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2016年1月

2016.01.29

講義 「有機化学1」 第9回目の講義から Markovnikov則(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 Markovnikov則とは、「非対称なアルケンへのハロゲン化水素の付加において、より多くの水素の結合しているsp2炭素(二重結合を持つ炭素)にハロゲン化水素由来の水素が結合する」という反応の位置選択性についての経験則です。この法則は19世紀の中頃に提唱されたもので、当時はどのように反応が進むかについての反応機構的知見はありませんでした。つまり、この法則は原料と試薬と生成物の構造という事実からのみ記述されたものです。そのため、この規則のscope & limitationは明確ではありませんでした。

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2016.01.28

ハーバーとボッシュ、偉いのはどっち?(江頭教授)

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 以前、山下教授から紹介があった「サステイナブル化学概論」の授業、その評価の一部として各教員がレポート課題を出すことになりました。

 私が出した課題が表題の「ハーバーとボッシュ、偉いのはどっち?」です。実際はもう少しちゃんとした文章になっていて、「どちらの業績を評価するか、君自身の考えを述べよ」となっていますが、まあ大意は「どっちが偉い」もっと言うと「どっちが好きか」です。

 えっ!ハーバーとボッシュで誰だって?もちろん、空気中の窒素からアンモニアを合成する技術、ハーバーボッシュ法の開発者として名前を連ねている二人の人物、フリッツ ハーバーとカール ボッシュの二人のことです。(ハーバー ボッシュという一人の人物がいる訳ではありませんよ。ハーバーについては以前、このブログでも紹介しています。

 このハーバーボッシュ法は高校の化学の教科書にもでてくる有名なプロセスです。平衡状態でアンモニアの生成に有利になる条件、高圧、低温の下で触媒を用いることで有意な生成速度を得る、という点がこのプロセスの基本、と紹介されています。

 この見方からすればハーバーボッシュ法はほとんどすべてハーバーの業績、とみることができます。(実は未反応の原料を分離して反応器へリサイクルする、というプロセスフロー上のアイデアもハーバーの提案に含まれていた、ということです。)

 では、なぜ空中窒素固定法はハーバー法ではなくてハーバーボッシュ法なのでしょうか? 

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2016.01.27

雑談から 講義の単位の意味、成績の意味(片桐教授)

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 学生さんとの雑談はブログネタの宝庫です。講義の前後に,廊下であるいは教室で、いすではなく机に腰掛けてカジュアルにざっくばらんに、自分の経験や失敗の話などをフッてから、学生さんの意見やホンネを引き出します。身近な面白い話や学生さんのホンネを聞くことができます。(時には教員がきいてはイケナイようなヤバイ話も聞けたりします。キコエナイ、キコエナイ!) 学生さんの勘違いや思い込みへの突っ込みは、先生業(ぎょう)の楽しみです。

 最近、そのような雑談で単位の話をしました。私が学生時代、まだ情報システムも不完全で取得単位の上限制もなかった頃に、1コマの表、裏、その裏と、試験成績さえ良ければ3倍ましましで単位を取ることができた話をしていました。そのとき、

「それってズルくありませんか。講義を受けてもいないのに、単位をもらうなんてオカシイ」

といわれました。

「もちろん、その先生の教科書をしっかり読んで、ノートも見せてもらって、試験もしっかり受けたよ。それでその科目の先生に評価されたのだから、特に問題はないと思うけど….ところで、単位を英語でなんというか知ってるかい?。」

「『Unit』ですか?。」…

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2016.01.26

緑化工学会シンポジウムで発表してきました(江頭教授)

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緑化工学会のシンポジウム、正確には

日本緑化工学会 乾燥地研究部会 第21回公開シンポジウム

「乾燥地の生態系とその課題 5

西豪州における温暖化対策と塩害・湛水害対策植林」

というタイトルで、私は以前このブログでも紹介した乾燥地緑林による炭素固定の研究について紹介しました。

 温暖化問題の原因となっている大気中への二酸化炭素の蓄積を緩和するためにはどうすれば良いか。省エネルギーが第一だ、という点は前提として、大量の二酸化炭素を固定することによる緩和の手段を考えるとすれば、結局は膨大な量の炭素をどこに、どのような形態で固定するのか、という課題に行き当たります。

