近似的に物事を考える(森本講師)
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化学に限らず科学の世界では、演繹的に物事を考える時、いかに厳密に論理を展開していくかが鍵を握ります。考えているひとつの命題が他方の必要条件、十分条件、必要十分条件なのかを考慮しながら、ここまで言える、ここまでは言えないという判断を論理的に繰り返しながら、簡単な原理や基本式から様々な定理や有用な式を導いていきます。例えば、熱力学は実質的に2つの法則・式をもとにして、身の回りの実に多くの現象を説明でき、また化学分野でも反応進行の可否や化学平衡の偏り具合を判断するのに必須です。
しかし、全ての科学的に検証可能な現象が厳密な議論のみで記述できるとは限りません。例えば、化学者が扱う基本粒子である原子(の中の電子の運動)を考えるとき、実は水素原子を除いた全ての原子、そして分子は厳密に記述することはできません。そのため、原子・分子中の全ての電子の運動を厳密に記述することはあきらめて、代わりに一つの電子に注目し、原子核と残りの電子達がつくりだす電気的な雰囲気の中でその電子がどのように振る舞うか?という近似的な議論を行います。
こんな現状を知ってしまうと、「なんだ、化学者は水素原子ぐらいしかまともに捉えられないのに、厳密には議論できないいろんな分子をつくって喜んでいるのか?!」とがっかりしてしまう人もいるかもしれません。しかし、化学者(科学者)は厳密に考えられなくても、近似的な考え方で現実に起きている現象を十分に説明・理解できれば、それも一つの理解の方法だとして受け入れます(もちろん論理展開の厳密性は確保します)。実際に、原子・分子の電子の運動は上記の近似的な考え方で、ある程度(様々な実験結果を理解するのに問題がない程度)まで理解できることがわかっています。
むしろ近似的な考え方の方が、現実に何が起きているかを理解するのに役立つ場面だって実はあります。例えば、厳密な式を導いて理解できる中和滴定曲線ですが、近似的な議論を用いた方が、化学的な視点で理解しやすく、何が中和滴定曲線の形・変化を決めているのかがはっきりと見えてきます。この詳細は当研究室のホームページ内
に記載していますので、興味のある方は一読してみてください。近似的に考えることと厳密に考えることの両方とも実は大切で、そのどちらも意味があることをわかっていただけるのではないかと思います。
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