-3(片桐教授)

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「理系の文章技術(ノウハウ編)-2」はこちら

3 辞書を手元に置こう

 文を構成する最小単位は単語である。英語の読み書きにおいてボキャブラリーは重要なように、日本語の文章作成時においても語彙の豊富さは重要である。自分の言いたいことをずばり表す言葉を知っていれば、分かりやすい文章を書ける。しかし、日常会話において使用する語彙数はそれほど多くない。しかも、自分は日本人であるという「根拠の無い」自信ゆえに、積極的に語彙を増やそうとは考えない。そのため、少ない語彙で微妙なニュアンスの差を表現せざるを得なくなり、文に無理がかかる。

 文章を書くときは辞書を手元において活用しよう。このとき電子辞書ではなく紙の辞書が好ましい。引いているときに、その他の言葉が目に入り知らず知らずのうちに蓄積する。英語では3 feet ruleと言われる規則、すなわち「半径1 m以内に辞書の無い場合は文章を書いてはいけない」という規則を守ろう。なんか表現がしっくり来ないときはそのしっくり来ない表現の類義語を探すこと。類義語をそのまま使うのではなくそれも一度辞書で引いてから、より良い類義語を探すこと。

 片桐は、学生時代(修士課程の1年時)に自分の語彙の少なさを自覚せざるを得ない事態に陥った。その時、比較的薄い岩波の国語辞典を「端から読む」という暴挙を行なった。その結果、…少しはましになった。また、そのような経験から学んだことは、このような日本語のブログを書く際の参考になっている。完璧に行なうことは不可能であっても、努力を行なうことによる蓄積はあなたの実力を持ち上げる。

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2015.11.26

学長講話がありました(江頭教授)

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 昨日(11月25日)、本学工学部の学生を対象として軽部学長による「学長講話」が行われました。応用化学科の学生も機械工学、電気電子工学の学生と一緒にメディアホールで約一時間半、学長のお話しを聞きく時間を持ちました。

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さて、今回の学長のお話は本学の歴史についてです。片柳理事長の戦前から戦中の経験、戦争直後に立ち上げた絵画と洋裁の学校の話から東京工科大学の成立、そして今回の工学部の発足に至るまで、約70年間の歴史を駆け足で振り返る内容でした。

 こう書くと、「なるほど、理事長や学長にとっては懐かしいお話しかもしれないけれど、それが私たちとどんな関係が?」と思う人も居るかもしれません。

 しかし、この話にはもう一つの意味があると私は思いました。

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2015.11.25

講義 「有機化学1」 第4回目の講義から-1 配座異性体、アトロープ異性体の話(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 異性体の分類については、教科書により大きく異なります。図には、その一例を示しています。ここで、話を難しくしているのが、異性体間の相互変換の早さです。

 例えば、アミンの非共有電子対はsp2構造を経て反転します。そのため、原理的には2つの対掌体は存在していても、テクニカルに分離できません。そのため、この2つの対掌体は「(実質的に)同じもの」とされます(式1)。

 同様の現象は、シクロヘキサンのフリップフロップにも言えます。2つのコンフォマーは分離できないので、原理的にはジアステレオマーであっても「(実質的に)同じもの」とされます(式2)。

 一方、単結合周りの回転が阻害されている場合、例えばBINOLという化合物では、2つのコンフォマー間の変化ができないため、分離することができ、これは対掌体とみなされます。このような分子をアトロープ異性体と呼びます。

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2015.11.24

学生実験をみてみよう(第2期) その7「高分子合成の初歩」(江頭教授)

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 プラスチックは化学産業の代表的な製品のひとつであり、今では人々の生活に不可欠な材料となっています。今回の学生実験ではプラスチックを合成する反応、数多くの小さな分子を合体させて巨大な分子、高分子、を作る反応、つまり「高分子の重合」がテーマです。

