1万ボルトの輝き~ガイスラー管とネオンサインの関係(高橋教授)
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「この赤紫色に光る現象をネオンサインに使っているんだよ。」(私)
「・・・(無言)」(学生)
「ネオン街とかね。」(私)
「・・・(無言)」(学生)
研究室で真空装置で実験をしている、とある日のことです。ロータリーポンプ(真空ポンプ)で薄膜作製用の真空装置内を真空にしながら、ガイスラー管を点灯して真空度をチェックしていました。装置内が大気圧から真空になっていくと、ガイスラー管は放電をはじめ、赤紫色に光ります。この光(放電現象)を指しながら説明しようとしている場面でした。
両端に電極を付けたガラス管を用い、ガラス管内の圧力を低下させて電極に高電圧(1万ボルト程度)を加えることで、放電が発生して赤紫色に光り始めます。放電による光の様子は管内の圧力に依って変化します。これがガイスラー管であり、管内のおおよその圧力を推定できます。はじめは線状に電極間を光が走りますが、圧力の低下とともに光る部分が電極の間、ガラス管全体に広がっていきます。真空を用いた実験は、応用化学科のいくつかの研究室では日常茶飯事で、特に新規の機能性薄膜材料を創製する研究では重要なものの一つです。自動制御にしていない真空装置で薄膜作製装置を真空にする際には、ガイスラー管が活躍しています。先ほどから真空排気していた装置内の圧力が低下して、ガイスラー管には蛍光が見え始めました。このあたりでガイスラー管のお役目は終了となり、他の真空計にバトンタッチとなります。
さて、このお話の発端であるネオンサインについてです。ガイスラー管の中に空気以外の気体を入れて放電させることでそれぞれの気体に特徴的な色に光ります。これが、ネオン管であり、ネオンサインとして用いられているのです。希ガスのヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)を封入したネオン管は、それぞれ淡赤色(バラ色)、橙色、赤紫色に光ります。水素や酸素を入れたネオン管もあります。様々な光を発するネオンサインは街の広告に使われているのですが、昨今ではLED(発光ダイオード)を使った広告灯に取って代わられていて、一緒に実験していた学生さんには私の説明がピンと来なかったようです。
さらに、この放電の色はオーロラの発光色とも関係があります。オーロラは、地球の超高層大気の酸素・窒素の分子・原子やイオンなどの発光現象です。よく見られる緑色は酸素原子による発光であり、赤紫(ピンク)色に光る窒素原子、強い青色の窒素分子イオン(N2+)などなど、ガイスラー管やネオンサインと同じく気体(原子・分子)に固有の色を発しているのです。
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