講義 「有機化学1」 第13回目の講義から-3 核磁気共鳴装置の精度(片桐教授)
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このシリーズでは、片桐の担当している有機化学1の講義のポイントを読み物にして、解説して行きます。
さて,有機化学1もいよいよラストスパートです。今回は有機化合物の構造決定についていくつか…。
核磁気共鳴では化学シフトが重要な情報として得られます。その単位はppmです。これは1,000,000分の1を表しています。つまり、1ppmの精度で測定をしたいのなら、1,000,000分の1の精度で磁場をコントロールしなければなりません。実際には化学シフトは小数点以下2桁まで欲しいので、100,000,000分の1の精度が求められます。さらにJ カップリングでは0.1 Hzの値が必要になります。400MhzのNMR装置では、1/4,000,000,000つまり40億分の1の精度で磁場を安定させ、電波を安定させなければなりません。これはおおよそですが地球一周に対して1cmの精度に相当します。途方もない精度です。
この精度を空間3次元的にはサンプルのある環境全体に均一に保ち、さらに時間軸的には同じサンプルの測定の間中(炭素のNMRでは数時間〜1日)保ち続けなければならないのです。だから、装置は温度変化のない環境で使用されます。温度変化があれば装置の金属部品が熱膨張伸縮し、このような高精度での磁場の安定を保つことができません。
さて、この磁場の精度を支えているのがシムコイルです。測定装置のサンプルを入れる領域に何十本のコイルを配し、それに微弱な電流を流し、生じる磁場で精密に磁場環境を調節します。
このシムコイルはとっても細い銀線でできています。ですから、測定装置内でサンプル管が割れたり、汚染されたりすると、さびて切れてしまいます。そうすると、磁場の空間的な均一さは保てなくなります。そしてその修理は高額であり時間がかかります。もし、サンプル管を壊したりしたら、すぐに担当の先生に知らせて、洗浄しなければなりません。
便利で精密な機械ほど、繊細で壊れやすいことを忘れないでください。
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