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2015年12月

2015.12.31

学生実験をみてみよう(第2期) その10「蒸留」(江頭教授)

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 応用化学科の1年生を対象とした学生実験は前期が工学基礎実験(C)のⅠ、後期がⅡとして通年で行われています。週1回、金曜日の午後は前期も後期も学生実験の時間、と決まっています。

 さて、今回のテーマは「蒸留」です。

 「蒸留」という操作は蒸留酒が昔から造られていたことを思い起こせばわかるように化学そのものよりも古い歴史のある操作です。お酒を加熱しすぎるとアルコール分が抜ける。だから、逆に蒸発したものを集めればアルコールが濃縮されるだろう、という発想で発酵では到達出来なかったアルコール濃度の高いお酒が造られたのでしょう。(もちろん、本当の経緯は今となっては検証し様がありませんが。)その手法が化学の実験に取り入れられて今でも重要な分離手段のひとつとなっています。

 今回の学生実験でも水とアルコール(エタノール)系の蒸留を行います。この系は共沸現象が見られる系として有名で、いろいろと複雑なことがおこる系です。でも、今回の実験ではエタノール30wt%の溶液を60wt%程度に濃縮するだけなので共沸点(96wt%)には到達しませんから、典型的な蒸留の一例と見なすことができます。

 蒸留で得られた留出液を数個の三角フラスコでサンプリング、蒸留が進むにつれて留出液中のエタノール濃度がどのように変化するかを屈折率計を使って測定します。

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2015.12.30

講義 「有機化学1」 第5回目の講義から-1 キラリティの判定(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 余談ですが、昔、本屋で「キラリティー」という萌え系のマンガ雑誌を見かけました。これは、有機化学の講義のネタに使える…とは思ったのですが、これをレジにもって行く勇気が出ませんでした。少し後悔しています。

 さて、ある化合物がキラルかどうかの判定について、古い高校の参考書には「分子中の炭素原子に4つの異なる置換基をもつ分子は不斉中心になり、キラル分子になる」と書かれています。これは間違いです。

 図の分子を考えてみてください。この分子の真ん中の矢印で示した炭素原子は水酸基、水素、(R)-1−クロロエチル基、(S)-1−クロロエチル基、と、すべての置換基は異なっています。しかし、この分子の鏡像体は元の分子と重なります。したがって、この分子はアキラルです。このことは先の『4つの異なる置換基』という定義は、自己矛盾をもつことになります。ちなみに、この分子は1−クロロエチル基上にそれぞれキラル中心をもちます。しかし、分子全体ではアキラルになっています。このような分子をメソ体と呼びます。

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2015.12.29

出前実験を行ってきました!(2015年度その2) (西尾教授)

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 先日,逗子開成中学校・高等学校で開催している「土曜講座」で,上野聡講師がタオルの染色実験を実施しました.私も続いて担当し,2015年12月19日に「虹色を出すめっきの実験」を実施してきました.これは,アルミニウムの表面を電気化学的に酸化し,続いてめっきを行い,1枚のアルミニウム板に様々な干渉色(構造色)を出すものです.この実験は首都大学東京の益田秀樹教授が開発したものですが,2年ほど前まで益田教授の研究室にいた私は「のれん分け」をさせてもらっています.(実験の詳細は,東京化学同人「現代化学」の1997年1月号に掲載されています.)

 逗子開成中学校・高等学校は初めての訪問でしたが,逗子海岸が目の前にある,素晴らしい環境にありました.海に近い環境を教育にも活かしており,中学校では,全員(!)が1.5kmの遠泳を体験したり,ヨットの制作や操舵を学んでいるとの事でした.ここだけの話ですが,もし夏だったら,実験後に逗子海岸で海水浴を楽しんでいたかもしれません.

 当日は,青銅鏡の制作など複数の実験が同時に行われました.私が担当した実験は,試料の準備の都合から20名に限定させてもらいました.実験前の説明で,参加した学生にはその理由を十分理解してもらえたかと思います.