 高分子重合の実験の見た目はこんな感じ。「液体を量りとる」「別の液体を量って加える」「また別の液体を量って加える」「液体をよく混ぜて小分けにする」「それぞれの液にさらに別の液体を加える」。うーん、化学の実験のかなりの部分は大体こんな見た目です。ただ、今回の実験では下の写真の「再沈殿」の作業で大きな分子が出来ていることが分かります。

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2015.11.23

コーオプ実習(トライアル)の事例発表会・交流会(笹岡コーオプセンター長)

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(本学工学部の特徴、就業力を高める本格的なコーオプ教育について笹岡コーオプセンター長が直接紹介するブログ記事です。本記事は工学部電気電子工学科BLOGにも掲載されます。)

 コーオプセンター長の笹岡(コーオプ教育担当)です。

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 工学部の学生ではありませんが、コンピュータサイエンス学部及びメディア学部の2,3年生、20名が12社に分かれて8月上旬から9月中旬にかけて1週間から4週間程度のコーオプ実習を経験しました。そのうち、医療系のIT企業1社(医療系のパッケージシステムの研究開発、販売)、モノづくり系企業2社(自動車用金属加工部品や医療・介護機器製作、ロボット等の試作、量産設計・製作・販売)で実習をした学生とそれぞれの企業代表者が、コーオプ実習から得られた成果や学び、企業からは実習生に対する評価や今後への期待などを発表して頂きました。当日雨で心配しましたが結局、申し込まれた企業の大部分、計47社に参加頂け、写真の通り、第1部の事例発表会、第2部の交流会とも大変盛況なものとなりました。

 事例発表会においては、学生からは、プロジェクトを任されたもの計画通りにいかず苦労したが最後は期限を守ってやり遂げたこと、周りとの社員とのコミュニケーションでのエピソードや大学で学んだことが現場で意外と役立つことなど視野が広がったことなどが色々述べられ非常に奥の深い内容でした。

 学生達は当初、初めて企業で本格的に働くということで不安もあり、さぞ大変だったと想像しますが、無事乗り越えてくれたようです。とにかく、今回は試行ということで事前教育も2コマ(3時間)だけでしたが、それでもこのようにしっかり成果を出してくれて本当にうれしいかったです。本番の工学部の学生は1年もかけて事前教育を受けた後に企業に派遣されますので、さぞ立派な成果を出してくれるのかな~と思いました。

 企業からもコーオプ実習で来た学生が非常に頑張って成果を出してくれたこと、今後とも本学のコーオプ教育への取り組みに期待しているなどのエールが送られました。

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2015.11.20

理系の文章技術(ノウハウ編)-2(片桐教授)

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「理系の文章技術(ノウハウ編)-1」はこちら

2.漢字で書くか平仮名で書くか。

 文章は、できるだけ分かりやすく書かなければならない。畢竟、普段用いられないような漢語や古語由来の漢字をできるだけ排除することを望まれる。(この文の接続詞「畢竟(ひっきょう)」を何人が読め、その意味がわかるだろうか?)

 「当該課題の処置に関して、関係各位で可及的速やかな対応策を勘案されたい。」よりも
「この問題については、関係者の間で至急に対応策を考えて下さい。」はわかりやすい。

 平仮名と漢字の使い分けについて、確定的な規則はない。ひとつの規準としては

1.当用漢字を使用し、人名や地名以外は特殊な漢字を使用しない。(文部科学省常用漢字表を参照のこと)。また、漢字そのものは常用漢字表に存在していても、その読み方が存在しない場合は、原則としてひらがな表記にする。例えば:「予め」は「あらかじめ」とひらがな表記する。

2.以下の接続詞の表記は、基本的に平仮名を使用する。
あるいは、かつ、しかし、すなわち、そして、ただし、なお、また、および、
したがって、ならびに、ゆえに、
  ただし、特許文章の場合には「及び、並びに」など漢字表記を使用する。

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2015.11.19

学生との雑談から 心のリミッターを外そう(片桐教授)

