講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-2 核磁気共鳴測定の歴史(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。
核磁気共鳴装置は1924年にパウリが元素のうち、その原子番号が奇数のものおよび質量数が奇数のものは磁石として働きうるという予想を元に開発されました。第二次世界大戦時のレーダー技術の進歩により、皇室力安定な電波源が使用できるようになり、実際に検討が進みました。そして、1945年の12月にパーセルが、1946年の1月にブロッホがほぼ同時に核磁気共鳴スペクトルを観測し、その歴史が始まりました。これらの業績により1952年には二人がノーベル物理学賞に輝きました。
1951年にはその核種の周囲の電気的磁気的な環境により観測される周波数の異なる現象、化学シフト(ケミカルシフト)が発見されました。そして、1953年には大学発のベンチャーとしてVarian社が装置の商業化に取り組み、1961年にはじめての商業機であるVarian A-60が発売されました。その間、1954年にはサンプルの回転により分解能が向上すること、それによる微細構造(J カンプルング)もみつかりました。これによりNMRから得られる大きな情報、化学シフト、J カップリング、積分が出そろいました。
そして1960年代にはトランジスターの開発によりコンピュータ技術が進歩し、パルス状の電波を利用したFT-NMRが開発されました。さらにコンピューター技術の高度化により、測定技術もその解析技術も大きく進歩し、1980年代にはエルンストらが2次元のNMRの開発に成功しました。ほぼ同時期にイメージングに用いるMRIも誕生しました。エルンストの仕事は最初は既存技術の組み合わせであるとして高く評価されませんでした。しかし、同じ装置で多種多様な情報を取り出せるパルス技術の展開は実用的には大きな意味を持ち、エルンストは1991年にノーベル化学賞を受けています。今世紀に入ってから、超伝導磁石の技術も大きく進歩し、1GHzのNMRも登場しました。
NMRは叡智の結晶です。そして精密な機器です。丁寧に扱わなければなりません。これからNMRは協力な磁場を扱う技術の進歩による高周波数化により、シグナル/ノイズ比(S/N比)が向上するでしょう。またコンピューター処理速度の迅速化によるデーターポイントの緻密化とさらにシム技術の進歩により、高分解能化するでしょう。さらにコンピューター技術の進歩は測定結果の多次元的な処理を可能にし、その測定から得られる情報の多面化も進むと思われます。
これまでの技術の流れを見れば、これからの進歩の方向性や,それに必要な基盤技術も見えてくるものです。
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