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2015.12.28

近似的に物事を考える(森本講師)

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 化学に限らず科学の世界では、演繹的に物事を考える時、いかに厳密に論理を展開していくかが鍵を握ります。考えているひとつの命題が他方の必要条件、十分条件、必要十分条件なのかを考慮しながら、ここまで言える、ここまでは言えないという判断を論理的に繰り返しながら、簡単な原理や基本式から様々な定理や有用な式を導いていきます。例えば、熱力学は実質的に2つの法則・式をもとにして、身の回りの実に多くの現象を説明でき、また化学分野でも反応進行の可否や化学平衡の偏り具合を判断するのに必須です。

 しかし、全ての科学的に検証可能な現象が厳密な議論のみで記述できるとは限りません。例えば、化学者が扱う基本粒子である原子(の中の電子の運動)を考えるとき、実は水素原子を除いた全ての原子、そして分子は厳密に記述することはできません。そのため、原子・分子中の全ての電子の運動を厳密に記述することはあきらめて、代わりに一つの電子に注目し、原子核と残りの電子達がつくりだす電気的な雰囲気の中でその電子がどのように振る舞うか?という近似的な議論を行います。

 こんな現状を知ってしまうと、「なんだ、化学者は水素原子ぐらいしかまともに捉えられないのに、厳密には議論できないいろんな分子をつくって喜んでいるのか?!」とがっかりしてしまう人もいるかもしれません。しかし、化学者(科学者)は厳密に考えられなくても、近似的な考え方で現実に起きている現象を十分に説明・理解できれば、それも一つの理解の方法だとして受け入れます(もちろん論理展開の厳密性は確保します)。実際に、原子・分子の電子の運動は上記の近似的な考え方で、ある程度(様々な実験結果を理解するのに問題がない程度)まで理解できることがわかっています。 

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2015.12.25

理系の文章技術(ノウハウ編)-6[最終回](片桐教授)

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「理系の文章技術(ノウハウ編)-5」はこちら

 高校までの中等教育で習う英語の「文法」は、単語を組み立てて文を作る部分にのみ限定されている。一方、イギリスやアメリカのハイクラスの中等教育では、音を組み立てて単語を作る、あるいは文を組み立てて「パラグラフ」を作り、パラグラフを組み立てて文章を作るような高次文法が重要視されている。では、なぜ、日本ではこのような高次文法は教えられていないのであろうか。これは私は、高次文法には例外が多く、試験になじまないからではないか、と考えている。

 今から20年ほど前に「化学英語」という講義を担当した。その時にアントニ=ロレンス先生(当時:岡山理科大学、現:早稲田大学)とどのような講義をおこなうかについて議論し、そのとき、パラグラフライティングを教えることとして、当時、CD版で入手したJournal of the American Chemical SocietyとJournal of Organic Chemistryの文献を解析した。

 パラグラフパターンの解析は、英語教育で昔から行われているらしい。しかし、その参考書を読むと、128パターンとか256パターンとかとんでもないパターンがあり、これをすべて教えることはできない。しかし、実際に化学論文を解析すると、わずかに3パターンしかないことに気がついた。

 そして、日本語の化学論文(今は廃刊になった「日本化学会誌」)を同様に解析してみたところ、この3パターンしかないことを確認した。

 今回はその3パターンについてまとめる。

6.1 パラグラフ・ライティング

 パラグラフは理化学文章を書くときに重要な思考の単位である。1つの文は1つの内容を説明するのと同様に、一つのパラグラフは1つの思考を述べる。従ってこの単位を大事にすることは、良い文章を書く重要なコツである。

 パラグラフには構造がある。1つのパラグラフは1つの思考でできた一つの文の塊である。従って「設定された問い」と「問いに対する著者の結論」を必ず含む。ただし、この問いと結論は、必ずしも一般的な「問い」と「結論」ではない。いろいろな形に変形している。

 一つのパラグラフ内の文の意味上の主語は原則として統一すること。そのためにもそのパラグラフで何を言いたいかを考え、最もふさわしい主語を選ぶこと。

 裏技ではあるが、結論をパラグラフの先頭に持ってくることにより、内容を容易に把握できる。特に「問い」が自明な場合、この方法は有効である。このやり方の例は、例えばこのパラグラフで見ることができる。

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2015.12.24

メリークリスマス(山下教授)

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 秋も深まり紅葉した樹々が葉を落とし始めたころ、本学名物のクリスマスツリーが点灯されます。高さ8メートル余りのヒバの木で、研究棟と厚生棟、図書館に囲まれた広場の中央にあり、きらびやかな飾りと電飾がクリスマスシーズンの訪れを告げています。ここからは、ちょうど片柳研究所が見渡せる恰好の位置ですが、写真のように片研にも見劣りしない立派なツリーです。