 一つの可能性として考えられるのは陸域の生態系を利用して、生物やその死骸として炭素を固定することが考えられます。樹木は比較的少ない肥料成分(特にリン酸、カリ)で大きなバイオマスを蓄積することができるため、非常に有望な炭素固定の担い手です。

 すでに存在する森林を管理することでより多くの炭素を固定させることも必要ですが、現時点で植生が非常に乏しい乾燥地(沙漠など)への植林によって新たな炭素固定を実現することを目標として、本研究を進めています。

 発表の中では爆薬を利用した植林技術について述べたところ、シンポジウムの総合討論の中でそれについての議論が盛り上がりました。以下はその論点について書きましょう。

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2016.01.25

高分子固相光反応の不均一性(山下教授)

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 応用化学科が発進し1年が過ぎようとしています。学科には元気な1年生を迎え、教員も学生も希望にあふれ新鮮な気持ちで第1年目の講義や実験がスタートし、ました。応用化学科にはまだ4年生がいませんが、応用化学科に赴任した教員の研究室には既存学部(応用生物学部、コンピュータサイエンス学部、メディア学部)から学生が所属し、学生たちにとっては正にチャレンジングな卒業研究に挑戦しました。当研究室にもコンピュータサイエンス学部から学生が来て高分子材料の開発や光機能材料の開発を行いました。中でも、今年度大きな進歩を遂げた研究をご紹介します。

 今日の先端機能デバイスの多くは「光」を用いています。たとえば超高速計算機の「京」の電子回路を作るためには数十ナノメートルの精密微細加工が必要であり、光リソグラフィーの技術が活用されています。身の回りのDVDやBlueRayなどの録画機は光で情報を記録しています。このような光で反応する分子を設計するのが光化学の分野の仕事です。通常の化学反応はフラスコ中に入れた溶液を加熱し反応させますが、光化学反応では分子に光を当てることにより、光励起状態を経て、通常の熱反応では起こせない様々な反応を高速に起こさせることができるのです。

 これらの材料を設計する上で光励起状態の分子の「反応論」を解明することが重要になります。

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2016.01.22

講義 「有機化学1」 第8回目の講義から 活性種の類似性(片桐教授)

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 有機化学1の講義は、反応の話に入りました。ここで、反応は「原料」あるいは「基質」に試薬が反応します。これらの基質や試薬、あるいは反応中間体はエネルギー的に不安定であり、反応によってより安定な生成物にかわります。このエネルギー的な不安定さ=反応性の起源は「電荷」にあります。

 電荷は局在化すると不安定化します。また非局在化すると安定化します。これが最も大事なところです。これはクーロンエネルギーの式

E = − (Zee)/r

から理解できます。ここで、Zeは電荷の大きさ、rは電荷間の距離を示します。電荷が局在化している状態では、rの平均は小さくなるため、分母が大きくなる分、Eは高くなり(その絶対値は小さくなり)、つまり安定化の程度は小さくなります。一方、電荷が非局在化すればrの平均は大きくなるため、Eは低くなり(その絶対値は大きくなり)、つまり安定化の程度は大きくなります。

 有機化学では、いろいろな活性種が出てきます。求電子剤のカルボカチオン、求核剤のカルバニオンやオレフィンなどのπ電子、ラジカル種…これらの活性種にはその反応性について、共通の性質を持ちます。

 カチオンの場合、カチオン中心のsp2炭素に隣接するアルキル基上のC-H結合との超共役により、sp2炭素上のp軌道の陽電荷は広がり、より安定になります。だから、メチルカチオンよりも1級カチオンが、それよりも2級カチオンが、そしてさらに3級カチオンはより安定化します。

