講義 「有機化学1」 第10回目の講義から-4 付加と脱離を分けるもの=エントロピー効果(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
置換反応と脱離反応の違いは、求核剤がハロゲンのついている炭素原子を攻撃するか、それとも塩基として水素を引き抜くかの違いであると理解されます。その差を分けるのは電子的な要因と立体的な要因の兼ね合いになります。そして、その兼ね合いを決める要因の一つに「温度」があります。
高校の教科書には130-140℃に加熱した濃硫酸中にエタノールを加えると、ジエチルエーテルができるとされています。一方、160-170℃に加熱した濃硫酸中にエタノールを加えると、エチレンができるとしています。同じ基質、同じ試薬(酸触媒)でも、温度の違いにより異なる生成物が得られるわけです。この現象も「第10回目の講義から-1」で出てきた
ΔG = ΔH − TΔS(Tは温度)
で議論できます。
ΔSは「乱雑さ」表します。反応前に比べ、後の分子の数が増えればΔSは大きな値、減ればΔSは小さな値になります。ここで、ジエチルエーテルをつくる反応は、エタノール2分子から、エーテル1分子と水1分子をつくります。したがって、分子数の増減はありません。一方、エチレンをつくる反応は、エタノール2分子から、エチレン2分子と水2分子をつくります。つまりΔSは大きな値になります。ですから低温では− TΔSの影響は小さいために、ΔH的に有利な付加反応になります。一方、高温ではTが大きくなり、それにより− TΔSの効果が大きくなり、エチレン生成の反応の活性化エネルギーを大きく下げ、エチレンの生成が優先されます。
高校の教科書では丸憶えしてきた内容も、大学ではエネルギー的に理解しましょう。このような物事の捉え方こそ、有機化学を学ぶ醍醐味です。
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