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 「TOEICで550点をとらないと、就職にひびくよ。」「えっ、そんなの無理です」。いとも簡単に「無理」と断じてしまった。「どうやったらとれますかねぇ。」ではなく、もうあきらめている。TOEICを受けたこともないくせにあきらめている。なんじゃそれは!。

 このときに限らず、話をしているときの学生さんのコメント中の「それは無理」「それはできない」ということばは気になる。これは,自分の能力にリミッターをかけていると思われる。なぜ「やってみます」と言えないのだろうか?。

 火事場の馬鹿力、ということばがある。人間は壊れないように、筋肉の出せる力にリミッターをかけている。普段出せる力は、本当の限界の3割程度と言われている。緊急時(火事場)でこのリミッターが外れると、絶対出せない力、3倍くらいの力を出すことができる、といわれている。体のリミッターは体を壊さないためのものである。しかし、心のリミッター、能力のリミッター,人生のリミッターには益はないと思う。

 自分が傷つくことが怖いのだろうか。心が傷ついてもそこから回復できるのが若者の特権ではないのだろうか。ナイーブなこと,傷つきやすいことは必ずしも美徳ではない。

 「あきらめ(絶望)は愚者の結論」(ディズレィリ)ともいう。これはいかにも西洋人的な思考です。日本人ならむしろ「人生あきらめが肝心」の方がしっくりとくるかもしれない。どっちが正解かはわからない、でも、私自身は自分にリミッターをかける=あきらめる人生を送りたいとは思わない。

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 今、私は第二種永久機関を作ることにより熱力学第二法則に挑戦しようとしている。

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2015.11.18

学生実験をみてみよう(第2期) その6「無機定性分析」(江頭教授)

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 本学科の学生実験を紹介しているこのシリーズ、今回は「無機定性分析」について紹介します。

 「無機定性分析」というタイトル、無機物なんて世の中に無数にあるのですが一般には水溶液の分析、それもどのようなイオンが水の中に含まれているか、を判定する一連の実験のことが「無機定性分析」と呼ばれています。有機物は調べないから「無機」、定量はしないから「定性」というと身も蓋もありませんが、いわゆる「化学の実験」らしさは学生実験のうちで一二を争うのではないでしょうか。

 薬品を混ぜて加熱、冷却してまた別の薬品を混ぜて...。といった作業を手順通りに手際よく進めていきます。写真の中程のキノコ型のプラスチック製の装置は遠心分離器です。沈殿が生じた場合、これが役に立ちます。

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2015.11.17

新入生インタビューの撮影を行いました(西尾教授)

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 応用化学科のホームページやブログを閲覧してくれる方の大半は,当学科への受験を検討中の高校生と期待しています.

 その様な皆さんに学科の魅力を理解してもらい,更には入学後の姿をイメージしてもらうために,応用化学科の1年生をホームページで紹介しています.(機械工学科,電気電子工学科でも同様に紹介しています.) 

 応用化学科では,忙しい授業の合間を縫って,男女各1名がインタビュー形式の収録に応じてくれました.ホームページで皆さんへのメッセージなどを動画で見ることができますので,是非チェックしてください.(写真をクリックするとインタビューの動画を見ることができます.)

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2015.11.16

光と分子の不思議な相互作用(2)(山下教授)

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 みなさんこんにちは山下です。

 前稿「光と分子の不思議な相互作用(山下教授)」では光をエネルギーとして反応する材料開発について述べ、また「過渡吸収測定装置(山下教授)」ではナノ秒~マイクロ秒という微少時間で光と分子の相互作用を解析する装置が学科に入ったことをご紹介しました。