 ラジカルもこの順番で安定化します。メチルラジカルよりも1級ラジカルが、それよりも2級ラジカルが、そしてさらに3級ラジカルはより安定化します。これも、不対電子の非局在化の程度の高い方が安定化する、と考えられます。

 これはオレフィンの水素過熱から見積もられる安定性と類似性をもちます。エチレンよりも1置換オレフィンが、それよりも2置換オレフィンが、そして3置換オレフィン、4置換オレフィンとより安定化していきます。

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2016.01.21

学生実験をみてみよう(第2期) その12「実験結果 発表とディスカッション」(江頭教授)

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 本学応用化学科の学生実験について紹介してきた本シリーズ、1年後期の学生実験「工学基礎実験Ⅱ」についての紹介は今回が最終回になります。

 工学基礎実験Ⅱでは具体的な作業を伴う実験として

の八つのテーマで実験が行われました。

 今回はこのうち、後半の四つの実験テーマについての結果を発表するプレゼンテーション、その内容に対するディスカッションを行いました。

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2016.01.20

後期の授業が終了します(江頭教授)

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 後期の授業が終了します。(実は違いますが...。その理由はこの後!)

 さて、今学期最後の授業の今日は水曜日。ですが、今日の授業、実は月曜日の授業なのです。

 大学のカリキュラムには「月曜日問題」とでも言うべき問題があります。祝日を月曜日に移動させて連休を増やす制度、「ハッピーマンデー制度」のおかげで月曜日が休みになることが増えました。それは良いのですが、月曜日の授業は日数不足に陥る、というアンハッピーな状態になっています。

 そのため学期末や年末など、折に触れて月曜日の授業を行って月曜日の授業日数を稼ぐ必要があるわけです。

 今年度の授業終了日についてはもう一つ「実は」があります。

 

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2016.01.19

授業紹介 2年後期「化学工学」(江頭教授)

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 本学の工学部もこの4月には新入生を迎え、今の1年生は2年生に進級します。

 今回は2年の後期に行われる授業、「化学工学」について紹介しましょう。

 化学工学は化学物質を生産する装置(化学プラント、化学プロセス)の設計を目的として発展した工学ですが、その方法論は現在では化学反応を含むいろいろな現象の理解と制御のために用いられています。

 この授業では主に化学プラントの設計に適用される化学工学の考え方を習得することを目的としましょう。

 本授業を受講する学生諸君には、化学工学の「実学に基づく専門能力」の基礎として、化学反応や物質移動、相分離を伴うシステムを対象として、適切な境界を設定した上で物質収支、エネルギー収支を把握する手法を身につけることも目標の一つです。

 また、化学プラントに用いられる各種装置や反応器を実例として、目的に応じてシステムを改善・改革してゆく問題解決力も習得できるでしょう。

 教科書は

化学工学会高等教育委員会編「はじめての化学工学 プロセスから学ぶ基礎」

丸善 (2007)

を予定しています。

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2016.01.18

コマの回転と電子スピンについて(山下教授)

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 お正月休みにコマをまわして遊んだ人も多いことと思います。・・・・ ; いや、近頃ではコマ遊びする人を全く見かけなくなりましたが。

 子供の頃はコマが回るのも不思議とは思いませんでしたが、大学で力学を学び、慣性モーメントや歳差運動の力学を知ると、一見複雑な現象が非常に単純な原理で説明され記述できることにあらためて感心させられた記憶があります。化学を学び始めると、そもそも物質とは何か?どうして結合ができるのか?という疑問を解き、分子の合成法を学び、そしてそれを応用して様々な機能材料の開発に進むわけです。このとき、コマで観察した様々な運動が物質を作る電子の特性や、光磁気的性質、光励起状態の挙動など様々な科学に現れてくることにさらに驚きます。

 物質を構成する電子は、我々が通常経験するような古典力学では説明できない挙動を示し、量子力学に基づいて記述されます。電子もコマと同じような歳差運動をすることによってスピンという量子状態をもち、磁性を持つことになります。高校で学んだ運動量保存の法則 - 即ち外部から力が加わらなければその物体の運動状態は変化しない - という原理は全ての物理の基本となっていますが、光励起された分子が化学反応し構造や物性を変化させる過程で、電子のスピンがいとも簡単に変化してしまいます。

