緑化工学会シンポジウムで発表してきました(江頭教授)
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緑化工学会のシンポジウム、正確には
日本緑化工学会 乾燥地研究部会 第21回公開シンポジウム
「乾燥地の生態系とその課題 5
西豪州における温暖化対策と塩害・湛水害対策植林」
というタイトルで、私は以前このブログでも紹介した乾燥地緑林による炭素固定の研究について紹介しました。
温暖化問題の原因となっている大気中への二酸化炭素の蓄積を緩和するためにはどうすれば良いか。省エネルギーが第一だ、という点は前提として、大量の二酸化炭素を固定することによる緩和の手段を考えるとすれば、結局は膨大な量の炭素をどこに、どのような形態で固定するのか、という課題に行き当たります。
一つの可能性として考えられるのは陸域の生態系を利用して、生物やその死骸として炭素を固定することが考えられます。樹木は比較的少ない肥料成分(特にリン酸、カリ)で大きなバイオマスを蓄積することができるため、非常に有望な炭素固定の担い手です。
すでに存在する森林を管理することでより多くの炭素を固定させることも必要ですが、現時点で植生が非常に乏しい乾燥地(沙漠など)への植林によって新たな炭素固定を実現することを目標として、本研究を進めています。
発表の中では爆薬を利用した植林技術について述べたところ、シンポジウムの総合討論の中でそれについての議論が盛り上がりました。以下はその論点について書きましょう。
そもそも、なぜ爆破で乾燥地での植林が可能なのでしょうか?
西オーストラリアの対象地では雨が降ったあと、水の流出(Runoff)とうい現象がおきます。土壌が浅いため雨水が地面にしみ込まず土地の低い方に向かって流れてゆく、という現象です。水の流れ着く先には塩湖があって大量の雨水が塩に汚染された後、むなしく蒸発してしまいます。
緑化にさいしては爆薬によって土壌をひっくり返し、そこに雨水が吸い込まれるような工夫をしています。その水を使ってユーカリの木が育つのです。(一口にユーカリといっても500種はあるそうです。Eucalyptus camaldulensis と言うべきですね。)
さて、ユーカリからみればいままで使えなかった雨水が使える様になった、ということですが乾燥地の他の場所、たとえば塩湖からみればいままで流れてきた水が来なくなった、ということでもあります。同様の植林が大規模に行われれば次第に塩湖の環境が変化してそこにすでに存在している生態系を壊してしまうのではないでしょうか?これが会場の質問者の意見です。
その通り。でも、たとえそうだとしても温暖化を防ぐためなら実施すべきなのではないでしょうか。乾燥地の塩湖の生態系の保全という価値と温暖化の防止にたいする貢献と、どちらを重視するべきなのでしょうか。
これは複数の価値を如何に両立させるか、という課題であり、工学では解決できない問題です。しかし、工学抜きでも解決できない問題だと思います。サステイナブルな社会を目指す工学の研究にはつねにつきまとう問題なのかも知れません。
短い討論の時間では、もちろん結論が出たわけではありませんが、それでもそこに問題がある、ということをはっきりさせることができたのは良かったと思っています。
おまけ: "Green Chemical Engineering Society of Japan"という組織を作ったら「日本緑化学工学会」、略して「日本緑化工学会」になるかもしれませんね。「緑」は「りょく」ではなくて「みどり」と読むのでしょうか。
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