 1996年、私はMITに招かれ、ボストンで1年を過ごしました。10月のボストンは街中が紅葉に包まれ、ため息がでるような美しさでした。クリスマスシーズンになると、大通り沿いの空き地がクリスマスツリーショップに変身します。即ち、クリスマスツリーが植えられ、車で訪れた人が好みを木を見つけるとその場で木の根元から切ってもらい持ち帰るのです。木の種類もスギ、ヒバ、松など様々で大きさも180センチほどの「小ぶり」なものから3メールを超えるものまで様々です。日本では、ほとんどの家庭でプラスチックのクリスマスツリーが飾られているようですが、ボストンでこのような「生の」クリスマスツリーが好まれるのには秘密があります。

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2015.12.23

学生実験をみてみよう(第2期) その9「COD」(江頭教授)

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 このシリーズ「学生実験をみてみよう」では応用化学科の学生実験、工学基礎実験Ⅰ(C)、Ⅱ(C)の実験を紹介しています。

 今回の実験テーマはCOD。

 「COD」という言葉を聞いたことがない方もいらっしゃるかも知れませんが、私くらいの世代は昔、環境汚染、というか公害が問題となっていた時代に良く聞いた言葉です。CODとは水の汚染の度合いを示す数値で、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand)の略です。水に含まれている汚染物質を酸化して取り除くのにどのくらいの酸素原子が必要か、という数値で値が大きいほど「汚い水」ということになります。化学的(Chemical)とついているのは化学反応によって酸化を行う、という意味ですが、これは微生物によって酸化する測定値(BOD)と区別するためですね。

 さて、CODの測定には過マンガン酸カリウムを用います。水に一定量の過マンガン酸カリウムを加え、混入している汚染物質を強い酸化力をもった過マンガン酸イオンで分解します。汚染物質が多いと大量の過マンガン酸イオンが消費されますが、きれいな水なら過マンガン酸イオンはそのまま残ります。

 残った過マンガン酸イオンの量が分かればCODも分かることになります。その測定方法は滴定。本学の学生実験では滴定の操作は何回も行っていますが、今回の実験では光で分解する性質のある過マンガン酸を用いるので特別な褐色のビュレットを用いています。

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2015.12.22

研究者の倫理に関する身近な出来事について(西尾教授)

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 少し前の事ですが,購読している化学系の雑誌を読んでいたところ,あるページに目が留まりました.そこには,私が2年ほど前まで所属していた研究室の,代表的な論文の図が小さく載っていたからです.そのページでは,一人の研究者が自分の研究を紹介していましたが,その図がどの論文に掲載されているものかを示す記述がありませんでした.

 研究者は,自分の研究の独自性を明確にするため,他の人の研究を参考にしたら,必ずその元(出典)を引用しなければなりません.引用せずに他人の成果を利用した場合は,当然ながら不正行為とみなされます.雑誌は論文ほど厳密ではありませんが,一度でも不正行為をすると,不正な思想を持つ研究者とみなされるので致命的です. (上の件は悪意は無く,雑誌の編集過程で誤って出典を消してしまった様です.)

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2015.12.21

ナノ粒子解析装置(須磨岡教授)

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 このブログでも学生実験用に応用化学科で購入した実験装置が何度か紹介されてきました.今回は,ナノ粒子解析装置(株式会社堀場製作所,SZ-100-Z)について書いてみたいと思います().この装置では,0.3 nm8 µmの粒子の大きさを測ることができます.例えば,高校化学でもお馴染みのコロイド粒子が,この大きさの領域に入っています.身の回りのコロイドの例として教科書でもよく取りあげられる牛乳をこの装置で実際に測定してみました.

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 水で希釈した牛乳にレーザーポインタで光を当てたところ,レーザー光の通った筋がはっきりと見えました.これをチンダル現象と呼ぶことは皆さんも知っていると思います().ではこの水で希釈した牛乳を実際に測定してみましょう.この装置では,コロイド粒子の大きさとブラウン運動の速さの関係を上手く利用して粒子の大きさを求めています.

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2015.12.18

理系の文章技術(ノウハウ編)-5(片桐教授)

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「理系の文章技術(ノウハウ編)-4(その2)」はこちら

5. 文章の書き方-ノウハウ-

 人間は理屈では動かない、感情で動く。理屈が正しければ動かされることはあるが、自ら動くわけではない。したがって、いかにレポートの受け取り手の感情に働きかけるかは、重要な課題である。ではどうすれば、文章を受け取る者の感情を動かせるか。実は簡単である。書き手が誠意をもって一生懸命やっていることを示せばよい。小手先の技術で感動を引きだせると思ってはならない。

 一方、どんなに熱い思いで文章を書いても、それが適切な技術に裏付けられていなければ「ゴミ」扱いされてしまう。人の心を動かすためには、発信者の心と技術の両方をそろえなければいけない。ここより先の文章の書き方は、熱い心を持つ者を対象にしている。小手先の技術で読み手を感動させる「ウソのつきかた」を片桐は知らない。