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2016.01.15

講義 「有機化学1」 第7回目の講義から-1 反応と反応機構の捉え方(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 有機化学1の講義も、主に分子の形の記述を終わり、いよいよ反応の話に入ります。これまでは3次元空間をエネルギーと言う尺度で考えてきました。ここからは、反応と言う分子の「変化」をエネルギーを使って記述します。

 ここでもう一度、「事実」と「意見」をしっかりと分別して考えるようにしましょう。

 さて、有機化学は19世紀は「博物学」的な発達をしました。この原料をこの試薬とこのような触媒存在下にこのような溶媒中においてこのような条件で反応させるとこのような生成物が得られる、というような事実の集積により「経験則」的に発展しました。このころの発展は、BeilsteinのHandbuch der organischen Chemieにまとめられています。SciFinderが普及する1980年代まではこの本を読むために、ドイツ語がの有機化学者の必修でした。

 しかし、このような博物学的な経験的なアプローチでは、新しい反応を開発するための指針としては必ずしも有効ではありませんでした。20世紀の初めから始まったロビンソンとインゴルドの「有機電子論」は、いろいろな有機化学反応の類似性から反応を説明するための反応機構を仮定しました。つまり,反応機構は意見です。反応機構は新しい反応を開発する指針になるものです。

 しかし、反応機構は説明です、想像です、事実ではありません。

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2016.01.14

学生実験をみてみよう(第2期) その11「有機化合物の系統分離・分析」(江頭教授)

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 工学部応用化学科の学生実験、工学基礎実験Ⅱ(C)を紹介する本シリーズ、実験の紹介は今回が最終回になります。

 さて、最後の実験は「有機化合物の系統分離・分析」。混合された有機物を抽出という手法で分離します。サンプルはジエチルエーテルに幾つかの物質が溶けているもので、実際にジエチルエーテルを溶媒として利用した実験を想定しています。

 ジエチルエーテルと水を混合すると「水と油」で二層に分離します。このときジエチルエーテルの相に溶けている一部の物質が水相に溶け出してきますが、水相のpHを変えことで何が溶け出してくるかをコントロールできるのです。

 写真の分液ロートを使ってサンプルに炭酸水素ナトリウムや水酸化ナトリウムでpHを調節した水を混合します。よく混ぜた後、分液ロートの下から重い水の相を分離します。

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2016.01.13

熱と温度と熱分析(高橋教授)

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風邪かな、熱があるのでは? 

熱、計ってみましょう。

あれっ、36.5℃しかないな・・・。

 計ったのは、温度(体温)ですね。日常よく使う言葉のひとつである温度と熱。物理化学Ⅰを学習した応用化学科1年生の諸君は、この二つの言葉を厳密に使い分けることを学んでいます。

 さて、私たち応用化学科では、サステイナブル工学の基礎となるものつくりや材料特性の解析を行っています。熱的な特性を明らかにするために必須の実験装置のひとつである熱分析装置が、学生実験用に導入されています。熱重量-示差熱量測定(TG-DTA)、示差走査熱量測定(DSC)、熱機械測定(TMA)の3種類の熱測定装置で構成された熱分析システムで、2年次と3年次の応用化学実験における実験課題の中で使用します。

 座学である物理化学Ⅰでは、化学反応を理解する上で重要な因子であるエンタルピー変化をDSCで測定できることを学びました。そもそもDSCという装置では、どのような測定・分析を行うのでしょうか。

