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理系の文章技術(ノウハウ編)-5(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

「理系の文章技術(ノウハウ編)-4(その2)」はこちら

5. 文章の書き方-ノウハウ-

 人間は理屈では動かない、感情で動く。理屈が正しければ動かされることはあるが、自ら動くわけではない。したがって、いかにレポートの受け取り手の感情に働きかけるかは、重要な課題である。ではどうすれば、文章を受け取る者の感情を動かせるか。実は簡単である。書き手が誠意をもって一生懸命やっていることを示せばよい。小手先の技術で感動を引きだせると思ってはならない。

 一方、どんなに熱い思いで文章を書いても、それが適切な技術に裏付けられていなければ「ゴミ」扱いされてしまう。人の心を動かすためには、発信者の心と技術の両方をそろえなければいけない。ここより先の文章の書き方は、熱い心を持つ者を対象にしている。小手先の技術で読み手を感動させる「ウソのつきかた」を片桐は知らない。

5.1 文章の種類

 文章の書き方は目的によって2種類ある。一つ目は正確な伝達を目的とする文章である。二つ目は感情を動かすことを目的とする文章である。前者の例としては、論文、レポート、法律、マニュアルなど、百人読めば百人とも同じ受け取り方をすることを求める文章である。その対局にあるのが後者の、小説、詩、俳句などの感情に訴えかける文章である。これらの文章では感情の移入を容易足らしめるために、わざと曖昧な表現を用い、その曖昧さの中に読者の体験や感情を移入する余地を残している。言い方を変えれば前者は「論理文章」、後者は「感情文章」と表される。この文章の書き方で扱うのはあくまでも前者の文章である。

 さらに文章は、自分だけが読むことを前提にしたものと、他人に読んでもらうものがある。しかし、自分だけが読むことを前提にした文章でも、実験ノートのように必要ならば「公式文章」になるものもある。従って、恥をかかないためにも、文章を書くときはいかなる文章でも十分な注意と配慮の元に書くべきである。

5.2 読み手の目的を理解し書き手の目的を明確にする

 文章にはその目的がある。正確な伝達を目的とする文章には、内容を正確に伝えるという目的がある。このとき、文章の書き手は文章の読み手の能力や何のために読むのかという目的を意識しなければならない。友達へのメールと教官へのレポートを同じ様に書く者はいないであろう。

 大学において提出を求められる文章、例えば答案やレポートや卒業論文について考えてみよう。試験やレポートを課すことの目的は、評価である。教官にしてみれば、「この学生へ単位を与えてよいのだろうか、岡山大学卒の称号を与えてよいのだろうか」と考えるための資料である。課題はその人を評価するために課せられる。従って、答案やレポートを書く側の目的は、自分を正当に(あるいは可能なかぎり高く)評価してもらうことである。

 この書き手と読み手の目的を意識しなければ、良い文章を書くことはできない。同時に、読み手の知的レベルを勘案しなければならない。会社でよく言われたが、係長に説明するときは大卒レベルで、課長に説明するときは高卒レベルで、部長に説明するときは中卒レベルで、役員に...。多数の人に向けてのレポートの場合、一番レベルの低い人に合わせるつもりで書かなければならない。レポートや答案の回答を書くときは、相手の顔を思い浮かべて書かなければならない。

5.3 何を書くか

 答案には問いに対する答を書く。当り前である。しかし、これが難しい。多くの部分点しか与えられない答案は、故意か過失かはわからないが、問いに応えていない。問いに関連した別の問題の答えを書いているケースである。これは、問いを理解していないことによるのではないかと考える。まず、課題の意図を理解することが重要である。課題の意図を理解せずに答を書くことはできない。

 もし、課題の意図が理解できないのなら、それは質問するべきだ。時に、課題の意図の分かりにくい問題がある。意図的になされている場合は、回答者がどのような答を書くかを問うている場合である。その場合、問いの意図を質問しても回答を得られない場合がある。

(次回(12月25日公開予定)は「ノウハウ編-6」です。)

片桐 利真

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