5.1 文章の種類

 文章の書き方は目的によって2種類ある。一つ目は正確な伝達を目的とする文章である。二つ目は感情を動かすことを目的とする文章である。前者の例としては、論文、レポート、法律、マニュアルなど、百人読めば百人とも同じ受け取り方をすることを求める文章である。その対局にあるのが後者の、小説、詩、俳句などの感情に訴えかける文章である。これらの文章では感情の移入を容易足らしめるために、わざと曖昧な表現を用い、その曖昧さの中に読者の体験や感情を移入する余地を残している。言い方を変えれば前者は「論理文章」、後者は「感情文章」と表される。この文章の書き方で扱うのはあくまでも前者の文章である。

 さらに文章は、自分だけが読むことを前提にしたものと、他人に読んでもらうものがある。しかし、自分だけが読むことを前提にした文章でも、実験ノートのように必要ならば「公式文章」になるものもある。従って、恥をかかないためにも、文章を書くときはいかなる文章でも十分な注意と配慮の元に書くべきである。

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2015.12.17

学生実験をみてみよう(第2期) その8「アボガドロ数の測定」(江頭教授)

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 東京工科大学工学部応用化学科の学生実験、「工学基礎実験Ⅱ(C)」の内容を紹介している本シリーズ、今回は「アボガドロ数の測定」がテーマです。

 マクロな物質を取り扱う限り、物質に最小単位がという証拠はなかなか見当たりませんが、現在ではいろいろな証拠が見つかっています。アボガドロ数はマクロな物質の量と物質の最小単位である分子との関係を表す数字ですから、アボガドロ数の測定に際しては分子の存在が影響している現象、つまり物質に最小単位がある証拠となる現象が利用されることになります。

 さて、今回のアボガドロ数の測定の方法は以下の通り。

 まず墨汁を垂らした水面にステアリン酸のヘキサン溶液を垂らします。ヘキサンは蒸発してステアリン酸の膜が得られます。

 

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2015.12.16

「ビジネスフェア from TAMA」に出展しました(原准教授)

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 11月6日(金)に東京ドームシティ プリズムホールで開催された「第16回ビジネスフェア from TAMA」に東京工科大学を代表して出展し、片桐先生と私で応用化学科の研究シーズを紹介してきました。

 このフェアは、「地域を越えた中小企業のビジネスチャンス拡大を目的とする、多業種・多企業による企業展示・マッチング会」として企画されたものであり、地域企業の優れた技術・製品・サービスなどがPRされていました。我々としては、地域の企業の方に本学での研究・教育活動をまずは知って頂いた上で、どのような連携が可能かをお話させて頂く機会となりました。大学で培った様々な研究シーズを企業の方に使って頂き、実用化につなげて社会に貢献することができればと思います。また、企業の方が苦労されている案件について、大学側の知見や技術が解決策を与えることが少しでもあればという思いも抱いています。

 私はこの企画に初めて参加して、我々の大学が位置する多摩地区やその近隣の地域には、魅力ある企業が数多く存在することを改めて認識しました。その企業の多くは、必ずしも多くの人には知られていないものの、我々の生活を様々な形で支える製品・商品を供給しています。それらの製品・商品には各企業の独創性や職人技が最大限に発揮されており、他の会社では真似できない技術によって創り出されていることを実感しました。業績が良好であり企業規模を拡大できる状況にあるものの、新規採用するために十分な応募がないことに悩まれている企業の方が少なくないこともこの機会に知りました。

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2015.12.15

講義 「サスティナブル概論」から その2 第2種永久機関はできるのか?(片桐教授)

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 資源のリサイクルは物質不変の法則、質量不変の法則を根拠とします。物質は「なくならない」ので、再生可能です。エネルギー不変の法則もまたよく知られています。エネルギーは形を変えるが、その総量はかわりません。しかし、エネルギーはリサイクルできません。エネルギーは最終的には「使えない」熱にかわり、これは単独では利用できません。熱エネルギーを使うためには高温のものから低温のものへの熱の移動がなければなりません。温暖化した地球の熱をそのまま使うことはできない、とされています。これは熱力学第二法則=エントロピー増大の法則とよばれるものです。もし、この熱力学第二法則を破る機械=デバイスができれば、温暖化した地球を冷やしながら無限のエネルギーを得ることもできます。このような機構を第2種永久機関と呼びます。そして、その永久機関の鍵となるのがマクスウェルの悪魔と言われるデバイスです。

