有機化学1の講義は、反応の話に入りました。ここで、反応は「原料」あるいは「基質」に試薬が反応します。これらの基質や試薬、あるいは反応中間体はエネルギー的に不安定であり、反応によってより安定な生成物にかわります。このエネルギー的な不安定さ=反応性の起源は「電荷」にあります。
電荷は局在化すると不安定化します。また非局在化すると安定化します。これが最も大事なところです。これはクーロンエネルギーの式
E = − (Ze•e)/r
から理解できます。ここで、Zeは電荷の大きさ、rは電荷間の距離を示します。電荷が局在化している状態では、rの平均は小さくなるため、分母が大きくなる分、Eは高くなり(その絶対値は小さくなり)、つまり安定化の程度は小さくなります。一方、電荷が非局在化すればrの平均は大きくなるため、Eは低くなり(その絶対値は大きくなり)、つまり安定化の程度は大きくなります。
有機化学では、いろいろな活性種が出てきます。求電子剤のカルボカチオン、求核剤のカルバニオンやオレフィンなどのπ電子、ラジカル種…これらの活性種にはその反応性について、共通の性質を持ちます。
カチオンの場合、カチオン中心のsp2炭素に隣接するアルキル基上のC-H結合との超共役により、sp2炭素上のp軌道の陽電荷は広がり、より安定になります。だから、メチルカチオンよりも1級カチオンが、それよりも2級カチオンが、そしてさらに3級カチオンはより安定化します。
ラジカルもこの順番で安定化します。メチルラジカルよりも1級ラジカルが、それよりも2級ラジカルが、そしてさらに3級ラジカルはより安定化します。これも、不対電子の非局在化の程度の高い方が安定化する、と考えられます。
これはオレフィンの水素過熱から見積もられる安定性と類似性をもちます。エチレンよりも1置換オレフィンが、それよりも2置換オレフィンが、そして3置換オレフィン、4置換オレフィンとより安定化していきます。