 示差走査熱量測定(DSC)では、熱(エネルギー)を測定したい物質・材料(試料)と基準物質に独立に加えます。加熱に伴い、両者の温度が等しくなるように加える熱流(エネルギー)を制御し、この熱流の差を記録して解析します。相転移や分解などの物理的、化学的変化で生じる発熱や吸熱を補償するように加えられた熱流から、温度に対して、定圧熱容量(一定圧力下で物体の温度を単位温度だけ上昇させるために必要な熱量、比熱というと分かりやすいでしょうか)の変化が求められます。物理化学Ⅰの講義で学んだように、温度に対する定圧熱容量の曲線からエンタルピー変化を求めることができますから、DSC測定によって物理的、化学的変化に伴うエンタルピー変化を測定できるのです。

 あとの2機種(TG-DTAとTMA)についても簡単に紹介しておきましょう。

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2016.01.12

推薦図書 Zubric(上村訳)「研究室で役立つ有機実験のナビゲーター」(片桐教授)

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Zubric(上村訳)「研究室で役立つ有機実験のナビゲーター」丸善(2007)

(改訂版が出ています。)

 さて、2年になると有機化学の実験があります。この実験を行うときに参考書として手元に置いておくことを勧めます。

 大きな書店に行けば、有機化学の実験や実験手法について、いろいろな書籍が出ています。その中で、今回私がこの本を選んだのは「読める」本だからです。特に実験操作そのものに加え、ちょっとしたこつを丁寧に記述しています。

 私はこの日本語版が出版される前に英語版を既に購入していました。あるとき、この本の日本語版の著者の山口大学の上村先生に「本の査読をお願いできるかな?」と頼まれ、読んでみたら、自分のもっている本の訳でした。初版の訳者謝辞には私の名前が入っています。

 あえて、この訳本の欠点を挙げるのなら、各章の表紙にあるシャレの効いたコメントを十分に訳しきれていないところでしょう。上村先生の和訳の駄洒落はいまひとつで、「面白くない」と駄目だししたことをよく憶えています。それでも、「読んで楽しい実験書」はまれです。

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2016.01.11

サステイナブル化学概論(山下教授)

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 本学の工学部応用化学科に元気な1期生を迎え1年が過ぎようとしています。1年生後期には、有機化学、物理化学、無機化学という化学の3本柱となる基幹科目が開講され、学生もいよいよ化学の醍醐味を味わう世界に足を踏み入れました。同時に、「サステイナブル化学概論」も開講され、オムニバス形式で、各教員の専門分野の視点から、それぞれの分野の最先端の夢のような話が毎回講義されました。現在学んでいる化学の基礎知識がさらに深い専門科目の理解につながり、その専門科目を総合して、世界から注目されるような最先端の研究を自ら実施できることは大変興味深く、楽しいことだと思います。

 サステイナブル化学概論では、各教員による最先端化学のトピックスの他、大学院教育について、留学について、など化学系学部で教育を受けたのち将来研究者となった後に経験するであろう事象についても話がありました。

 12月にはDIC社の小寺史晃さんを迎え、会社における研究開発職についてと大学院生時代の苦労と楽しさについてお話しがありました。小寺さんは大学院卒業後DIC社に入り、世界シェアのほぼ100%を占めるディスプレイ材料の研究開発を行っている若手研究者で、会社で研究者となり自ら新しい材料を開発することの面白さと、そのためには大学院に進学し実力をつけなければならないという話は大変にわかりやすく、聴講した学生達からも自分の兄のような近い目線からの話が聞けたと好評でした。

 年明けには産業技術総合研究所の蛯名武雄先生を迎え、公的研究機関の研究員の仕事についてお話しがありました。

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2016.01.08

講義 「有機化学1」 第5回目の講義から-2 「体」には2つの意味がある(片桐教授)

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 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 さて、立体化学の章では、いろいろな「体」が出てきます。「立体異性体」「鏡像異性体」「対掌体」「S体」「R体」「メソ体」「光学活性体」「ラセミ体」….。これらの名称では共通して「体」と言うことばを使っています。しかし、その「体」の表す意味は大きく2つの異なるものに分類できます。

 例えば「立体異性体」「鏡像異性体」「対掌体」「S体」「R体」「メソ体」などは、分子の性質を表しています。1つのこの分子がどのような構造的な特徴を持つかについて表しています。