 マクスウェルの悪魔とは1867年にスコットランドの物理学者J. C. Maxwellが提唱した思考実験で、分子レベルでエントロピーを減少させることができるデバイスのことをさします。

 さて、第2種永久機関は本当にできないものでしょうか。これまでにも多くの理論物理学の研究者がその可能性をまじめに研究しています。このようなデバイスは、熱振動を運動エネルギーとして利用できるナノの世界でその可能性が議論されてきました。実際、筋肉を動かすアクチンとミオシンの組み合わせは、ATP-ADPのエネルギーを熱振動の制御に利用して、筋肉を動かしています。つまり、筋肉の駆動力そのものはブラウン運動と同じような熱振動であることが知られています。この辺りの研究は1990年代に盛んに行われていました。しかし、タンパク質のような比較的巨大な分子を使ったデバイスでは、駆動力に熱振動を使っても、制御力は化学エネルギーを使わざるを得ません。

 それよりも小さなスケールの分子の場合、今度はvan der Waals力が大きな邪魔になります。デバイスの空間部分は小さくなると、距離の6乗に反比例するvan der Waals力の作用が大きくなり、構造は固定されてしまいます。それを制御する手段として、分子間力を弱めるフッ素原子を導入する効果が利用できました。これにより柔らかいのに落盤しない分子サイズの細孔を作ることができました。

 私は、結晶中に落盤しない数オングストロームの大きさの細孔を作り、その細孔内に猫じゃらしのような一方方向へ向いた壁面を作り、柔らかな細孔内にアントラセンと言う蛍光分子を導入したところ、この分子は結晶の細孔内を1方向に動きました。

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2015.12.14

出前実験を行ってきました!(上野講師)

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 11月14日(土)に神奈川県逗子市にある逗子開成中学校・高等学校に行き、ハンカチの染色について講義や実験指導を行ってきました。逗子開成中学校・高等学校は、東京工科大学八王子キャンパスから電車で1時間30分の距離にあり、近いとは言えないのですが、土曜日に「土曜講座」というものを定期的に行っており、今回はその時間をお借りしました。

 内容としては、朝10時から15分程度、どのような化学反応が起こって染色しているのか、またどのようにして色がハンカチに定着しているのかについて簡単な化学式を使って講義形式で説明しました。また、ハンカチの染色の実際の実験方法についても説明しました。その後、1時間20分程度、参加者全員がハンカチの染色を行いました。自分の好きな絵や文字などを自由に描いており、とても楽しめていたのではないかと思います。最後に20分くらい全員で片付けをして終了という2時間程度の講義・実験になります。

 ハンカチの染色は、高等学校の授業の実験でも「草木染め」として行っているところもあるようです。しかし、実は今回逗子開成中学校・高等学校で行った「ハンカチの染色」では、次の3つの点で一般的に授業などで行われている草木染めとは異なっています。

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2015.12.11

理系の文章技術(ノウハウ編)-4(その2)(片桐教授)

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4.3 曖昧な文章を書かないために つづき

 レポートを書いているときは、なにかを誤魔化そうなんて思っているわけではない。でも読む人が「誤魔化そうとしている」と判断してしまう文章になることがある。それには理由がある。

チェック1:そこで書きたいことは本当にあなたの言いたいことか?。誰かの受け売りではないか?。

チェック2:そこで書こうとして結果に100%の自信を持っていいるのか?。自信はないけど取りあえず何かを書いて出そうという、卑しい心根はないか?。

 正直な人なら、引っ掛かることがあるだろう。では、自信が持てないことで文を書く場合にはどのような注意が必要だろうか。

ノウハウ14:

 事実と意見とを同じ文にいれない。「〜と言う結果を得たが、これは〜と言うことを意味している」ではなく、「〜と言う結果を得た。私はこの結果を〜と解釈した。」とする。

ノウハウ15:

 意見を述べる場合は主語を自分自身にする。「私は〜と思う」と自分の意見であることを表明する。自分で責任をとりますという態度はそれだけで男前である。

 科学は、たとえ日本人が行うとしても、西洋の哲学を基盤としているため、その思考法は西欧風である。日本語の「〜と考えられている」の意味上の主語は社会一般ではなく著者であるケースに対して、英語の「It is considered that 〜」のItは社会一般、通念を表す。言語の壁は、文法や発音や聴き取りの壁だけではなく、考え方の壁である。


