高分子固相光反応の不均一性(山下教授)
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応用化学科が発進し1年が過ぎようとしています。学科には元気な1年生を迎え、教員も学生も希望にあふれ新鮮な気持ちで第1年目の講義や実験がスタートし、ました。応用化学科にはまだ4年生がいませんが、応用化学科に赴任した教員の研究室には既存学部(応用生物学部、コンピュータサイエンス学部、メディア学部)から学生が所属し、学生たちにとっては正にチャレンジングな卒業研究に挑戦しました。当研究室にもコンピュータサイエンス学部から学生が来て高分子材料の開発や光機能材料の開発を行いました。中でも、今年度大きな進歩を遂げた研究をご紹介します。
今日の先端機能デバイスの多くは「光」を用いています。たとえば超高速計算機の「京」の電子回路を作るためには数十ナノメートルの精密微細加工が必要であり、光リソグラフィーの技術が活用されています。身の回りのDVDやBlueRayなどの録画機は光で情報を記録しています。このような光で反応する分子を設計するのが光化学の分野の仕事です。通常の化学反応はフラスコ中に入れた溶液を加熱し反応させますが、光化学反応では分子に光を当てることにより、光励起状態を経て、通常の熱反応では起こせない様々な反応を高速に起こさせることができるのです。
これらの材料を設計する上で光励起状態の分子の「反応論」を解明することが重要になります。
しかも、有機合成ではフラスコなどの溶液中での反応を主として扱いますが、上述のような機能デバイスの反応は固相で行われるため、溶液中の反応とはさらに大きく異なっているのです。高分子固相中には自由体積 (本ブログ「身の回りの真空地帯(山下教授)」参照 [2015.05.28]) と呼ばれる空間があり、そこに機能分子が存在していますが、機能分子の回りの空間の大きさや環境によってその機能分子の反応性が異なってくるのです。したがって高分子固相中の機能分子の反応論は単一のものではなく、様々な分布をもつ反応論の重ね合わせが観測されています。その観測値を解析し、高分子固相中の反応論の不均一性を正確にしることにより、より優れた機能をもつ光反応材料を開発することが可能になります。当研究室で卒業研究を行った学生は新しい解析プログラムを作製し、見事に高分子固相反応速度論の解析に成功しました。
この成果は本年度の国際会議で発表する予定です。これも、化学とコンピュータサイエンスという異分野の人材のコラボによる成果の一つの例です。
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