講義 「サスティナブル概論」から その2 第2種永久機関はできるのか?(片桐教授)
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資源のリサイクルは物質不変の法則、質量不変の法則を根拠とします。物質は「なくならない」ので、再生可能です。エネルギー不変の法則もまたよく知られています。エネルギーは形を変えるが、その総量はかわりません。しかし、エネルギーはリサイクルできません。エネルギーは最終的には「使えない」熱にかわり、これは単独では利用できません。熱エネルギーを使うためには高温のものから低温のものへの熱の移動がなければなりません。温暖化した地球の熱をそのまま使うことはできない、とされています。これは熱力学第二法則=エントロピー増大の法則とよばれるものです。もし、この熱力学第二法則を破る機械=デバイスができれば、温暖化した地球を冷やしながら無限のエネルギーを得ることもできます。このような機構を第2種永久機関と呼びます。そして、その永久機関の鍵となるのがマクスウェルの悪魔と言われるデバイスです。
マクスウェルの悪魔とは1867年にスコットランドの物理学者J. C. Maxwellが提唱した思考実験で、分子レベルでエントロピーを減少させることができるデバイスのことをさします。
さて、第2種永久機関は本当にできないものでしょうか。これまでにも多くの理論物理学の研究者がその可能性をまじめに研究しています。このようなデバイスは、熱振動を運動エネルギーとして利用できるナノの世界でその可能性が議論されてきました。実際、筋肉を動かすアクチンとミオシンの組み合わせは、ATP-ADPのエネルギーを熱振動の制御に利用して、筋肉を動かしています。つまり、筋肉の駆動力そのものはブラウン運動と同じような熱振動であることが知られています。この辺りの研究は1990年代に盛んに行われていました。しかし、タンパク質のような比較的巨大な分子を使ったデバイスでは、駆動力に熱振動を使っても、制御力は化学エネルギーを使わざるを得ません。
それよりも小さなスケールの分子の場合、今度はvan der Waals力が大きな邪魔になります。デバイスの空間部分は小さくなると、距離の6乗に反比例するvan der Waals力の作用が大きくなり、構造は固定されてしまいます。それを制御する手段として、分子間力を弱めるフッ素原子を導入する効果が利用できました。これにより柔らかいのに落盤しない分子サイズの細孔を作ることができました。
私は、結晶中に落盤しない数オングストロームの大きさの細孔を作り、その細孔内に猫じゃらしのような一方方向へ向いた壁面を作り、柔らかな細孔内にアントラセンと言う蛍光分子を導入したところ、この分子は結晶の細孔内を1方向に動きました。
つまり一方通行の追い越し禁止の分子トンネルをつくることに成功しました。この細孔が取り出せる熱振動のエネルギーはまだまだわずかなようです。実用化は本当に可能なのかもわかりません。実用化できるとしても、まだまだ先になりそうです。このような一方通行の分子バルブはマクスウェルのバルブと呼ばれ、マクスウェルの悪魔の前段階のようなものです。
ノーベル物理学賞受賞者で、「ご冗談でしょうファインマンさん」シリーズで有名なファインマンは1959年に「There’s plenty of rooms at the bottom.」「ナノの世界にはまだまだ可能性がある」と述べています。単に小さくするだけではなく、このようなナノの世界特有の現象をTRUE NANOと呼びます。そして、そのTRUE NANOの究極の目的はこのような熱振動の利用です。
さて、私の結晶は、本物の第二種永久機関なのでしょうか?。このブログを書いている2015年11月現在、否定的な結果は得られていません。それでも、丁寧に、慎重に研究を進めています。もしこれがほんまもんやったら、ノーベル賞も夢ではありません(笑、ノーベル賞推薦人が半分冗談で「実証できたら推薦するよ」と約束してくれています)。そのためには「なぜ動くか」を理論的に説明することが求められています。けども、それは簡単なことではないのです。
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