4.4 口癖でわかるあなたの人格曖昧度

 口癖で以下の言葉を使っている人は、心の底から「曖昧」を愛している人です。以下は、その実例と、それを聞いたときの片桐の心の中の突っ込みです。

さあLet's Check!。

 チェック1:「〜っていうかぁ」言い換えの表現にみえて、弱める間投語

 チェック2:「〜じゃないですか」疑問で同意を求めている。自分に自信がない。

例「クリスマスは彼女と過ごしたいじゃないですか」(「そうかぁ?」)

 チェック3:「とか」柔らか表現を目指している?。

例「雨とか降っていて、電車とかも混んでいて、」(「「雨とか」って槍でもふってたんかい」)

 チェック4:「すごい」「カワイイ」紋切り型、陳腐な表現を多用する性格。

 チェック5:「べつにぃ」言いたいことを表現できない。重症患者。

例「そろそろ出かけなければ間に合わないんじゃないの?」「べつにぃ」

(「べつに間に合わなくても良いのか、別に心配はしていないのかわからん。」「ほっとこか」)

 チェック6:「じつは...」(「脅かしとんのかコォラ」)。

  例「じつは、先生も御存じのように、...」(「知らんわ!」)

 チェック7:「一応」どこまでやれればちゃんとになるのか?

例「試験はできたかい?」「一応できました。」(多くの場合「全然できとらんが!」)

 チェック8:「あなたのこと、少しへんじゃないって、みんな言っているわよ」

 (「だれがゆうとんねん。おまえだけや」。自分の意見としてしゃべれないのか?)

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2015.12.10

12月2日の小宮山先生の講演会にて思ったこと「3倍1/3の法則」(片桐教授)

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 まあ、なんと過激なそして挑発的な講演会でしょうか。私もラジカルを自認していますが、レベルが違いました。本学科のE先生をはじめとして化学工学分野の先生はみな反応性の高いラジカルのようです。

 さて、小宮山先生のおっしゃることは正論で、まさにそのとおりです。大きな改革(プラチナ革命)を行えば、「みんなでHAPPYになれる」。そのとおりです。私も異論はありません。以前、ブログ「講義 「サスティナブル概論」から グリーンケミストリー12か条」で3Eのトリレンマ、エコロジーとエコノミーとエネルギーのトリレンマについてお話ししました。小宮山先生のお話は、その3つが戦略的に解決できる、ということを、エネルギーの立場から示唆されました。

 しかし、戦略的には正しいことを戦術に落とし、それを実戦するのは難しいことです。これまでのイノベーションの多くは「足し算」でした。新しい技術を既存の技術に足した「改良された」ものを提供する、というものです。これは社会に簡単に受け入れられます。一方、小宮山先生の提案されるイノベーションは「引き算」に近いもの、あるいは既存のものを新しく良いものに置換する、というイノベーションです。先生もおっしゃっていたように、これは既得権を持っている者に「みんながHAPPYになるために、あなたの権利を捨ててよ」という提案です。これを実施するための戦術は、大変難しいでしょう。

 営業をしていたときに、市場奪取における「3倍1/3の法則」という法則を学びました。

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2015.12.09

1万ボルトの輝き~ガイスラー管とネオンサインの関係(高橋教授)

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「この赤紫色に光る現象をネオンサインに使っているんだよ。」(私)

「・・・(無言)」(学生)

「ネオン街とかね。」(私)

「・・・(無言)」(学生)

 研究室で真空装置で実験をしている、とある日のことです。ロータリーポンプ(真空ポンプ)で薄膜作製用の真空装置内を真空にしながら、ガイスラー管を点灯して真空度をチェックしていました。装置内が大気圧から真空になっていくと、ガイスラー管は放電をはじめ、赤紫色に光ります。この光(放電現象)を指しながら説明しようとしている場面でした。

 両端に電極を付けたガラス管を用い、ガラス管内の圧力を低下させて電極に高電圧(1万ボルト程度)を加えることで、放電が発生して赤紫色に光り始めます。放電による光の様子は管内の圧力に依って変化します。これがガイスラー管であり、管内のおおよその圧力を推定できます。はじめは線状に電極間を光が走りますが、圧力の低下とともに光る部分が電極の間、ガラス管全体に広がっていきます。真空を用いた実験は、応用化学科のいくつかの研究室では日常茶飯事で、特に新規の機能性薄膜材料を創製する研究では重要なものの一つです。自動制御にしていない真空装置で薄膜作製装置を真空にする際には、ガイスラー管が活躍しています。先ほどから真空排気していた装置内の圧力が低下して、ガイスラー管には蛍光が見え始めました。このあたりでガイスラー管のお役目は終了となり、他の真空計にバトンタッチとなります。