 一方、「光学活性体」「ラセミ体」は分子の集合した実際の物質の性質を表します。ラセミ体はS体とR体の1:1の混合物のことです。

 この2つの概念を同列に扱うと、混乱をまねきます。さらに、「光学活性体」と言うことばは、キラル分子を表す場合もあれば、S体とR体のどちらかが過剰に存在する混合物を表す場合もあります。大混乱です。

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2016.01.07

学生実験をみてみよう(第2期) 番外編 正確に計算するのは意外とむずかしい (江頭教授)

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 はい、まずは写真を見てください。

 これは学生実験(工学基礎実験Ⅱ「蒸留」)で使用したデータ整理用のワークシートです。一枚はデータを記録するためのシート、もう一枚は結果を整理するためのワークシートで計算式も記入されています。「蒸留」の実験では作業自体は短めに終わるので学生の皆さんはそのまま実験室でデータ解析を始めるのですが、そのときこのワークシートを完成させるのに皆さん結構苦労している様子でした。

 計算式は四則演算だけで特に複雑なものはありません。では何故むずかしいのか。ポイントは、一枚目のシートに記録する数値が53個。もう一枚のシートで計算する数値は42個になり、結構な数だ、という点にあります。

 皆さん、小学校時代の算数を思い出してください。計算問題のテストで100点しか取ったことがない人がいたでしょうか?(いや、いません。反語。)

 テストでは80%以上正解なら優秀、ということになりますが、逆に言えば20%くらい間違っていても良い、という見方もできますよね。でもこれはテスト、という特別なルールで行う計算の話です。実際には、例えば実験結果の整理なら、すべての計算が正しく行われていなければなりません。つまりテストで言えば100点でなければダメだ、ということなのです。

 算数のテストでは複数の計算は独立していますが、実験結果の整理では多くの計算はそれ以前の計算結果を参照していて、その計算結果自体も後の計算で利用されることになります。つまり、多くの計算が連続しているので、そのうちひとつでも間違っていたら最終的な結果も間違ったものになるのです。

 ひとつの計算の正答率が80%だとしても、ふたつの計算が連続して正解である確率は64%に下がります。10個の計算が連続していれば約11%、20個なら約1%しか正解の確率はありません。

 では、多数の計算をすべて正しく行うにはどうすれば良いのでしょうか。

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2016.01.06

推薦図書 ラピエール、モロ著 長谷泰訳「ボパール午前零時五分(上、下)」 河出書房新社(2002) (片桐教授)

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 少し古い本であるが、化学物質を取り扱うみなさんにぜひ読んでおいてほしい。

 化学の安全を学んだことのある者は「ボパール」という地名を聞いて、すぐに「ボパールの悲劇」と呼ばれる化学産業上最大の犠牲者を出してしまった事故を思い浮かべるであろう。

 ボパールの悲劇とは、1984年12月に起こったインドのほぼ真ん中にあるボパールという町の殺虫剤の原料をつくっていた工場からメチルイソシアネートの漏洩が起こり、工場の周囲の住民が多数亡くなった(数千人が即死し、最終的に2万人が亡くなったとされている)事故である。

 この本は、ノンフィクションの形でこの事故の経過を詳細にまとめている。

 メチルイソシアネートは少量でもきわめて有害な試薬である。私自身、この試薬を用いた合成実験中に、ゴーグルのずれを直そうと、作業をしていた手袋を顔に近づけただけで目に激烈な痛みを受け、目が開けられなくなり、数十分間失明状態に陥った。危ない試薬であることを承知していたので、実験中には補助実験者を側に待機させていたために、洗眼などの初期治療を速やかに行うことができたため、失明には至らなかった。あのときの激烈な痛みを思い出すと、40tものメチルイソシアネートに襲われた被害者の苦しみはいかばかりであったろうかと、恐怖する。

 事故分析の三大要素、人間、設備、環境にわけて、この事故を解析してみる。

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2016.01.05

書評「グリーンケミストリー」(江頭教授)