 光でコンピュータなどの極微回路を作成したり、光エネルギーから電気を生み出すなどの最先端の技術は、今まさにサステイナブル工学の花形であり、先端科学の一端です。しかし、化学はフラスコにいれた試薬を加熱して反応するというイメージがあるので、このような先端化学はまるで化学とは別世界の物理のような気がするかもしれませんが、光をつかって分子の構造を変えるということはまさに化学反応なのです。
 では、なぜ、光と分子が相互作用し化学反応を起こすのでしょうか?ご存知のように世の中の物質は全て原子からできています。この原子は陽子と電子からなり、それぞれ、+の電荷と-の電荷をもった粒子が互いに引きあって原子を構成しています。身の回りにある石や木や水も見かけは全く異なりますがすべて同じ陽子と電子のみから成っているのです!!
 光は電磁波なのでこのような荷電粒子と相互作用することが容易に想像できます。
分子のレベルで考えたとき、分子に熱をかけ分子の振動がどんどん大きくなった際に、分子が電子を交換して結合を組み換え、化学反応をおこす様子を頭に思い浮かべるほうが、よほど化学から乖離した難しいことのように感じます。

 実際化学の中で光(=電磁波)が大いに活躍しています。電磁波は化学反応を誘起するのみならず、分子構造を解析するなどにも役立ちます。その電磁波の種類と分子との相互作用をまとめたものが図です。

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2015.11.13

理系の文章技術(ノウハウ編)-1(片桐教授)

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「理系の文章技術(基礎編)-6」はこちら

 「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」福沢諭吉
 「天は自ら助けるものを助ける」聖書の言葉  

この文章は抽象的である。100人が100人とも同じ意味で理解できない文章である。「天って何?誰?」「上と下は同じ天?」という疑問は当然であろう。他人に考えさせる文章としては良い文章であっても、事実を正しく共有するための理系の文章としては、好ましくない。

1 文章のお作法

 レポートや答案の目的は「評価」である。従って、評価ポイントにあった文章を書けばよい。評価ポイントは人により様々である。ある先生の場合は「その人の志」であり、ある先生の場合は「理解の程度」であったりする。学生側に共通して大事なことは、自分の志や理解を正しく伝えることである。その意味で「記述する」技術は重要である。良い文章を書くには、「思考力」と「記述力」を必要とする。どんなに良い文章を書けても、書きたいことや頭に中身が無ければ、良い文章は書けないし。どんなに高邁な理想を持ち、素晴らしい感性と思考を持っていても、文章の書き方がなっていなければ、良い文章は書けない。
 思考力の鍛練は一朝一夕にはならない。しかし、記述力や文章力はコツをつかむことにより、短期間のうちに格段に改善できる。

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2015.11.12

書評 宮田 親平著「毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者」(江頭教授)

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 いろいろな場で学生さんによく質問するお題です。

「人類最大の発明は何?」

いろいろな答えが返ってきますが、こと化学に関する発明で私が人類最大の発明だと思うものはハーバーとボッシュによる「空中窒素固定技術」です。現在、地球に70億人以上の人間が暮らしている、ということそれ自体がハーバーボッシュによるこの発明によって大量の窒素肥料が合成され、充分な量の食料が生産されたことによっている、数十億人の命を支えているこの技術こそ、最大の発明だ、と考えるている訳です。

 さて、この偉大な発明をおこなった人物、フリッツ・ハーバーについて知りたいと思って見つけたのが本書です。タイトルにあるように「毒ガス開発」に力点が置かれていて、かなり意外な感じがします。

 もちろん、空中窒素固定技術に関する記述もあり、興味深い内容でした。特に、空中窒素固定技術が硝酸の作成から爆薬の製造にも利用できたことから、この発明が実は軍事技術として開発されたのではないか、という説に関しては、当時の科学技術と軍事との関係に基づいて明確に否定されていた点は印象的です。

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2015.11.11

講義「有機化学1」第3回目の講義から 命名法の困ったチャン(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 命名法は人間が決めたルールなので、めんどくさいし憶えることばかりで嫌われがちです。しかし、これは有機化学の「ことば」ですから、これを知らなければ有機化学を学ぶことすらできません。あきらめましょう。