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2015.12.08

講義 「サスティナブル概論」から グリーンケミストリー12か条(片桐教授)

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 以下は、グリーンケミストリー12条と言われる原則です。

  1. 廃棄物は「出してから処理ではなく」、出さない

  2. 原料をなるべく無駄にしない形の合成をする

  3. 人体と環境に害の少ない反応物、生成物にする

  4. 機能が同じなら、毒性のなるべく小さい物質をつくる

  5. 補助物質はなるべく減らし、使うにしても無害なものを
  6. 環境と経費への負担を考え、省エネを心がける

  7. 原料は枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る

  8. 途中の修飾反応はできるだけ避ける

  9. できるかぎる触媒反応を目指す

  10. 使用後に環境中で分解するような製品を目指す

  11. プロセス計測を導入する

  12. 化学事故につながりにくい物質を使う

 しかし、この原則は常に正しいものではありません。例えば、ポリ塩化ビニルはその加工品の可塑剤の環境ホルモン作用(女性ホルモン様の活性)ゆえに環境に優しくない素材とされていました。さらに、他の炭化水素系樹脂とは異なる物性のため、リサイクルの邪魔になり、また燃やすと塩化水素等だけでなくダイオキシン発生の原因になると嫌われました。さらに土に埋めても自然分解しないために上記10番目に反します。

 私の手元にポリ塩化ビニル製のマグカップがあります。これは1972年に私の父がアメリカで購入したものです。今でも使用できます。つまり、もう43年間使っています。半世紀近く使っています。しかも,陶器のように落としても壊れることがありません。その意味で「究極のエコ」商品のはずです。

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2015.12.07

小宮山宏 三菱総合研究所理事長(第28代東京大学総長)に講演していただきました(江頭教授)

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 先週、12月2日のコーオプ演習Ⅰの時間には、コーオプ教育と並んで本学工学部の特徴となっているサステイナブル工学について、その導入としての講演会を行いました。

 講師をお願いしたのは三菱総合研究所理事長で、2005年から2009年の間、第28代の東京大学総長としてサステイナビリティ学連携研究機構の設立などに尽力された小宮山宏先生です。

 講演は「プラチナ社会に向けたイノベーション」というタイトルで産業革命から始まった人類史の転換点とも言うべき大きな変化と、その結果今の日本が直面する「飽和」という現実、そして目標とすべき社会像「プラチナ社会」についてです。

 この様に書くと抽象的ですが、「赤とんぼ」の歌の歌詞からこの一世紀の人々の暮らしの変化を考えたり、部屋の照明からエネルギー利用の将来変化について語るなど、縦横無尽の展開に学生諸君も圧倒されていました。

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2015.12.04

記事200本到達記念「応用化学科ブログ」カテゴリー別記事数トップ3(江頭教授)

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 本学科の公式ブログ、この記事でついに記事200本に到達しました。

 これを記念して、今回はカテゴリー別の記事数を比較してみました。「カテゴリー?」と思った人はページの右側を見てください。「お知らせ」から始まって全部で14項目のカテゴリーが並んでいます。200本の記事があるので、1カテゴリーに14本くらいの記事がある計算ですが、さて実際はどうなっているのでしょう。

第3位 「基礎講座」

 今回はカウントアップで行きます。「基礎講座」は記事数22本で、平均より結構多いですね。このカテゴリーには10月から始まった片桐教授の長期連載シリーズ「理系の文章技術」が入っています。それに「有機化学1」のポイントを紹介するシリーズもこの分類。こちらは「在学生向け」でも良かったかも知れません。

第2位「授業・学生生活」

 記事数25本。こちらにはもう一つの長期連載のシリーズ、「学生実験をみてみよう」「学生実験をみてみよう 第2部」 があります。学生実験は授業のひとつではありますが、参加する教員の人数もTA、SAを含めるとかなりの人数になりますし、学生が主体的に行動する点、グループワークがある点など、ある種特別な授業です。授業であると同時に学生生活の大切な一環ですよね。

 他にも入学後すぐに開かれた「新入生交流会」や情報リテラシーの紹介記事もこちらに。

 さて、第1位は...

