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講義 「有機化学1」 第5回目の講義から-1 キラリティの判定(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 余談ですが、昔、本屋で「キラリティー」という萌え系のマンガ雑誌を見かけました。これは、有機化学の講義のネタに使える…とは思ったのですが、これをレジにもって行く勇気が出ませんでした。少し後悔しています。

 さて、ある化合物がキラルかどうかの判定について、古い高校の参考書には「分子中の炭素原子に4つの異なる置換基をもつ分子は不斉中心になり、キラル分子になる」と書かれています。これは間違いです。

 図の分子を考えてみてください。この分子の真ん中の矢印で示した炭素原子は水酸基、水素、(R)-1−クロロエチル基、(S)-1−クロロエチル基、と、すべての置換基は異なっています。しかし、この分子の鏡像体は元の分子と重なります。したがって、この分子はアキラルです。このことは先の『4つの異なる置換基』という定義は、自己矛盾をもつことになります。ちなみに、この分子は1−クロロエチル基上にそれぞれキラル中心をもちます。しかし、分子全体ではアキラルになっています。このような分子をメソ体と呼びます。

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 そこで、最近の大学の教科書では「分子中に鏡像対象面を持つならばアキラル、もたないならばキラル」と定義しています。この分子は右側の点線で示したような鏡像対象面を分子中にもち、改めてアキラルであることが確認できます。

 手元の「フィーザー最新有機化学」丸善(1964!)にも上記の定義で書かれています。(この本では不斉中心を不整中心と書いていますorz)。では、なぜ、『4つの異なる置換基』という記述があたかも定義のように流布されたのでしょうか。これはおそらく、Van’t HoffとLe Belの炭素の四面体配置発見の経緯からではないかとおもわれます。これは炭素の4つの置換基は平面ではなく立体的に配置していることを提唱したものです。それを引きずっているのではないかと、私は推察します。

片桐 利真

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