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講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-2 Pure SN2反応?(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。

 講義ではSN1反応とかSN2反応とか分別しています。しかし本当は、その分別は大変困難です。その最も有力な根拠の一つはWalden反転です。立体特異的に光学活性体から立体中心が反転した光学活性体が得られれば、SN2反応であり、ラセミ化すればSN1反応と判定されます。しかし、実際の反応では、SN2型の反応でも完全な立体特異性を示す例はまれです。もう一つの根拠となるのはカチオンの転位反応です。もしカチオン特有の転位が起こればSN1と判定されます。

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 G. Olahは純粋なカルボカチオンを安定な形で得ることにより,ノーベル化学賞を得ました。しかし、カルボカチオンはきわめて特殊な条件下でしか安定な形で得ることはできません。実際にはカチオン中心の近傍に求核剤や脱離基アニオンが存在すると考えられています。

 同様に、PureなSN2機構で進む反応もまれなものです。ラセミ化の程度はわずかでも、反応中心炭素上にはわずかに陽電荷が発生すると考えられています。

 結局、SN2とかSN1とかの反応機構は実際の反応を説明するための道具です。決して、実際の反応はSN2とかSN1とかの反応機構に「従う」わけではないと言うことです。説明は説明にすぎない、ということです。でも、そのように考えると理解しやすい、ということです。

片桐 利真

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