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光と分子の不思議な相互作用(2)(山下教授)

| 投稿者: tut_staff

 みなさんこんにちは山下です。

 前稿「光と分子の不思議な相互作用(山下教授)」では光をエネルギーとして反応する材料開発について述べ、また「過渡吸収測定装置(山下教授)」ではナノ秒~マイクロ秒という微少時間で光と分子の相互作用を解析する装置が学科に入ったことをご紹介しました。

 光でコンピュータなどの極微回路を作成したり、光エネルギーから電気を生み出すなどの最先端の技術は、今まさにサステイナブル工学の花形であり、先端科学の一端です。しかし、化学はフラスコにいれた試薬を加熱して反応するというイメージがあるので、このような先端化学はまるで化学とは別世界の物理のような気がするかもしれませんが、光をつかって分子の構造を変えるということはまさに化学反応なのです。
 では、なぜ、光と分子が相互作用し化学反応を起こすのでしょうか?ご存知のように世の中の物質は全て原子からできています。この原子は陽子と電子からなり、それぞれ、+の電荷と-の電荷をもった粒子が互いに引きあって原子を構成しています。身の回りにある石や木や水も見かけは全く異なりますがすべて同じ陽子と電子のみから成っているのです!!
 光は電磁波なのでこのような荷電粒子と相互作用することが容易に想像できます。
分子のレベルで考えたとき、分子に熱をかけ分子の振動がどんどん大きくなった際に、分子が電子を交換して結合を組み換え、化学反応をおこす様子を頭に思い浮かべるほうが、よほど化学から乖離した難しいことのように感じます。

 実際化学の中で光(=電磁波)が大いに活躍しています。電磁波は化学反応を誘起するのみならず、分子構造を解析するなどにも役立ちます。その電磁波の種類と分子との相互作用をまとめたものが図です。

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 電磁波は電場が振動することにより磁場を生み出し、その磁場の振動が電場をつくる・・・という現象が繰り返しながら伝搬してゆくものです。このときの振動数νと波長λの間には、光速をとすると、λν=なる関係があります。波長の大きさによって電磁波はラジオ波(極長波~短波)、テレビでつかう電波(極短波~極超短波)、携帯などで使うマイクロ波、こたつなどで使う赤外線、人の目で見える可視光、日焼けの原因となる紫外線、そしてX線、放射線、と性質を変えますが、すべて波長が異なるだけの同じ電磁波です。

 一方、光にはこのような波としての性質と粒子としての2つの性質があり、化学の世界では粒子としての光子を扱います。波長λの光子1個がもつエネルギーはプランクの法則によりhc/λと表され(hはプランク定数)、光子1個が分子1個に吸収されると反応がおこり、1個の生成物ができる・・・と化学反応が記述できるのです。

 表の中の可視光は720nm~400nmの波長の光をさし、他の分類とは変則的ですが、これはたまたま我々の目の中の視細胞にあるレチナールという分子が吸収する光の波長がその範囲にあるため、その領域だけ人間に見えるという、人間のわがままによって光が分類されているのです。

 プランクの法則を見ると、波長が短ければ短いほど光子のエネルギーは大きくなることがわかります。表の物性という欄を見ると、波長の長い光、すなわちエネルギーの小さな光子は電子スピンと相互作用するなど、分子の中の小さなエネルギーをもつ現象を引き起こします。光子のエネルギーが大きくなるにつれ、核スピンや分子の回転などを引き起こし、可視光~紫外線以下の波長の領域ではついに分子の結合を切り、化学反応を引き起こすだけの力をもつことになります。

 このような分野の学問(光化学)は分子の構造を知り、物理化学、量子化学を知ったのちでなければ使いこなせないので、多くの大学では大学院から習う教科ですが、本学では3年後期に学習します。

山下 俊

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