200

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2015.12.03

理系の文章技術(ノウハウ編)-4(その1)(片桐教授)

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「理系の文章技術(ノウハウ編)-3」はこちら

4 あいまいにしないためのこつ。

 曖昧(あいまい)な文章を書かないようにするコツやノウハウをまとめる。

4.1 主語の一致
 良い文、悪い文、以前の問題として、意味のわからない文を書かないようにしなければならない。レポートを読んでいて一番多いのは、同一文内での主語の変更である。

 例:「我々はベンズピナコールを酢酸中で触媒量のヨウ素と反応させたところ、1.0 gのベンゾピナコロンが得られた。」

 さて、この文章はどこがおかしいのであろうか?。どのように直せばよいのだろうか?。
 この文の前半の主語は「我々」である。一方、後半は「ベンゾピナコロン」である。従って、この文は

 「我々はベンズピナコールを酢酸中で触媒量のヨウ素と反応させたところ、1.0 gのベンゾピナコロンを得た。」

 とするべきである。

4.2 文中の曖昧さを排除するノウハウ

 まず、文章を書くとき、その最も大事な主張を一番目に最初に言い切りの形で書くこと。良い文章と悪い文章の境目は「何かを述べているか、何も述べていないか」につきる。すなわち、何かを述べている文章は良い文章で、何も述べていない文章は読むに値しない、悪い文章である。その文章において何かを述べていることを明確にするためには、「言い切っている」ことをアピールする形式にしなければならない。明晰に言い切った場合、その主張を支える証拠を理路整然と提出しなければならなくなるから、自然と「何かを述べている・中身のある」文章になる。言い切らない文は、多くの場合感覚や感情に基づくので、証拠を出せない。だから言い切らないのである。

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2015.12.02

学生実験をみてみよう(第2期) 番外編 実験室ライフハック「蒸留の温度測定」(江頭教授)

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 本学、応用化学科の学生実験、「工学基礎実験Ⅱ(C)」の実験内容を紹介する本シリーズですが、今回は番外編です。

 実験でのちょっとした工夫を紹介する、という意味での実験室ライフハック、ここで紹介するのは蒸留実験用の温度センサーです。

 学生実験では水とエタノールを蒸留で分離する実験を行う予定です。その予備実験を行っていてすぐに気がついたのが以下のポイント。

「蒸留が進んで液にも蒸気にもエタノールが無くなり、ほぼ水だけが蒸留されている状態になっても温度計の表示が100℃まで上がらない」

 蒸留において温度測定の役割は多くの場合、温度の変化を観察するもので、温度の絶対値にはそれほど大きな意味はないのかも知れません。ただ、水、という良く知っている物質が蒸留されていて、その沸点が100℃に至らない、というのは面白くありませんよね。(その方が教育的かもしれませんが...。)

 という経緯で作成したのが写真のセンサー。サーミスターのセンサーを外径3ミリのガラス管に入れたもので通常の温度計のホルダーにセットできるようにスリーブを付けてあります。上が蒸気測定様、下は液温度測定用ですが長さ以外の違いはありません。蒸留装置にセットアップした状態は下の写真のようになります。

Photo_2

 この温度センサーをつかって水だけの蒸留を試してみたところ、ちゃんと100℃になりました。(実際は±0.5℃の誤差があります。)

 では、なぜこの温度センサーは100℃を示すのでしょうか?普通の棒状温度計による測定値はなぜ100℃まで上がらないのでしょう?

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2015.12.01

推薦図書 ヨシタケシンスケ「もうぬげない」ブロンズ新社(片桐教授)

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 大学のブログで、しかも大学生向けの推薦図書であえて絵本をもってくることには、若干の逡巡がありました。その上で、あえて、若い学生さんに読んでもらいたいと思います。

 私の中学時代高校時代の愛読書はグリム童話集でした。大学で第二外国語にドイツ語を選んだのは、グリム童話集とハイジを原文で読みたかったからでした(同じクラスにはSFのペリーローダンシリーズの最新刊を早く読みたいから、という人もいました)。

 童話や絵本は、子供の最初に出会う本であり、その後々に大きな影響を与えます。「三つ子の魂百までも」です。しかも、巧妙に教訓が含まれています。もっともペロー童話集のように明示してあるものもあれば、いくつかのグリム童話のようにどのように読んでも教訓が含まれていないものもあります。その意味で、良い絵本や良い童話や良い児童文学を見いだすことは,子孫への大きな貢献といえます。

 さて、今回紹介する絵本は、お風呂の前にシャツを脱がされかけて、脱げなくなった小さな子供が「うん大丈夫!ぼくはこのままでいよう!」とひらきなおってしまうはなしです。しかし、この子は更なる困難な事態に直面し、「もうおしまいだ」と絶望してしまいます。我々にとって些細なことを重大事にとらえ、その上であきらめて開き直ってしまう、その結果絶望の淵に突き落とされる子供を客観的に見ると、滑稽です。この本を実際に読まれたならば、きっと大笑いすることでしょう。

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