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理系の文章技術(ノウハウ編)-4(その1)(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

「理系の文章技術(ノウハウ編)-3」はこちら

4 あいまいにしないためのこつ。

 曖昧(あいまい)な文章を書かないようにするコツやノウハウをまとめる。

4.1 主語の一致
 良い文、悪い文、以前の問題として、意味のわからない文を書かないようにしなければならない。レポートを読んでいて一番多いのは、同一文内での主語の変更である。

 例:「我々はベンズピナコールを酢酸中で触媒量のヨウ素と反応させたところ、1.0 gのベンゾピナコロンが得られた。」

 さて、この文章はどこがおかしいのであろうか?。どのように直せばよいのだろうか?。
 この文の前半の主語は「我々」である。一方、後半は「ベンゾピナコロン」である。従って、この文は

 「我々はベンズピナコールを酢酸中で触媒量のヨウ素と反応させたところ、1.0 gのベンゾピナコロンを得た。」

 とするべきである。

4.2 文中の曖昧さを排除するノウハウ

 まず、文章を書くとき、その最も大事な主張を一番目に最初に言い切りの形で書くこと。良い文章と悪い文章の境目は「何かを述べているか、何も述べていないか」につきる。すなわち、何かを述べている文章は良い文章で、何も述べていない文章は読むに値しない、悪い文章である。その文章において何かを述べていることを明確にするためには、「言い切っている」ことをアピールする形式にしなければならない。明晰に言い切った場合、その主張を支える証拠を理路整然と提出しなければならなくなるから、自然と「何かを述べている・中身のある」文章になる。言い切らない文は、多くの場合感覚や感情に基づくので、証拠を出せない。だから言い切らないのである。

ノウハウ1:
 最初の1文は40字以内(できれば20文字以内)で書くこと。短く主張を言い切れるのなら、文章全体の中身は相手に伝わる。

ノウハウ2:
 「である」調で述べる。「ですます」調では述べない。

ノウハウ3:
 曖昧表現をさける。「であろう」とか「と言っても良いのではないかと思われる」等と書かない。「である」と言い切れるように事実を用意すべきである。
 まして、「私的には」というような最近はやりのあいまいことばは絶対に駄目です。

ノウハウ4:
 持って回った言い方、くどい表現を避ける。

ノウハウ5:
 ぼかし言葉をやめる。「ほぼ、約、ほど、ぐらい、たぶん、ような、らしい」等の表現は使わない。正確に精確に書く。「約30g」ではなく「30.2 g」と書けるように実験時に用意しておく。

ノウハウ6:
 「この、あの、その、それら、これら、そういった、こういった」の利用は制限する。その代名詞の差すことがらの明確な場合は使っても構わない。しかし、前の文全体を意味するような場合や、意味上の主語を差すような場合は使うのを避け、主語を明確にする。

ノウハウ7:
 文を短くする。横書き2行以上の文は使わない。分割することを考えよ。

ノウハウ8:
 助詞としての「が」を抜く。日本語の助詞である「てにをは」に「が」は本来含まれない。「が」を使うと主語を曖昧にする恐れがある。

例:私はあなたを好きだ。
  あなたは私が好きな人だ。私が好きな人はあなただ。
  (文学上、あいまいさの中に別のニュアンスを入れるときは有効である。)
例:象は鼻が長い。象の鼻は長い。

ノウハウ9:
 接続詞としての「が」に注意。2つの意味を持つ。並列と逆説である。
例:この酸中和滴定ではフェノールフタレインを使用したが(そして)、メチルオレンジでも可能である。
  この酸中和滴定ではフェノールフタレインを使用したが(しかし)、メチルオレンジはより好ましい結果を与える。

ノウハウ10:
 擬音語・擬態語・擬情語をさける。オノマトペと言われるこれらの言葉、例えば「ザブンとつける、ストンとおとす、ガタッとおちた」とか、「フラフラ動く、ソロソロ動かす」とか、「ピリピリした雰囲気、ギスギスした場」等である。
 例:電圧がガタッと落ちた、ではなく、電圧は50mVから20mVに落ちた、と書く。後者はより精確であり、記述的である。

ノウハウ11:
 若者言葉を使わない「超ゆっくりといれた」とかはダメ。明確に示す。「30分かけてゆっくりと入れた」に直すべし。
例:日米関係がぎくしゃくしている
  日米の間で利害の一致を見ない。感情のしこりを残している、

ノウハウ12:
 記述的に表現されたい。上記の例でもわかるように、より多くの正しい情報を伝えるようにしなければならない。
例:×実験は上手く行かなかった。○目的物は得られなかった。
多くの場合、曖昧にしたいのは、「いいたくない」という感情で隠蔽しようという場合である。人として当然の感情でも、科学者には許されない。

ノウハウ13:
 紋切り型、陳腐な表現を避ける。ただし、奇異な表現を推奨しているわけではない。どのような場合でも広く使える「上手く行かない」よりも、その場で最も的確に情況を表現している「得られなかった」を使うことを勧めているのである。

ノウハウ14:
 形容詞を使いすぎない。特に複数の形容詞を並列的に使用する場合は、文法的な注意を必要とする。複数の意味に取れる文章になる。

例:「黒い目のきれいな女の子がいた」
  1.   (肌の色の)黒い、目のきれいな女の子
  2.   (肌の色の)黒い、目のきれいな女、の子(供)
  3.   黒い目(瞳)の、きれいな女の子
  4.   黒い目(瞳)の、きれいな女、の子(供)
  5.   黒い目(瞳)のきれいな、女の子
  6.   黒い目(瞳)のきれいな女、の子(供)
  7.   (きれいに)黒い、目のきれいな女の子
  8.   (きれいに)黒い、目のきれいな女、の子(供)

 ノウハウ8、9については、以前のブログでも紹介した。

 このノウハウ14は本田勝一「日本語の作文技術」に記載されている。この本はとても良い本なので、いちど読むことをお勧めする。

次回(12月11日公開予定)「ノウハウ編-4(その2)」につづきます。

片桐 利真

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