 今回は、その中でも、特に日本語で憶えることのデメリットについてまとめます。

Xの読み方、alkane,alkene、alkyneの発音

 Xenonは日本ではキセノンと呼びますが、英語ではズィーノンと発音されます。これはゼロックス(Xerox)という会社名の発音に似ています。同様に、xyleneは日本語よみではキシレンですが、英語ではザイレンと呼ばれます。このような齟齬は、IUPACの英語の日本語表記への変換法の問題です。でも、今更直せないというのが,ホンネでしょう。

 同様に飽和炭化水素のalkaneは日本語ではアルカンと呼びますが、英語ではアルケーン、二重結合を持つalkeneは日本語ではアルケンですが、英語ではアルキーン、三重結合を持つalkyneは日本語ではアルキンですが、英語ではアルカインと発音されます。ああややこしい!。これはaをアと発音するかエーと発音するか、eをエと発音するかイーと発音するかの違いから生じています。

 同様に、rlの発音の区別表記のできない日本語ではCH2=CH-CH2-のallyl=アリル基と、芳香族基を表すaryl=アリール基をのばしだけで区別します。さらに、C6H5-CH2-のbenzyl=ベンジル基と、ジフェニルジケントン化合物(C6H5-CO-CO- C6H5)の慣用名benzil=ベンジルは,日本語表記が同じになってしまいます。

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2015.11.10

学生実験をみてみよう(第2期) その5「キレート滴定」(江頭教授)

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 本学の学生実験を紹介するシリーズ、今回紹介するの実験テーマは「キレート滴定」、正確には「キレート滴定による水の硬度の測定」です。

 まず、「滴定」について。このシリーズの第1期、つまり前期の工学基礎実験Ⅰ(化学)でも何回か出てきた言葉です。そのものずばり滴定を行ったのは「中和滴定」ですが、その後の「緩衝液」でも同様のビュレットを使った操作を学修しました。

 今回の実験も操作としてはよく似ていますが、滴定で測定する対象が異なります。今回の目的物は水の中に含まれる金属イオン。金属イオンと強く結合するキレートと呼ばれる物質を用いて滴定を行います。

 さて、実験の目的は....、下の写真をみると何と市販のミネラルウォーターが!「実験室は飲食禁止だぞ、けしからん!」という事ではなくて、このような飲み水の中の金属イオンの定量がこの実験の目的なのです。

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2015.11.09

冷蔵庫で野菜や果物の鮮度を保つ触媒(原准教授)

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 今回は、家庭の冷蔵庫の中で活躍する触媒について紹介します。

 リンゴと一緒に保存するとバナナが腐りやすくなると聞いたことはありませんか? これは、リンゴから放出されるエチレンという気体が植物の成熟を促進するからです。エチレンは、バナナのみでなく、キウイフルーツなどの他の果物、ブロッコリーなどの野菜、カーネーションなどの花といった実に多くの植物の鮮度に影響を与えます。

 家庭の冷蔵庫でいたずらをするこのエチレンを除去するために、効率的な触媒を開発しました。触媒ですので、原理的には交換の必要がありません。これまでの技術では、活性炭のような吸着材にエチレンを吸収させる方法や、エチレンを分解させる薬剤が用いられてきました。しかし、これらは効力がなくなったら交換をしなければなりません。

 新しい触媒の開発は、私の前任地、北海道大学の触媒化学研究センター(現 触媒科学研究所)で行われました。

 

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2015.11.06

理系の文章技術(基礎編)-6(片桐教授)

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6 報告の技術

 大学における学生から教員への「報告」は、中間情況の提出を求められる場面のみである。したがって、研究室へ配属されるまでは、実験以外の場での「報告」はほとんどない。しかし、実験時や研究室配属後はこの報告ができるかどうかが仕事の効率に大きな影響を与える。