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今回紹介するのは

ポール・T. アナスタス, ジョン・C. ワーナー 著、渡辺 正、北島 晶夫訳 「グリーンケミストリー」丸善(1993)

です。

 「グリーンケミストリー」。

 日本語で言えば「環境に優しい化学」というべきものですが、その具体的な内容は漠然としています。本書はその内容を具体的な12の規則にまとめた「グリーンケミストリー12箇条」を示したことで知られています。

 グリーンケミストリー12箇条については本ブログでもすでに片桐教授が解説していますが、以下のものです。

  1. 廃棄物は「出してから処理ではなく」、出さない
  2. 原料をなるべく無駄にしない形の合成をする
  3. 人体と環境に害の少ない反応物、生成物にする
  4. 機能が同じなら、毒性のなるべく小さい物質をつくる
  5. 補助物質はなるべく減らし、使うにしても無害なものを
  6. 環境と経費への負担を考え、省エネを心がける
  7. 原料は枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る
  8. 途中の修飾反応はできるだけ避ける
  9. できるかぎる触媒反応を目指す
  10. 使用後に環境中で分解するような製品を目指す
  11. プロセス計測を導入する
  12. 化学事故につながりにくい物質を使う
この12箇条には化学物質の合成・開発から量産までいろいろなレベルでの行動が含まれています。
 別の言い方をすると、12箇条は応用化学の研究者にも、化学工学の技術者にも、同時に心掛けるべき行動指針を与えている、ということです。化学産業による汚染の主な原因は化学工場ですから、化学工学(化学工場を設計する学問)への行動指針は当然あるべきですが、あえて応用化学の研究にも提言を行っている点が注目されます。

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2016.01.04

Pacifichem 2015に参加してきました(森本講師)

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 先月12月中旬に開催された”Pacifichem 2015”、正式には”THE INTERNATIONAL CHEMICAL CONGRESS OF PACIFIC BASIN SOCIETIES 2015”(2015 環太平洋国際化学会議)という国際会議に参加し、発表してきました。

 この国際会議は5年に一度ハワイ・ホノルルで開催される、環太平洋の7つの化学会(日本、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、中国)が主催する学会です。今回は12月15日から20日までの期間に開催され、18,000件を超える口頭・ポスター発表があり、毎回非常に大きな規模の学会になります。口頭発表では人工光合成(二酸化炭素還元)、またポスター発表では光機能性金属錯体に関する発表を行ってきました(写真はポスター会場の様子、もう一つの写真は発表と関係ないですが朝ホテルから見えた二重の虹です)。

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2016.01.01

年頭のご挨拶 ~ 2016年の応用化学科(山下学科長)

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 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

 2015年、多くの期待を担って工学部応用化学科が始動しました。本学の理念と新しい工学部のコンセプトに賛同し魅力ある応用化学科を作り上げる希望にあふれた力量ある教員が集い学科の立ち上げを行いました。4月に元気あふれる第1期生を迎え、教員も学生も一体となって初年度の教育が始まりました。化学基礎による化学の導入教育、FSやコーオプ演習による人格形成を行い、また、工学基礎実験は化学の醍醐味ともいえる実験の楽しみを味わうとともに正確なデータの記述方法やレポートの作成方法を学びました。後期にはいよいよ有機化学、物理化学、無機化学が開講され、大学の化学の世界への扉が開かれました。

 その間、教育改善のための授業参観や学生の補習教育なども行われ、全教員が親身になって学生をケアし学生の才能を伸ばす試みに注力しました。また、大学ー高校連携講座や模擬講義、高校訪問でも学科独自に高校の化学教員との連携をはかり有意義な成果を上げつつあります。

 学生にとっても教員にとっても新しい学科に入学し、あるいは赴任することは「チャレンジ」に他なりません。新しいものにチャレンジしようという各々の内なる思いが一歩、一歩実現に向けて進む様はありがたい思いに満ちており、こうした中で、新応用化学科が初めての新年を迎えたことは大変に感慨深いものがあります。

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