講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-1 SN2とSN1とE2とE1(片桐教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
有機化学1の講義は、反応の話に入りました。
反応をどのように捉えればよいのかです。ずばり、電子的要因と立体的要因で考えましょう。
ΔG = ΔH − TΔS は物理化学で習う最も基本的な式の一つです。厳密には異なりますが、有機化学ではΔHを電子的要因、ΔSを立体的な要因として捉えると、わかりやすくなります。
SN2とSN1を比べると、SN2反応の方がより進みやすいといえます。これは遷移状態や中間体の電荷の存在や集中度によります。SN2反応の遷移状態では、その陰電荷は求核剤と脱離基に分散しています。一方、SN1の中間体の陰電荷は脱離基に、陽電荷はカルボカチオンにあり、その電荷は局在化しています。ですから、SN2反応の起こらない場合のみSN1反応が起こります。そのため、SN2とSN1の分かれ目は、SN2反応機構の阻害要因である有機ハライドの反応中心炭素(求核剤の攻撃を受ける炭素原子)周りの立体障害になります。SN2反応は立体障害により制限され、そのハライド基質の反応性は、メチル基>1°>2°の順になり、3°ハライドはSN2反応をほとんど起こしません。一方、SN1反応はそのカルボカチオンのできやすさに支配されるために、3°>2°>1°となります。
2つの反応機構を支配している要因は、SN2では立体的なもの、SN1では電子的なもの、と異なります。しかし、構造的に見るとこの2つの要因による基質の反応性が相補的になっているのは興味深いことです。
E2脱離において、その立体選択制はZaitsev則に従います。これは生成するオレフィンの熱力学的安定性によりもので、置換基の多い少ないによる安定化の効果によります。したがって、この制御因子は電子的なものと考えられます。しかし、塩基としてtBu-OKのようなかさ高いものを使うと、塩基は立体的に込み入った場所の水素に近寄れません。そのため、生成物オレフィンはZaitsev則に従わないものになります。
また、求核剤が炭素を攻撃すれば、SN2反応になります。しかし、求核剤は塩基としても働けますから、脱離基と脱離可能なプロトンの位置関係がAnti-periplanar(またはまれにSyn-periplanar)ならば、SN2よりもE2反応が優先します。
SN2とSN1とE2とE1を対比して学ぶ目的は、化学反応における電子効果と立体効果の関係を理解するためです。その意味で言えば、マクマリーの第8版のように、SN2とSN1とE2とE1を付加反応よりも後に教えるのは、少し順序が違うのかな、と片桐は個人的に思います。
「授業・学生生活」カテゴリの記事
- 研究室配属決定(江頭教授)(2019.03.18)
- Moodleアップグレード、など(江頭教授)(2019.03.14)
- 大学院のすすめ 番外編 「学位って何だろう」(片桐教授)(2019.03.05)
- ハーバーとボッシュ、偉いのはどっち? 4年目 (江頭教授)(2019.02.22)
- インフルエンザの季節ですね。(パート2)(江頭教授)(2019.02.08)