6.1 報告の方法

 報告には3つの方法がある。
  1. 口頭による報告
  2. 文章による報告
  3. 文章と口頭とによる報告
である。この中から、
  • 相手に分かりやすいこと
  • タイミングが良いこと
を勘案して手段を選択すること。

 実験中事故が起きた場合に、文章を作成していては被害が拡大する。なぜ、事故が起こったかの報告を口頭で行っても、後に残らない。また、忘れてしまうため、同じような事故を防ぐ手だてにはならない。

6.2 報告の必要な場合
  1. 指示された作業が終了したとき(その時点で口頭、後日文章で報告)。
  2. 中間報告(口頭)。作業の遂行が困難な場合、予定よりも長引きそうな場合は、早めのタイミングで報告する。報告は ・どこまで進んだか、・見通しはどうか、・問題点は何か、を明確にし、指示を求める。
  3. 異常事態発生時(口頭)。速やかに情況を説明する。このとき事実と自分の意見は明確に分けるように。異常事態発生時、報告が遅れて被害が拡大した場合はその責任は報告すべき者に課せられることとなる。たとえ微細な事故でも、事故発生時は速やかに報告すること。
  4. 外出中の来客・電話(文章)。必ず必要事項をまとめたメモを作成すること。
  口頭で報告すべきこと:
  • 簡単なこと、
  • 緊急を要すること
  • 文章報告に時間がかかる場合は、要点を口頭で報告する。
  文章で報告すべきこと:
  • 正確さを求められる場合
  • 多くの人に知らせる場合
  • 保存する場合
  • 1:1の関係でない場合

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2015.11.05

学生実験をみてみよう(第2期) その4「エステル合成」(江頭教授)

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 本学の学生実験を紹介するシリーズ、第2期も基礎技術が終了して個別の実験テーマがスタートしました。今回紹介するのは「エステル合成」です。

 カルボン酸とアルコールから脱水反応のよってエステルを合成する、非常にポピュラーな学生実験ですね。触媒として硫酸などを使用しますが、それ以外では危険性が少ないことに加えて、生じた物質の香りが好ましいのも大きな魅力でしょう。

 本学の実験では酢酸に対して1-ペンタノール、2-ペンタノール、ベンジルアルコールを反応させてそれぞれのエステルを合成しています。

 細身の試験管に酢酸とアルコール、それに触媒としての硫酸をいれて混合すれば室温でも反応が進行します。

 生成した物質はにおいで確認できるのがエステル合成の魅力ですが、それだけではありません。以前紹介したクロマトグラフィーを使って生成物の分析を行います。

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2015.11.04

講義「有機化学1」第2回目の講義から-2 ハメットの置換基定数(片桐教授)

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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義の大事なポイントを読み物にして、解説して行きます。

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 さて、前回の続きです。

 酸のpKaを決める要因は、大きく4つあります。

(1) 元素効果、プロトンのついている原子の種類により大きく変わります。これは、その原子のか電子の軌道準位が低い=高い電気陰性度を持つ=エネルギー的に安定化しているほど、その軌道側に電子が偏り、それによりプロトンの陽電荷が大きくなるものです。同じ周期の炭素、窒素、酸素、フッ素を比べると、おおよその値ですがC(sp3)-HはpKa=50、N-HはpKa=38、O-HはpKa= 16、F-HはpKa= 3.2となります。

(2) 混成効果、上記と同じ理屈で、sp3炭素についた水素(pKa = 50)よりも、sp2炭素についた水素(pKa = 44)の方が、そしてsp炭素についた水素(pKa =25)の方がさらに小さくなる=高い酸性度を持つと言うものです。これはp軌道に比べてs軌道のエネルギー準位が低く、その影響を大きく受けたsp混成軌道のエネルギー準位が低いことによります。

