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理系の文章技術(ノウハウ編)-6[最終回](片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

「理系の文章技術(ノウハウ編)-5」はこちら

 高校までの中等教育で習う英語の「文法」は、単語を組み立てて文を作る部分にのみ限定されている。一方、イギリスやアメリカのハイクラスの中等教育では、音を組み立てて単語を作る、あるいは文を組み立てて「パラグラフ」を作り、パラグラフを組み立てて文章を作るような高次文法が重要視されている。では、なぜ、日本ではこのような高次文法は教えられていないのであろうか。これは私は、高次文法には例外が多く、試験になじまないからではないか、と考えている。

 今から20年ほど前に「化学英語」という講義を担当した。その時にアントニ=ロレンス先生(当時:岡山理科大学、現:早稲田大学)とどのような講義をおこなうかについて議論し、そのとき、パラグラフライティングを教えることとして、当時、CD版で入手したJournal of the American Chemical SocietyとJournal of Organic Chemistryの文献を解析した。

 パラグラフパターンの解析は、英語教育で昔から行われているらしい。しかし、その参考書を読むと、128パターンとか256パターンとかとんでもないパターンがあり、これをすべて教えることはできない。しかし、実際に化学論文を解析すると、わずかに3パターンしかないことに気がついた。

 そして、日本語の化学論文(今は廃刊になった「日本化学会誌」)を同様に解析してみたところ、この3パターンしかないことを確認した。

 今回はその3パターンについてまとめる。

6.1 パラグラフ・ライティング

 パラグラフは理化学文章を書くときに重要な思考の単位である。1つの文は1つの内容を説明するのと同様に、一つのパラグラフは1つの思考を述べる。従ってこの単位を大事にすることは、良い文章を書く重要なコツである。

 パラグラフには構造がある。1つのパラグラフは1つの思考でできた一つの文の塊である。従って「設定された問い」と「問いに対する著者の結論」を必ず含む。ただし、この問いと結論は、必ずしも一般的な「問い」と「結論」ではない。いろいろな形に変形している。

 一つのパラグラフ内の文の意味上の主語は原則として統一すること。そのためにもそのパラグラフで何を言いたいかを考え、最もふさわしい主語を選ぶこと。

 裏技ではあるが、結論をパラグラフの先頭に持ってくることにより、内容を容易に把握できる。特に「問い」が自明な場合、この方法は有効である。このやり方の例は、例えばこのパラグラフで見ることができる。

6.2 パラグラフのパターン

 パラグラフは論文やレポートの中におけるその機能により、いくつかのパターンに分けられる。

  • 要旨・概説パターン:要旨に用いられる。論理展開ではなく、おおまかな説明に用いられる。要旨・概説パターンはおおよそ以下のような展開になる。

  1. 内容宣言:この文章で述べられている内容を1文で表している。文章のタイトルを完全な文にして表していることが多い。
  2. 方法:研究・実験・調査の方法や対象を規定する。
  3. 結果:結果の詳細ではなく最も大事なところや傾向、結論に関る重要な結果を示す。
  4. 結論:この論文を書くモチーフになった重要な概念、あるいはレポートで最も評価して欲しいところを明示する。

 通常、要旨や概説の部分は単一パラグラフを独立して使用する。複数の内容や結論を有する場合には注意を必要とする。関連性の高い内容や結論の場合には、上記1〜4を1回通り表せば良い。一方、関連性の薄い場合は、1つの内容・結論につきそれぞれ1〜4を1回づつまとめたほうが読み手の混乱を避けれる。

  • 起承転結パターン:最も基本的なパターンである。単一パラグラフで緒言をまとめるときや、結言などに使われる。これ一つで1つのセクションを満たす。一つのセクションを複数のパラグラフで表す場合は、それぞれのパラグラフがこの部分構造である「起承転結」を分担する。

  1. 起承転結の起:情況を意味するものとする。英語ではSituationのことをさす。ここで問いを提示する下準備を行なう。問いの価値や、なぜその問いが生じたのか、これまでの情況を含む。
  2. 起承転結の承:問題点を意味するものとする。英語ではProblem to be solvedである。「承」は問題提示である。
  3. 起承転結の転:問題の解決を意味するものとする。英語ではSolutionである。「転」は結論である。そしてその説明を含む。
  4. 起承転結の結:評価を意味するものとする。英語ではEvaluationである。この結論の意味付けを行なう。

 起承転結パターンと要旨概説パターンを同じパターンと考えても良いかもしれない。

  • 一般論→例示パターン:結果などの、論理の展開を伴わない事実の列挙に用いられる。一般論の代りに「内容宣言」になる場合もある。このパターンの場合、少なくとも文章作成時には、実例を述べて終りにするのでなくその後ろに「評価」を1文入れることを勧める。

  1. 一般論(内容宣言):これから例示するものがどのようなことの実例として挙げているのかを明らかにする。
  2. 例示:事実のみを簡潔に記述する。
  3. 評価:必要ならば、この実例に関する自分の意見を簡潔に述べる。

良い文章は、

  •  100人いれば100人が同じように事実を受け止められること、
  •  誤解することなく伝えたいことが伝わること。
  •  明確な問いとそれに対する答、それを論証するあるいは分析的に答える
  •  統一、連関、展開に優れている。明確性において優れている。

これを達成するために、まずは書いた文章を声を出して読み上げることをお勧めする。さらに時間的な余裕があれば、友達に読んでもらい、批判してもらうことが、文章上達の早道である。

その手段としてのパラグラフ ライティングは、論理の整理という意味で重要である。

シリーズ「理系の文章技術」は今回で終了です。(第1回はこちら

片桐 利真

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