講義 「有機化学1」 第7回目の講義から-1 反応と反応機構の捉え方(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
有機化学1の講義も、主に分子の形の記述を終わり、いよいよ反応の話に入ります。これまでは3次元空間をエネルギーと言う尺度で考えてきました。ここからは、反応と言う分子の「変化」をエネルギーを使って記述します。
ここでもう一度、「事実」と「意見」をしっかりと分別して考えるようにしましょう。
さて、有機化学は19世紀は「博物学」的な発達をしました。この原料をこの試薬とこのような触媒存在下にこのような溶媒中においてこのような条件で反応させるとこのような生成物が得られる、というような事実の集積により「経験則」的に発展しました。このころの発展は、BeilsteinのHandbuch der organischen Chemieにまとめられています。SciFinderが普及する1980年代まではこの本を読むために、ドイツ語がの有機化学者の必修でした。
しかし、このような博物学的な経験的なアプローチでは、新しい反応を開発するための指針としては必ずしも有効ではありませんでした。20世紀の初めから始まったロビンソンとインゴルドの「有機電子論」は、いろいろな有機化学反応の類似性から反応を説明するための反応機構を仮定しました。つまり,反応機構は意見です。反応機構は新しい反応を開発する指針になるものです。
しかし、反応機構は説明です、想像です、事実ではありません。
どんなに優れた反応機構も1つの否定的な実験事実で棄却される運命にあります。今日の教科書に記載されている反応機構も、それが正しい保証は誰にもできないことなのです。ただし、教科書に記載の反応機構は長い期間の多くの事実の検証に耐えてきたことから、今のところは正しいと思われている、というものです。この100年の人類の叡智です。
反応機構を支える大きな柱は「反応速度論」とその結果としてのエネルギー的な記述でした。そのため、反応機構を考えるときにはエネルギーと言う尺度が必須です。しかし、エネルギーと言う「概念」も人間の説明のための道具です。ニュートン力学が「力」を尺度として用いていた、しかし、エネルギーに取って代わられたことを鑑みれば、エネルギーという概念もまた何か新しい優れた概念に取って代わられるかもしれません。
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