(3) 誘起効果(I効果)、プロトンを放出した共役塩基の陰電荷は一カ所に集まっているよりも、分散する方が安定化します。陰電荷中心の近傍に電子求引性の置換基がつくと、それにより陰電荷が非局在化し、より安定になります。逆に電子供与性の置換基がつくと、不安定化します。これにより酸性度へ影響が出ます。例えば酢酸のpKaは4.76ですが、電子求引性基のついたクロロ酢酸(CH2Cl-COOH)のpKaは2.87になります。

(4) 共鳴効果(R効果)、誘起効果と同様に、共役塩基の非局在化が進むと、安定化します。例えば、酢酸の共役塩基の陰電荷は2つの酸素原子の上に非局在化するため、アルコールのpKa = 16にくらべて小さなもの=高い酸性度(pKa = 4.76)になります。

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2015.11.03

講義「有機化学1」 第2回目の講義から-1 有機化学でなぜpKa?(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義の大事なポイントを読み物にして、解説して行きます。

 多くの有機化学の教科書では第2章とか第3章でpKa(酸性度)を扱います。「有機化学でなぜ酸性度?pKa?」と疑問に思う学生さんも多いと思います。

 以前、有機分子の構造の理解の歴史をお話ししました。「形」がわかるようになったら、次に何を求めるでしょうか。ここが、高校の化学と大学の化学の境界線です。高校と大学の化学の違いは「定性的」か「定量的」かの違いです。

 では、「形」を定量的に表すにはどうすれば良いか、エネルギーと言う概念がこの手段として使われました。形というベクトル値をエネルギーというスカラー値で表すことは想像しにくいものです。しかし、それを可能にしたのは「量子」という概念でした。量子化学で、以下の式を習います。

 Eψ = Hψ

この式でEはエネルギー値、ψ(プサイ)は電子の軌道(形)を表す波動関数と呼ばれるもの、Hはハミルトニアンと呼ばれる演算子(計算式)、です。つまり、形(ψ)とエネルギー値(E)が式で関係づけられるわけです。

 20世紀初頭の量子論の勃興は有機化学にも大きな影響を与えました。20世紀の前半、分子の性質や機能をエネルギーで表そうとする動きが生まれました。

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2015.11.02

ゴジラと高分子材料(山下教授)

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 高分子は単純な構造をしたモノマーが繰り返しつながった構造をしており、高分子らしさが発揮されるためにはその分子量を十分大きくしなければりませんが、重合度の高い高分子を作ることは化学反応として非常に難しいことを前稿(高分子の分子量ってどのくらい?(山下教授) )で説明しました。

 高分子材料は軽くしなやかで、成形加工が容易で、また、容易に分解しないために材料として優れており、それゆえに我々の生活に欠かせない材料となっています。ところが、その特徴の最後に述べた「容易に分解しない」という特性は「サステイナブル」の観点からは非常に問題なのです。即ち壊れたり、使われなくなった高分子材料をごみ処理場に廃棄しても分解しないためどんどん高分子のごみが蓄積してしまうからです。また、多くの高分子は石油からできているため、石油から高分子を作り、最後は燃やして廃棄するというサイクルを経ていては「サステイナブル」にはなりえません。

 そこで、既存の高分子を分解し原料のモノマーに戻す技術がこれからのサステイナブル社会では重要になります。
 モノマーをたくさんつなげて高分子を作る反応を「重合」と呼びますが、高分子をバラバラに分解してモノマーに戻す反応は「解重合」とよびます。高分子の解重合は、高分子の発明直後からよく知られた現象でした。ポリスチレンなどのビニルモノマーを重合すると発熱的にモノマーが結合する重合反応と、熱的にポリマーが分解する解重合反応がつり合い見かけ上重合反応が進行しなくなる温度(天井温度)があることが高分子重合の初歩の教科書でも記述されています。

 この解重合性を積極的に制御することにより、刺激により壊れるポリマーを開発する研究が近年精力的に進められています。材料として利用したのちにはモノマーまで戻し、またあたらに重合して純粋なポリマーを作ることができればサステイナブルな技術とすることが可能です。

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