12月2日の小宮山先生の講演会にて思ったこと「3倍1/3の法則」(片桐教授)
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まあ、なんと過激なそして挑発的な講演会でしょうか。私もラジカルを自認していますが、レベルが違いました。本学科のE先生をはじめとして化学工学分野の先生はみな反応性の高いラジカルのようです。
さて、小宮山先生のおっしゃることは正論で、まさにそのとおりです。大きな改革(プラチナ革命)を行えば、「みんなでHAPPYになれる」。そのとおりです。私も異論はありません。以前、ブログ「講義 「サスティナブル概論」から グリーンケミストリー12か条」で3Eのトリレンマ、エコロジーとエコノミーとエネルギーのトリレンマについてお話ししました。小宮山先生のお話は、その3つが戦略的に解決できる、ということを、エネルギーの立場から示唆されました。
しかし、戦略的には正しいことを戦術に落とし、それを実戦するのは難しいことです。これまでのイノベーションの多くは「足し算」でした。新しい技術を既存の技術に足した「改良された」ものを提供する、というものです。これは社会に簡単に受け入れられます。一方、小宮山先生の提案されるイノベーションは「引き算」に近いもの、あるいは既存のものを新しく良いものに置換する、というイノベーションです。先生もおっしゃっていたように、これは既得権を持っている者に「みんながHAPPYになるために、あなたの権利を捨ててよ」という提案です。これを実施するための戦術は、大変難しいでしょう。
営業をしていたときに、市場奪取における「3倍1/3の法則」という法則を学びました。
自由な市場経済において「性能が3倍、あるいは価格が1/3にならなければ、そのイノベーションは前の技術を駆逐できない、新たに受け入れられない」という経験則です。例えば、白熱電球から蛍光灯への置き換えは消費電力がおおよそ1/5になることで達成しました。そして、蛍光灯からLEDの置き換えも消費電力が1/3になることで動き始めています。一方、乗用車のハイブリッド化は、燃費が倍になっても、この15年間でなかなか進んでいません。発売から15年目の2014年で全販売台数中のハイブリッド車の比率はやっと1/3です[http://response.jp/article/2014/07/16/227795.html]。しかも、多様な用途を持つ自動車のいくつかの分野では、まだハイブリッド車は発売されていません。
金属のリサイクルもそうです。鉄のリサイクルやアルミのリサイクルは、「その社会システム」が出来上がれば、間違いなく、資源的にもエネルギー的にも経済的にもメリットがあります。しかし、この社会システムを作り、そこへ置換していくためには「3倍1/3の法則」の壁を越えなければなりません。まだこえられていません。
経済的な利益が現状と同程度では、そのイノベーションが市場を席巻することは困難です。そして、総合的には小宮山先生の提案のようにコストを1/3以下にできても、個々の要素技術が1/3にならなければ,社会にはなかなか受け入れられません。戦略的に正しい、しかし経済的なメリットは1/3もない代替提案を社会に広く受け入れさせるためには、巧みな戦術が必要になります。例えば、少しでもメリットがあれば乗り換えるように人間の意識変革を促す。例えば、更なるイノベーションでコストを1/3にしてしまうまで待つ。技術をパッケージ化してコスト1/3になる単位で売り出す…。小宮山先生の提案の実現は戦略的には正しくても、戦術的には難しい課題をもっています。そして、これもサステイナブル工学の解決すべき課題です。
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